2026/1月(38~67)
「──というわけだ。今日はコーガ様も来られる。店回りの掃除を終わらせておくように」
朝である。アジトの玄関ホールで必ずおこなわれる商業班の朝礼が、解散の言葉と共に漸く幕を閉じた。ダラダラと気だるげに物販に散っていく構成員たち。商業班の幹部は熱意ある堅物ではあるのだが、如何せん彼が管理する団員らは放埓者ばかりである。
「では、守衛の業務をよろしく頼む」
「はいはい、ごゆっくりしておくんなまし。旦那」
商業班のまとめ役と、表玄関の守衛を兼任している忙しい男だ。もう既に足を進めながらも、バナナ売りへ最後にそう告げて、筋肉質な巨体は廊下の奥へと消えていった。
さて・・・暫し鬼の居ぬ間の洗濯タイムである。
「バナナ売りやい。バナナ売りやい」
玄関ホールの対角線上。ちょいちょいと指先を振っているのは、武器屋の団員であった。
「小腹が空いちまった。バナナ買いてえんだが、ちょうど良いやつあるかい。ちょいと青いやつがいいんだが」
「そうさなぁ・・・今並んでンのは既にかなり黒いし、すぐ食った方が良さそうだがね。最近あったけえから尚のこと!」
「あ~、だったら半房がいいな。全部じゃ食い切れねえ」
そこで武器屋が声を張り上げる。「誰か半分コするやつ、いねえか?」
「ア、俺も食いてえな」と返事を返したのは鉄の棘板を販売する男だった。
「ヨッシャ、じゃあ棘売りとオレとでバナナ一房な」
「弓屋はいいか?」と武器屋が声を張り上げる。問われた当の弓売りの団員は、胡坐を掻いてじっとしたまま応えなかった。馴れ合いを好まない、寡黙な男なのだ。
言葉ない返事に武器屋は立ち上がり、青ルピーを二つひっつかんだ。
「よおし、じゃあ〇ルピー行くぞ~!」
物販の敷物を跨ぎ、バナナ売りに対峙する。
それから両手を高々と上げ、重心を後ろに引きつつ振りかぶり、第一投。──投げました!
放られたルピーは山を描きながらくるくると空中で煌めく。絶妙なタイミングで高度を下げた青色は、誘われるようにバナナ売りの手の平に落ち、無事にキャッチされた。息のあったナイスプレーである。
第二投目も無事に受け取ると、次に「いくぞ~」と手を振ったのは棘売りだ。あとは以下同文。バナナ売りは「ハイハイ確かに」と店の銭箱にルピーをしまう。
バナナ売りは、ゴリゴリと首を大袈裟に回しながら、バナナを半房もぎ取った。
「んじゃ~次は俺が投げっから」
「ばかやろ阿呆か!!バナナはマジでやめろ!」
「熟れてるって言ったのお前じゃねえか!潰れんだろが!」
「なんでぇ、俺ばっかに脚使わせやがって。てめえらで取りに来いってんだ。ルピーは投げる癖によお!」
「そんくらいサービスしろよ~ケチだねぇ」
「こちとらサービス料も貰わずに営業してンの! よ~しマジで投げるからな。じゃなけりゃお前が取りに来い。こいつぁ人質だ」
「お前さぁ、だったら武器を買ったら、小太刀でも太刀でも投げて渡していいってことになるが?」
「む」
「いいんだよな~、投げちまうぞ~お前の首刈っちまっても知らねえぞ~」
「ギャハハハ!ばーかマジでやめろ! 洒落になんねえんだわ、おいマジでやめろって!!」
・・・
「帰ったぞ。頼まれ事は済ませたか」
シンと静まり返った玄関に、幹部が廊下の奥から戻ってくる。
店先には砂粒一つなく、行儀よく並ぶ商品の数々は、主君を迎えるに相応しく整頓されている。
「・・・ん、これは」
不意に屈んだ幹部が拾ったのは、鈍く光る刀の切っ先。
「おい、なんだこれ。なぜこんなところに、こんなものが落ちてる?」
