2024/12月(7~37)

 コーガ様に栄光あれ。度々イーガの団員たちが、士気を高めるために口にするフレーズだ。定期連絡の末尾にも、なんとなくその場に沈黙が降りたときにも、誰もがこの言葉を口ずさむ。もはや決まり文句。私たちの身命は彼の方のためにあり、彼の方が輝けば、我らの行く末も同時に明るくなるだろうという祈りにも似た格言。
 それは承知済みである。入団してからというもの散々先達から聞かせられてきたし、私だってその心根の元に団に従事している。
 だけども、じゃあそのフレーズを文字にして、セーターに編み込んだものを着られるかと聞かれたら、私はそうじゃないというだけで。

「お前にもな、貰ってきたんだ。彼女さんと一緒にどうぞと言われてな!」

 幹部さんから突きつけられたのは、とっても目立つ黄色い毛糸の編地に、件の標語が刻まれたセーター。おまけに中央にはコーガ様の両手ピースイラストが編まれている。なんとも手の込んだ逸品だ。・・・じゃなくて!
 いくら恋人からの贈り物といえど、さすがにそんな派手なセーターを着る気になれなかった。それになんと、同じものを彼が着衣済みだ。明るい性格の彼が着るには似合っているけれど、やっぱり私が着こなせるとは思えない。
 「えーと・・・」と返事に困っていると、この拒否したい気持ちには気付かなかったらしい。幹部さんは、くるりとセーターの向きを変えてコーガ様と真向いになり、それを高らかに持ち上げてみせた。
「きっと似合うだろうなーと思ったんだ。それにとても暖かい! 俺は正直、鍛錬でよく動くからあまり出番は無いんだが、お前は机に向かう時間が長いだろう? 朝晩は冷えるし、少しでもこういうのを着て、身体を大事にして欲しくてな」
「その心遣いは本当にありがたいです。とっても嬉しい。だけど、私には・・・ちょっと、その・・・」
「ん? どうかしたか?」
「えーと・・・なんというか、その・・・き、黄色って派手じゃないかな!って、思って」
彼は「あぁ」と笑った。
「大丈夫だ、アジト内で着る分には、派手でも業務に差しさわりはない。それにバナナを彷彿とさせるだろ? きっと羨望の眼差しで見られること間違いなしだぞ」
「私はなるべく注目されたくないんですが」
「それにな・・・恋人といえばペアルックという話を聞いたんだ。良い機会だな、と思って」
 私の肩にセーターを充てていた彼が、どこか照れたように呟く。確かにイーガ団員は、ペアルックどころではないもんね。
 この狭い岩戸の中、私と彼だけが黄色いセーターのペアルック。二人並んで立つ様相はきっとバナナの房みたいに見えるだろう。薄暗いアジト内を明るく照らし出すように、人の首を刈る集団の根城に佇む、二本のバナナみたいな私たち。
 「な、いいだろ?」と迫る彼に、私は大きく息を吸った。
「遠慮します!」
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