2026/1月(38~67)

「今回持ってきたツルギバナナは4割をここから地底へ、あとは2、2、2で地上支部へ配分するように!」
 ゲルド地方はカルサー谷。古代遺跡を間借りするイーガ団は、今日も今日とてバタバタ忙しない。
 アジトの最奥に拓かれた深穴の間と呼ばれる広間には、各地方からの物資が集められていた。彼らの主食ともいえるツルギバナナを始めとし、ハテノから取り寄せたハイラル米に乾燥肉。それに刀剣や弓、着替えの装束なんかも木箱に詰め込まれ、これから各地へ届けられるのを待っている。
「ほら!急いで荷物を積んでいけ! ゲルド近くをコーガ様が探索なさってるらしいんだ、せめてツルギバナナだけでも受け取っていただき、鋭気を養っていただかないとっ」
「幹部~! とりあえず地上支部へ送る分が先に準備できましたが!」
「あ~、とりあえず後回しにしてくれ! そっちが終わった部員はこっちの手伝いだ! 急げ!」
 ゆうに十人を超える構成員たちに指示を出すのは、流通班を取り仕切る幹部役の男だ。ゾロゾロと連なる団員にあちらこちらと指をさせば、打って響くとばかりに物資の山へ散っていく。幹部は手をパンパンと打って「急げ~!」と団員達をけしかけた。

「そこのお前! 商業班にこれを渡してきてくれ! 武器屋が対応してくれるはずだ」
 ひとまずの積み作業が終わり、今度は運び作業へと移る。気球型のゾナウギアで深穴に沈みゆく団員を見送った後、次に幹部が声をかけたのは、マリッタ支部へ向かうという団員だった。
 商業班は数名の団員で構成された部班であり、彼らが物販を広げているのはアジトの表玄関だ。深穴の間からは距離にして数百歩の場所にある。
(直接行けば良いのに俺に任せるなんて、きっと幹部殿は玄関へ行く時間すら惜しいのだろう。なんせやる気に満ちた忙しい人だから)
・・・と、マリッタ行きの団員が思ったかどうかは分からない。しかし団員はキビリと直立し、「任せてください!」と快く受け取っていった。力強い一礼を残し、表玄関へと去っていく。
 後に残ったのは、流通班の幹部ただ一人だけだ。
「・・・さてと」
 先ほどまで所狭しと作業していた団員たちが嘘のように消え去って、広間にはシンとした静寂が広がっていた。カサカサとタンブルウィードがどこからか転がってきた。空の高いところでは、シマオタカがぴーひょろろしている。
 幹部は辺りを見回してからテクテクと歩いて行き、足で砂を散らしてから地面に腰を下ろした。高地から冷たい風が吹き込んでくる深穴の間で一休みするなら、日向を探すのがワンポイントテクニックだ。
 おもむろに取り出したるは一本のツルギバナナ。これから支部へ持って行くという荷物の中から、作業中にもいでおいたバナナだった。迷いのない手つきで皮を剥き、仮面の隙間から齧り取る。もぐもぐ。もぐもぐ。青い空を見上げ、溜息。今日はいい天気だなぁ、おてんとさんがあったけえや。
 これは決してサボりじゃない。仕方のないことなのだ。指示係とは、指示する人間がいなくなれば暇になる。せめて誰か一人でも部下が帰ってくるまで待機待機。ああいかん、つい瞼が重くなってくるなんて。迂闊だ。ああ、うか、つ。
「お前ッ、何をサボっとるか!」
「あいてッ」
 ごちん。頭に急激な痛みが走る。思わず押さえて振り返れば、先達である商業班の幹部が、仁王立ちで自分を見下ろしていた。
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