商業班一同は、各店先で粛々と聞かないふりするだけであった。
朝である。アジトの玄関ホールで必ずおこなわれる商業班の朝礼が、解散の言葉と共に漸く幕を閉じた。ダラダラと気だるげに物販に散っていく構成員たち。商業班の幹部は熱意ある堅物ではあるのだが、如何せん彼が管理する団員らは放埓者ばかりである。
「では、守衛の業務をよろしく頼む」
「はいはい、ごゆっくりしておくんなまし。旦那」
商業班のまとめ役と、表玄関の守衛を兼任している忙しい男だ。もう既に足を進めながらも、バナナ売りへ最後にそう告げて、筋肉質な巨体は廊下の奥へと消えていった。
さて・・・暫し鬼の居ぬ間の洗濯タイムである。
「バナナ売りやい。バナナ売りやい」
玄関ホールの対角線上。ちょいちょいと指先を振っているのは、武器屋の団員であった。
「小腹が空いちまった。バナナ買いてえんだが、ちょうど良いやつあるかい。ちょいと青いやつがいいんだが」
「そうさなぁ・・・今並んでンのは既にかなり黒いし、すぐ食った方が良さそうだがね。最近あったけえから尚のこと!」
「あ~、だったら半房がいいな。全部じゃ食い切れねえ」
そこで武器屋が声を張り上げる。「誰か半分コするやつ、いねえか?」
「ア、俺も食いてえな」と返事を返したのは鉄の棘板を販売する男だった。
「ヨッシャ、じゃあ棘売りとオレとでバナナ一房な」
「弓屋はいいか?」と武器屋が声を張り上げる。問われた当の弓売りの団員は、胡坐を掻いてじっとしたまま応えなかった。馴れ合いを好まない、寡黙な男なのだ。
言葉ない返事に武器屋は立ち上がり、青ルピーを二つひっつかんだ。
「よおし、じゃあ〇ルピー行くぞ~!」
物販の敷物を跨ぎ、バナナ売りに対峙する。
それから両手を高々と上げ、重心を後ろに引きつつ振りかぶり、第一投。──投げました!
放られたルピーは山を描きながらくるくると空中で煌めく。絶妙なタイミングで高度を下げた青色は、誘われるようにバナナ売りの手の平に落ち、無事にキャッチされた。息のあったナイスプレーである。
第二投目も無事に受け取ると、次に「いくぞ~」と手を振ったのは棘売りだ。あとは以下同文。バナナ売りは「ハイハイ確かに」と店の銭箱にルピーをしまう。
バナナ売りは、ゴリゴリと首を大袈裟に回しながら、バナナを半房もぎ取った。
「んじゃ~次は俺が投げっから」
「ばかやろ阿呆か!!バナナはマジでやめろ!」
「熟れてるって言ったのお前じゃねえか!潰れんだろが!」
「なんでぇ、俺ばっかに脚使わせやがって。てめえらで取りに来いってんだ。ルピーは投げる癖によお!」
「そんくらいサービスしろよ~ケチだねぇ」
「こちとらサービス料も貰わずに営業してンの! よ~しマジで投げるからな。じゃなけりゃお前が取りに来い。こいつぁ人質だ」
「お前さぁ、だったら武器を買ったら、小太刀でも太刀でも投げて渡していいってことになるが?」
「む」
「いいんだよな~、投げちまうぞ~お前の首刈っちまっても知らねえぞ~」
「ギャハハハ!ばーかマジでやめろ! 洒落になんねえんだわ、おいマジでやめろって!!」
・・・
「帰ったぞ。頼まれ事は済ませたか」
シンと静まり返った玄関に、幹部が廊下の奥から戻ってくる。
店先には砂粒一つなく、行儀よく並ぶ商品の数々は、主君を迎えるに相応しく整頓されている。
「・・・ん、これは」
不意に屈んだ幹部が拾ったのは、鈍く光る刀の切っ先。
「おい、なんだこれ。なぜこんなところに、こんなものが落ちてる?」
商業班一同は、各店先で粛々と聞かないふりするだけであった。