2026/1月(38~67)

「すまねえが、珈琲でもいれてきてくんねぇか?ブラックひとつと、ミルクと砂糖を入れたやつひとつと」
総長室に業務報告へ行った折、まさか新たな任務を任されるとは思わなかった。
「こーひー、ですかっ?」と繰り返したのは、名前には聞き覚えがあっても、決して馴染み深い飲み物などではなかったから。それも、普段は茶を好む総長コーガに頼まれるとは、完全な不意打ちだ。
「炊事場の人間に頼めば準備してくれっから。俺様とスッパの分な、よろしく」
狼狽なぞひとつも気にしていない様子で飄々と告げる主君。一間あけて静かに座り込むスッパに視線を遣れば、重々しくもゆっくりと頷かれる。
団のツートップに頼まれれば断るにべもなく、構成員は「分かりました」と引き受けた。珈琲がどんなものか、色も匂いも味も知らないことなどは一旦蚊帳の外だ。炊事場の団員に頼めば準備してくれるのなら、自分は黙ってお膳係に従事すれば良い。

「・・・これが」
目の前に供されたのは、コップに湛えられた黒い液体。いや、淵に寄った泡が茶色みを帯びている。しかし一見して飲み物というよりは、焼き魚に若干量かける醤油みたいだな。
しかし、ヤバそうな見た目に反してなかなかニオイが良い。甘みを含んだ香ばしい香りだ。仮面をずり上げてすーっと匂いを嗅ぐと、体中が弛緩するようなうっとりとした心持ちになる。新茶を嗅いだ時もほおっと溜息をつきたくなるもんだが、見える景色が違うというか。
しかし、ここへ更にミルクと砂糖を足すとは、なかなか奇異な飲み方をするんだな。
胸の奥にある好奇心が、うずと震えたのを感じ取った。




盆に乗せた二つの珈琲。それを携えて構成員が戻るや否や、「おう、あんがとな~」とコーガはパッと顔を持ち上げた。
「俺、珈琲ってのを初めて見ました。良いニオイですね、こんな飲みもんがあるなんて」
「なー。話し合いが煮詰まったときなんかちょうど良いんだ。リラックスできて」
「でも苦いじゃないですかぁ」
「・・・お主、飲んだのか?」
「あ!いけね!」
ははは、と笑ってくれた主君のおかげで命拾いした構成員は、「じゃあ、俺はこれで」と部屋から立ち去っていく。
気配が完全に立ち去って言ったことを確認した後、スッパは主君の目の前に置かれた珈琲カップを入れ替えた。
黒い珈琲をコーガの前へ。そして、ミルクの混ざった薄茶の珈琲を、自分の目の前へ。
「・・・新人、でござるか」
「まあ、そうだろうな」
それから、二人でカップを持ち上げる。
会議は一旦休憩。仮面の隙間からズ、と珈琲を口に含んだ二人は、ほっと小さく息を吐き出した。
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