2024/12月(7~37)

 初めて会ったときから、感触は悪くなかった。こじんまりとした飯屋のウェイトレス。店内を小走りしながらも、呼べば「はーい!」とにこやかに微笑んでくれる。住民から愛される看板娘という感じ。
 土産を必ず持参した。その度に彼女は「内緒ですよ」とサービスで返してくれた。
 ある日、俺が彼女に渡したのは花束だった。
「これは店にじゃなくて、君へ」
 目を丸くさせながら、ぽっと照った頬が印象的だった。

 女性の扱いには幾分慣れた俺である。彼女と恋人然とした付き合いが始まったのは偶然なんかじゃない。
 俺が来れば花が咲いたように笑み綻び、土まみれの洋服に抱きついてくる。青い夕闇の中で交わした口づけに顔を覆ったのも、ウブっぽくて良い。
 さんざ浮名を流してきた俺だけど、漸く腰を落ち着けられるかも・・・そう思った矢先の出来事だった。

「イーガ団って・・・知っていますか」

 談笑中、彼女がポツと漏らした言葉に、心臓が飛び跳ねた。
 顔が酷く強張っている。もしや、バレた? 唇を引き攣らせながら「知らない」と首を横に振る。
「女神に仇なす集団の名前です。姫巫女様の命をつけ狙っているとか」
「へ、へぇ・・・。物騒だね」
「私は彼らを、探していて」
 なんで、と口にした声が上ずった。
「私の父が、そこにいるらしいんです」
「あ、イーガ団とやらをつきとめて、お父様と感動の再開を・・・」
「違います、憎いんです。母も私も捨ててイーガに寝返った父を、見つけ次第殺してやりたい」
 ぱっと顔が持ち上がる。
「だから、ハイラルを渡っている貴方なら、なにか知らないかと思って」
 息遣いが震えていた。いつもにこやかな瞳が吊り上がるのを、初めて見た。
 俺は、視線を逸らすことしかできなかった。
「・・・ごめんな、何にも知らないよ」

 帰途の準備を済ませると、彼女に「あの」と呼び止められた。
「次に会えるのはいつですか?私・・・会えない間、寂しくて」
 俺は奥歯を噛んだ。それから彼女の肩を優しく叩く。
「ごめんな、きっとすぐに落ち着くと思うから」
「きっとですよ、きっと。・・・貴方のこと、待ってます」
「ありがとう。元気でな」
 歩き出し、暫くして一度だけ振り返る。それからは前を向いて、ただ黙々と進んだ。

 木の影に入った時、俺は猛烈に嫌気がさして「はぁ~~~」とその場に蹲った。

「今度こそ・・・良いと思ったのに・・・」

 パパのバカヤロウ。雑草を引きちぎってその場に投げた。
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