2024/12月(7~37)
お帰りなさいと出迎えられ、男は漸くほっと息を吐く。十数日ぶりの我が家だ。5人の子供たちの頭を順に撫でてやり、最後に愛する妻を柔く抱く。
「分かってますよね」と、ひそりと鼓膜を揺らす妻の声。男もこくりと頷き返す。彼が単身赴任先から帰宅したのは休みの日だからというだけではない。彼は明確に、為さねばならぬ仕事があったからこそここへ戻ってきた。
夕飯は男の好物である魚の団子を中心とした粗食だった。明日の夕餉で酒をしこたま飲む予定なので、今日は一杯だけだと釘を刺された。しばらくぶりの帰宅だからか子供らの口が止まらず、「早く食べなさい」と妻が何度も叱責している。彼女の目を盗み、ぐい飲みに二杯目を注ごうとして目敏く睨まれたのも、まさに明日の予定があるからこその浮つきであろう。
しかし、男は気付いていた。いつもなら元気活発な長男がやけにしおらしい。母にきつく叱られたのかとも思ったが、彼女に目配せをしても首を傾げられるだけだった。
「何かあったか?そんな顔をして」
長男を呼ぶと、彼は視線を上げた後、またしゅんと俯いてみせる。
「実は僕、学校で話を聞いちゃって」
「なにをだ」
「サンタって実は・・・コーガ様じゃないんでしょう?」
目を丸くした。明日に控えるクリスマス。良い子の元へ贈り物をしてくれる”サンタ”という役目を、我らがお仕えするコーガ様が請け負っているという話を子供らには言い聞かせてあるのに。誰からそんな話を?
長男だけでなく、周りの4人の子供らも目を丸くさせて両親を仰ぎ見た。不安そうな顔で、末の子なぞ山型に形を変えた下唇をむっと突き出している。
男は静かに「どうしてそう思うんだ」と聞き返した。
「だって、コーガ様は遠くカルサー谷にいらっしゃるって・・・ゲルド地方からここまで一晩で移動ができるわけないし、僕のことをコーガ様が知っているはずがない。幾ら凄い人でも無理だよ・・・いろんなところにいる子供に、一晩でだなんて」
「・・・確かにな。シーカーの村はここだけじゃないし、普通の人間ならばまず無理だ」
男はぐっと顔を近づける。
「普通の人間ならばな」
長男が「え?」と顔を上げた。
「コーガ様は普通の人間などではない。まず古代シーカーの技術で空が飛べる」
「そ、空を!?」
「ああ。それに自由自在に変身することもできるし、どこででもツルギバナナを無限に取り出せるな。いつもクリスマスにくださってるバナナはこれだ」
「そ、そうなんだ」と視線を揺らす長男。男は最後に、もったいぶるような口調で、「あとは」と前のめりになった。
「目からビームが出せる」
5人全員がポカンと口を開け「ビーム!?」と口々に言った。
「だからお前たち、サンタの心配をする必要はないぞ。コーガ様はお前たちが思っている以上に、凄い人だからな」
いつも通りの笑顔が戻ってきたところで、妻だけは彼らの輪に入っていないことに、男は気付かなかった。
「──あんなこと言って、大丈夫なんですか」
子供たちが部屋で寝静り、妻と二人きりになった寝室。窘めるような言葉に「なにがだ」と返すと、妻は「コーガ様のことです」と文句ありげだった。
「あんまり大袈裟な話をしたら、子供扱いしてるってむくれますよ。今多感な時期なんです」
「なんだ、それなら大丈夫だろ。過剰な嘘を言ってるわけでもなし」
「・・・そもそも、サンタ役がコーガ様だって話を通す方が、無理があるというか」
「それも大丈夫だろ。なんてったって、俺もアジトに入るまで、両親から言われたそれを信じてたからな」
妻がぱちくりと瞼を瞬かせる。じゃ、行ってくる、とバナナを携えたサンタは、ひっそりと子供部屋へ向かっていった。
「分かってますよね」と、ひそりと鼓膜を揺らす妻の声。男もこくりと頷き返す。彼が単身赴任先から帰宅したのは休みの日だからというだけではない。彼は明確に、為さねばならぬ仕事があったからこそここへ戻ってきた。
夕飯は男の好物である魚の団子を中心とした粗食だった。明日の夕餉で酒をしこたま飲む予定なので、今日は一杯だけだと釘を刺された。しばらくぶりの帰宅だからか子供らの口が止まらず、「早く食べなさい」と妻が何度も叱責している。彼女の目を盗み、ぐい飲みに二杯目を注ごうとして目敏く睨まれたのも、まさに明日の予定があるからこその浮つきであろう。
しかし、男は気付いていた。いつもなら元気活発な長男がやけにしおらしい。母にきつく叱られたのかとも思ったが、彼女に目配せをしても首を傾げられるだけだった。
「何かあったか?そんな顔をして」
長男を呼ぶと、彼は視線を上げた後、またしゅんと俯いてみせる。
「実は僕、学校で話を聞いちゃって」
「なにをだ」
「サンタって実は・・・コーガ様じゃないんでしょう?」
目を丸くした。明日に控えるクリスマス。良い子の元へ贈り物をしてくれる”サンタ”という役目を、我らがお仕えするコーガ様が請け負っているという話を子供らには言い聞かせてあるのに。誰からそんな話を?
長男だけでなく、周りの4人の子供らも目を丸くさせて両親を仰ぎ見た。不安そうな顔で、末の子なぞ山型に形を変えた下唇をむっと突き出している。
男は静かに「どうしてそう思うんだ」と聞き返した。
「だって、コーガ様は遠くカルサー谷にいらっしゃるって・・・ゲルド地方からここまで一晩で移動ができるわけないし、僕のことをコーガ様が知っているはずがない。幾ら凄い人でも無理だよ・・・いろんなところにいる子供に、一晩でだなんて」
「・・・確かにな。シーカーの村はここだけじゃないし、普通の人間ならばまず無理だ」
男はぐっと顔を近づける。
「普通の人間ならばな」
長男が「え?」と顔を上げた。
「コーガ様は普通の人間などではない。まず古代シーカーの技術で空が飛べる」
「そ、空を!?」
「ああ。それに自由自在に変身することもできるし、どこででもツルギバナナを無限に取り出せるな。いつもクリスマスにくださってるバナナはこれだ」
「そ、そうなんだ」と視線を揺らす長男。男は最後に、もったいぶるような口調で、「あとは」と前のめりになった。
「目からビームが出せる」
5人全員がポカンと口を開け「ビーム!?」と口々に言った。
「だからお前たち、サンタの心配をする必要はないぞ。コーガ様はお前たちが思っている以上に、凄い人だからな」
いつも通りの笑顔が戻ってきたところで、妻だけは彼らの輪に入っていないことに、男は気付かなかった。
「──あんなこと言って、大丈夫なんですか」
子供たちが部屋で寝静り、妻と二人きりになった寝室。窘めるような言葉に「なにがだ」と返すと、妻は「コーガ様のことです」と文句ありげだった。
「あんまり大袈裟な話をしたら、子供扱いしてるってむくれますよ。今多感な時期なんです」
「なんだ、それなら大丈夫だろ。過剰な嘘を言ってるわけでもなし」
「・・・そもそも、サンタ役がコーガ様だって話を通す方が、無理があるというか」
「それも大丈夫だろ。なんてったって、俺もアジトに入るまで、両親から言われたそれを信じてたからな」
妻がぱちくりと瞼を瞬かせる。じゃ、行ってくる、とバナナを携えたサンタは、ひっそりと子供部屋へ向かっていった。