2024/11月(1~6)

 私は冬が好きだ。だって寒いから。
 起きがけの身体が、きんと冷えた空気で熱を失う瞬間が好き。霜の降りた青草を、しゃくしゃくと踏みしめる音が好き。熱いコップで、冷たい指先がじんわりと解れていく感覚が好き。お茶のほっとする香りが好き。
 その中でも特に、冬の夜が大好きだった。
「──ただいま戻りました」
 ノック音に扉を開けると、肩を縮ませた幹部さんが立っていた。
 お帰りなさい、と迎え入れると、彼はマフラーと、外套と、手袋と、防寒具を全て外して身軽になって、まず真っ先に暖炉へ向かっていく。
「寒かったでしょう、今日は特に冷え込んでます」
「ええ、霊峰から寒気が流れてきてるみたいでね・・・カカリコの者が言うには、ネルドラの機嫌が悪いとのことでしたが」
「機嫌ですか。機嫌で気温を変えられては下民は堪ったものじゃありませんね」
 こと、こと、と夕飯を並べて、「さ、食事にしましょう」と告げる。
 彼は手の平を擦りながら席について、そして「ん?」と眉を顰めてみせた。
「・・・平時に酒など、飲みませんよ、私は」
 温かい鍋物と並ぶ、真っ赤な液体が揺らつくグラス。
 私は微笑んだ。
「ホットワインです。身体の温まるもので作ってみました。ポカポカハーブとはちみつ、生姜とリンゴ・・・あと、紅茶も」
「だからって私は」
「酒精はだいぶ飛んでますから。大丈夫です、一杯くらいなら」
 ね?と念押しすると、文句ありげな細目で睨まれる。
 けれど最後にはため息を吐いて「分かりました」とグラスを手にとってくれた。

 ──だから私は冬が好き。言い訳しながらほろ酔いになる彼の可愛げが。湯気立ったお野菜にふうふう息を吹きかける彼の慎重さが。窓の外、降り始めた雪を二人で見るこの瞬間が。
 中でも一番、好きなのは。
「・・・今日はこちらに」
 夕食の片づけを済ませて寝室に入ると、既にベッドで寝ていた彼に見つめられた。
 掛け布団を緩く持ち上げた先に、一人分の洞穴が開いている。返事をしながらそこへ潜り込む。ちっとも暖かくなくて、それどころか生きてる人間なんて存在しないように冷めきった洞穴。
 すると、彼が覆いかぶさるように腕を回してきて、ぎゅう、と抱きしめられた。氷みたいな脚が絡みついてくる。
「・・・貴女はいつでも温いですねぇ」
 何食わぬ顔で呟く彼。私ははい、と返事して、彼の冷たい手を握った。
 ・・・だから私は冬が好き。だって、どうしようもなく寒いから。
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