2024/12月(7~37)
最近、装束の上にセーターを重ね着するのが団員の間で流行っている。朝晩の寒さ対策で、縫製班が企画したものみたい。それをコーガ様が気に入ったらしく、団員がこぞって求めるようになった云々。編むのに時間がかかるから、なかなか手に入らない云々。
話を聞いた時は「私も欲しいな」って咄嗟に思った。でも実際に実物を目にしてそれは安直だったと、すぐさま思い直した。
「コーガ様に栄光あれ」という標語が編まれたセーター。その中央には、コーガ様が両手でピースしているドーンとした絵柄。
幾らなんでも、これを着るには勇気がいるだろう!と頭を掠めたのが言いようもない事実である。誓って言うけれど、コーガ様をバカにしているわけでもなければ、それをダサいだなんて思ったわけでもない。うん、ほんとに。ううん・・・ほんとに!
見せてくれた同部屋の子には「わーすごーいおしゃれー」と大人の返事をしておいた。欲しかったら頼んであげようか?と気を利かせてくれたので、「心の底から欲しいとは思っているけれど待つことになるだろうし大丈夫だよ、ありがとう!」と丁寧に断った。
さて、今日はゲルドキャニオンにある幹部詰所へ物資を送り届ける日だ。試験監督を一人でおこなっている幹部さんは巷の話に飢えている。私自身の話で彼の気を引ければ良いのだけれど、あいにくここ最近は変化のない日々でネタがない。せめてセーターの話をして、少しでも長く彼と喋れれば良いな。
崖に突如として現れる蛙の石像と、木の扉。ノックをすると、暫くしてガチャリと開け放たれる。
その瞬間、私は目を丸くした。
「やあ君か。いつもご苦労様」
視界に飛び込んできたのは「コーガ様に栄光あれ」という標語。それに、コーガ様が両手でピースしている絵柄。
例のセーターだ。憧れの幹部さんが、例のセーターに身を包んでいる!
あんぐりと口を開けていると、「どうかしたか?」と首を捻られる。ハッとなって物資を差し出すと、彼はいつもの朗らかさで「ありがとう、恩に着るよ」と言った。
その低い声がいつもながら素敵だ。でも今は、厚い胸板に引き伸ばされるコーガ様から目が離せない。
「幹部さん、それ・・・」いてもたってもいられずにそっと指で示せば、彼は「ん?・・・ああ、これか」とにこやかに言った。
「後輩の幹部が差し入れてくれてな。ほら、幹部詰所は寒いだろ。薪の節約のためにも、朝晩はこれだけで過ごすようにしててな」
「後輩の幹部が、差し入れで・・・」
「ああ。なんでも寒さ対策で皆着てるんだって? 手編みは暖かくて良いよなぁ」
その後も何度かラリーを続けたけど、正直内容は覚えていない。我に返ったときには彼から託された物資を手に持っていて、幹部さんは詰所の中に引っ込んでいった後だった。
崖あいを抜けていく風が冷たい。いやしかし、私の頭の中には、先ほどの幹部さんのセーター姿が焼き付いている。
みよんと引き伸ばされたコーガ様。そのセーターを、堂々と着こなす幹部さん。
・・・素敵だったなぁ! あの妙なセーターがあれほどお洒落に見えるなんてビックリだ! 服が恥ずかしいのではなくて、恥ずかしいと思いながら服を着ることが、自分を恥ずかしい人間に貶めるのかもしれない。そう考えると、気後れを感じていた自分こそを恥じるべきだったかも。
それに、気付いてしまった。私があのセーターを着れば、憧れの幹部さんと、密かにペアルックになったりなんか、しちゃったりして。
私は荷物を抱きしめて走った。頭の中では、どうやって同部屋の子にお願いし直すか、依頼の言葉がグルグルと回っていた。
話を聞いた時は「私も欲しいな」って咄嗟に思った。でも実際に実物を目にしてそれは安直だったと、すぐさま思い直した。
「コーガ様に栄光あれ」という標語が編まれたセーター。その中央には、コーガ様が両手でピースしているドーンとした絵柄。
幾らなんでも、これを着るには勇気がいるだろう!と頭を掠めたのが言いようもない事実である。誓って言うけれど、コーガ様をバカにしているわけでもなければ、それをダサいだなんて思ったわけでもない。うん、ほんとに。ううん・・・ほんとに!
見せてくれた同部屋の子には「わーすごーいおしゃれー」と大人の返事をしておいた。欲しかったら頼んであげようか?と気を利かせてくれたので、「心の底から欲しいとは思っているけれど待つことになるだろうし大丈夫だよ、ありがとう!」と丁寧に断った。
さて、今日はゲルドキャニオンにある幹部詰所へ物資を送り届ける日だ。試験監督を一人でおこなっている幹部さんは巷の話に飢えている。私自身の話で彼の気を引ければ良いのだけれど、あいにくここ最近は変化のない日々でネタがない。せめてセーターの話をして、少しでも長く彼と喋れれば良いな。
崖に突如として現れる蛙の石像と、木の扉。ノックをすると、暫くしてガチャリと開け放たれる。
その瞬間、私は目を丸くした。
「やあ君か。いつもご苦労様」
視界に飛び込んできたのは「コーガ様に栄光あれ」という標語。それに、コーガ様が両手でピースしている絵柄。
例のセーターだ。憧れの幹部さんが、例のセーターに身を包んでいる!
あんぐりと口を開けていると、「どうかしたか?」と首を捻られる。ハッとなって物資を差し出すと、彼はいつもの朗らかさで「ありがとう、恩に着るよ」と言った。
その低い声がいつもながら素敵だ。でも今は、厚い胸板に引き伸ばされるコーガ様から目が離せない。
「幹部さん、それ・・・」いてもたってもいられずにそっと指で示せば、彼は「ん?・・・ああ、これか」とにこやかに言った。
「後輩の幹部が差し入れてくれてな。ほら、幹部詰所は寒いだろ。薪の節約のためにも、朝晩はこれだけで過ごすようにしててな」
「後輩の幹部が、差し入れで・・・」
「ああ。なんでも寒さ対策で皆着てるんだって? 手編みは暖かくて良いよなぁ」
その後も何度かラリーを続けたけど、正直内容は覚えていない。我に返ったときには彼から託された物資を手に持っていて、幹部さんは詰所の中に引っ込んでいった後だった。
崖あいを抜けていく風が冷たい。いやしかし、私の頭の中には、先ほどの幹部さんのセーター姿が焼き付いている。
みよんと引き伸ばされたコーガ様。そのセーターを、堂々と着こなす幹部さん。
・・・素敵だったなぁ! あの妙なセーターがあれほどお洒落に見えるなんてビックリだ! 服が恥ずかしいのではなくて、恥ずかしいと思いながら服を着ることが、自分を恥ずかしい人間に貶めるのかもしれない。そう考えると、気後れを感じていた自分こそを恥じるべきだったかも。
それに、気付いてしまった。私があのセーターを着れば、憧れの幹部さんと、密かにペアルックになったりなんか、しちゃったりして。
私は荷物を抱きしめて走った。頭の中では、どうやって同部屋の子にお願いし直すか、依頼の言葉がグルグルと回っていた。