2024/12月(7~37)
遠目にその姿が見えたとき、まさか?と我が目を疑った。
見慣れた背格好の団員が一人、派手なセーターに身を包んでいる。これから外回りに行こうという冒険者変装集団の一人だ。人知れずの任務遂行を重要視するイーガにおいて、あの装いは些か違和感がある。
ただ、それだけならまだ私も「そういう人もいるか」と納得できた。どうにも目を瞬かせてしまったのは、件の人物が私の恋人だったからだ。
イーガ団において、物資補給班を任されている幹部役の彼──普段は威厳たっぷりの振る舞いに徹しているのに、いったいなぜ?
と思ったけれど、服自体には心当たりがある。何を隠そう、あれをプレゼントしたのは他でもない私だったので。
「カラカラバザールに行ったら行商人が売っていたんです。手編みなのに破格の値段で、大きめに作られてるし貴方にちょうど良いと思って!」
数日前のこと。私はセーターを渡した。身頃に編みこまれた七色のバナナ柄。ハイネックのゆるっとした襟首は葉を思わせる緑で、ウオトリーやハテノで有名な蓑に似たフリンジが、裾をぐるりと一周飾っているセーター。
正直ヘンテコだ。それを渡したのは恋人への純粋な情愛ではなく、「ちょっと恥ずかしい目に遭ってしまえ」という報復心によるものだった。
私に対して、彼はいつも子供っぽい振る舞いで揶揄ってくる。「どうやってあいつを手玉にとってやろうか」と普段から考えているに違いなく、私は常々、そんな彼の鼻を明かしてやりたいと思っていた。彼の振る舞いに張り合ってしまったことは、確かに私も少々大人げなかったとは思う。
「なんだこれは」と呟いた彼の目は、嫌そうだった。どうにか褒めそやして、その場で着せて、そのちぐはぐした様子に大層笑わせてもらった。「お前な」と唸った彼の声を思い出すとニコニコしてしまうほど。
「もう二度と着んからな」と脱ぎ捨てられたセーターはバナナの皮みたいだった。あのセーターの出番は、それでもう終わったはずなのに。
彼は部下に指示を出しながら、涼しい顔であの愉快なセーターを着こなしている。あれだけ嫌がっていたのになぜ?
彼に気付かれないよう、物陰に隠れながらこそこそと近寄る。微かに聞こえてくる彼の声へ、耳を澄ませた。
・・・では、今日の指示は以上だ。各々、携行食の届けがあるまで自由に過ごしていてくれ。あぁ、今日の担当はいつもの飯炊き番のはずだからな、おそらくそろそろやってくると思うんだが。
・・・なんだ、改まって。何か言いたいことでも・・・ん? あー、これが気になってたのか。・・・ふふ、誰か聞いてくれるかと待っていたんだ。聞きたいか、気になるなら教えてやろう。実は、飯炊き番から貰ったんだ。寒冷地に行くこともあろうから暖かいセーターをとな。いいだろう。なんでもこういう色とヒラヒラが、城下で流行っていたらしい。俺に似合うだろうからとわざわざ買ってくれたんだ。あいつのセンスは凄いな。俺だったら絶対に買わないデザインだが、これほど良いものは無いと大絶賛だ。あいつもさんざ素敵だと褒めちぎっていた。どうだ、似合うか。センスが良いよなぁ。このだいぶ愉快なセーターが、あいつの琴線に触れたわけだ。はぁーえらいこっちゃだ。凄い凄い。
「ちょっと待ってください!」私は物陰から飛び出した。
見慣れた背格好の団員が一人、派手なセーターに身を包んでいる。これから外回りに行こうという冒険者変装集団の一人だ。人知れずの任務遂行を重要視するイーガにおいて、あの装いは些か違和感がある。
ただ、それだけならまだ私も「そういう人もいるか」と納得できた。どうにも目を瞬かせてしまったのは、件の人物が私の恋人だったからだ。
イーガ団において、物資補給班を任されている幹部役の彼──普段は威厳たっぷりの振る舞いに徹しているのに、いったいなぜ?
と思ったけれど、服自体には心当たりがある。何を隠そう、あれをプレゼントしたのは他でもない私だったので。
「カラカラバザールに行ったら行商人が売っていたんです。手編みなのに破格の値段で、大きめに作られてるし貴方にちょうど良いと思って!」
数日前のこと。私はセーターを渡した。身頃に編みこまれた七色のバナナ柄。ハイネックのゆるっとした襟首は葉を思わせる緑で、ウオトリーやハテノで有名な蓑に似たフリンジが、裾をぐるりと一周飾っているセーター。
正直ヘンテコだ。それを渡したのは恋人への純粋な情愛ではなく、「ちょっと恥ずかしい目に遭ってしまえ」という報復心によるものだった。
私に対して、彼はいつも子供っぽい振る舞いで揶揄ってくる。「どうやってあいつを手玉にとってやろうか」と普段から考えているに違いなく、私は常々、そんな彼の鼻を明かしてやりたいと思っていた。彼の振る舞いに張り合ってしまったことは、確かに私も少々大人げなかったとは思う。
「なんだこれは」と呟いた彼の目は、嫌そうだった。どうにか褒めそやして、その場で着せて、そのちぐはぐした様子に大層笑わせてもらった。「お前な」と唸った彼の声を思い出すとニコニコしてしまうほど。
「もう二度と着んからな」と脱ぎ捨てられたセーターはバナナの皮みたいだった。あのセーターの出番は、それでもう終わったはずなのに。
彼は部下に指示を出しながら、涼しい顔であの愉快なセーターを着こなしている。あれだけ嫌がっていたのになぜ?
彼に気付かれないよう、物陰に隠れながらこそこそと近寄る。微かに聞こえてくる彼の声へ、耳を澄ませた。
・・・では、今日の指示は以上だ。各々、携行食の届けがあるまで自由に過ごしていてくれ。あぁ、今日の担当はいつもの飯炊き番のはずだからな、おそらくそろそろやってくると思うんだが。
・・・なんだ、改まって。何か言いたいことでも・・・ん? あー、これが気になってたのか。・・・ふふ、誰か聞いてくれるかと待っていたんだ。聞きたいか、気になるなら教えてやろう。実は、飯炊き番から貰ったんだ。寒冷地に行くこともあろうから暖かいセーターをとな。いいだろう。なんでもこういう色とヒラヒラが、城下で流行っていたらしい。俺に似合うだろうからとわざわざ買ってくれたんだ。あいつのセンスは凄いな。俺だったら絶対に買わないデザインだが、これほど良いものは無いと大絶賛だ。あいつもさんざ素敵だと褒めちぎっていた。どうだ、似合うか。センスが良いよなぁ。このだいぶ愉快なセーターが、あいつの琴線に触れたわけだ。はぁーえらいこっちゃだ。凄い凄い。
「ちょっと待ってください!」私は物陰から飛び出した。