2026/1月(38~67)

 朝、作業台の前に就く同僚の姿に、思わず二度見してしまった。
「お前・・・その腕どうしたんだ」
 白い包帯でグルグル巻きにされた右腕。首に回された布帯で吊られたそれは、動かないように真っすぐな木で固定されているようだ。
 俺たちゃお上に刃を向ける戦闘集団・イーガ団。怪我が枚挙に暇ないのは分かってるが、俺とコイツはゾナウギア兵器を弄りまわす研究班だ。アジト内で設計図に向かうしか無いってのに、こんな大怪我する機会が一体どこにある?
 同僚は、ほんの僅か首を回して、イーガ印の目尻だか目頭だかを俺に覗かせた。
「珍しいな、君が話しかけてくるなんて。明日は雨か?」
「んなこたどうでもいい。どうしたって聞いてんだよ。魔物か?」
「いや・・・スベルデスを走らせたとき、壁に激突してな」
 自分の造ったもので壁に激突だと。「そりゃあ、なんというか」こいつが設計したスベルデスは風力を利用するマシンで、操縦にはかなりの技巧が必要だ。使いこなせる人間はアジト内にほとんど居ないわけだが、まさか造った本人すら怪我をしちまうなんて。
「・・・間抜けだな」と口に出たのは、確かに俺様の我慢が足りなかったんだとは思うよ。
「なにッ?」と耳ざとく反応した同僚が「そりゃ君は開発者としての責任を果たしてないからなトゲックスを造るだけ造って故障したら修理しとけば良いわけだからいい気なもんだ。私は君と違って自らの造った美しいスベルデスについて理解を深め責任を持ちさらなる能力向上を掲げトゲとソリの角度をミリ単位で考えているのに君と来たら」
なんて捲し立ててくるものだから、「うるっせぇ!」と思わず怒鳴ってしまった。二人でフンッと鼻を鳴らしてハイ解散。あいつを気にかけるなんて、やめだ、やめ!



 夕餉の時刻だ。腹が鳴る音を皮切りに伸びをすると、肩回りがバキバキに凝り固まっていた。今日も良く働いたもんだ。
 同僚の姿はもう既にない。いつもは俺様の方が先に業務を終えるんだが、さすがに腕が不便で引き上げたのかもしれない。ずっと「あーもう」「くそ」とやかましかったから。
 一通りを片付けて食堂へ行けば、やっぱり。ほどほどに埋まる座席の中、部屋の隅に同僚の姿があった。
 今日の夕飯は白米に、味噌汁に、カラカラコヨーテのカラカラからあげ。あとはもちろん、イーガといえば、のツルギバナナ。食事担当から定食の盆を受け取って振り返る。さてどこに座ろうか。と見回す間、なんとなく同僚の姿を見ちまったのに、大した理由なんてなかった。
 同僚は、もちろんだが左手で箸を持って飯を食っていた。摘まんだ白米をぽとりと落としたり、奇妙に首を捻りつつどうにか口へ運んだり。カラカラコヨーテのカラカラからあげなんか箸で刺してパクリだ。味噌汁は、まぁ、啜るよな、普通に。
 だけど、バナナは? 一旦机の上に左手を置いたまま動かなくなる。仮面の下で見つめながら何を考えているのか。おもむろにそっと掴んで、手の中に掴んだ黄色を改めてジッと見て、親指を食いこませて、左手でもたもたもたもた・・・ああ、イライラすんな。
 ずんずんと大股で歩み寄った俺は隣にガチャン、と盆を置いて、彼奴からバナナを奪い取った。
「あ!?」
「貸せ、見てらんねえよ」
 すっ、すっ、すっ、と三動作でバナナの皮をむいてやった俺は、「ん」とぶっきらぼうにクリーム色の中身を突き出した。
 たぶん仮面の中でバナナと俺に視線を行ったり来たりさせてるんだろう。幾らか待ってやると、静々と左手が伸びてくる。それからぽつんと「・・・すまない」って小さい声。
 そんな態度を同僚に取られたくなくて、鼻を鳴らして隣に座る。それから俺は、次に何か言われる前に、カラカラコヨーテのカラカラからあげを頬張って豪快に咀嚼を始めた。
 同僚も静かにもぐもぐやり始める。暫くして「美味いな」と、微かな独り言が俺の耳を掠めていった。
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