2024/12月(7~37)
おもしろくなーい!と彼女が吠えたのは唐突だった。
二人きりで過ごす書庫の晩。書き物をしにやってきた俺の後ろで、それまで先生は古本を読みふけっていた。諸手を上げ、背もたれに体重を乗せる。
俺は彼女に後ろから押し潰されながら、筆を止めた。
「・・・面白くない、とは」
知らずの内に視界の中に収め、それで安心を得てきた彼女の一挙一動で心当たりをつけられぬほど、この眼は抜けてなどおらぬ。それでも一旦は、言葉を返すのが礼儀であろう。
彼女はクルリと身を翻し、俺の横で正座をした。
「だって!今年のクリスマスが中止なんだよ!ここまできてさぁ!」
やはりそれか。俺は息を吐く。
「あっ、今スッパ君ため息吐いたでしょ。失礼ですねー先達に向かってため息なんて!」
「そもそもクリスマスなどと、今まで乗じてきたことこそがおかしな話でござろう。自分は無くなって然るべきかと」
女神ハイリアの生誕祭、クリスマス。祭りが好きだというただそれだけで、イーガも毎年便乗してきた宴の名だ。
しかし時は戦乱である。異教の祭りを祝うほど余分な物資はイーガにない。そのような理由で、つい朝方コーガ様より「クリスマスは中止」というお触れが出されたところであった。
誰もが「仕方ない」と肩を落とし、それは先生も同じだったはず。しかし俺と二人きりという状況が、心中に燻っていた煙を吐き出すきっかけとなってしまったらしい。先生はどうしようもない不満を「うー」という唸り声に変えた。
「分かってるけど・・・でも楽しみだったのになぁって。美味しいもの食べて、お酒飲んで、朝起きたらバナナが置いてあってさぁ・・・」
「バナナはともかく、その他はクリスマスでなくとも良いのでは」
「うーん、それは確かに・・・。まぁ、確かに。・・・だったら一人でクリスマスお祝いしちゃおっかなぁ」
不意のぼやきに、俺は咄嗟に「一人で?」とオウム返しにする。
「何も一人でなくとも。相手を見繕えば良いのでは?」現に、諸兄らは有志で集まるようなことをいっていた。
「それこそ、中止っていったコーガ様の面目が立たないじゃない?だから一人でこっそりした方が良いかなって」
「こっそりと飯を食い合える相手を見繕えば良いでござる」そういえば俺も声をかけられている。
「・・・そんな人いる?」
「今しがた、貴女の計画を聞いた者がいるので」
その途端、先生の目が丸くなり、二三度ぱちぱちと瞬きする。
「だってスッパ君、忙しいでしょう?」
諸兄らには心の中で謝った。「飯の時間が、それに挿げ変わるだけでござる」
「だって、・・・クリスマスだよ?一緒に過ごす相手は?」
「貴女が」
そこまで言うと、先生は呆れたように相好を崩してぷっと噴き出した。曲げられた口の隙間からふふふと笑みを漏らしながら、目を眇める。
「じゃ、今年は二人でお祝いしよっか! 夕餉のご飯とお酒、バナナを持って崖上に集合ね!」
「酒はちょっと」
「じゃあご飯とバナナ! 特別に二本!」
今年は、通年よりも記憶に残るクリスマスになりそうだ。背に凭れ直した彼女の熱に、思わず火照りそうな予感があった。
二人きりで過ごす書庫の晩。書き物をしにやってきた俺の後ろで、それまで先生は古本を読みふけっていた。諸手を上げ、背もたれに体重を乗せる。
俺は彼女に後ろから押し潰されながら、筆を止めた。
「・・・面白くない、とは」
知らずの内に視界の中に収め、それで安心を得てきた彼女の一挙一動で心当たりをつけられぬほど、この眼は抜けてなどおらぬ。それでも一旦は、言葉を返すのが礼儀であろう。
彼女はクルリと身を翻し、俺の横で正座をした。
「だって!今年のクリスマスが中止なんだよ!ここまできてさぁ!」
やはりそれか。俺は息を吐く。
「あっ、今スッパ君ため息吐いたでしょ。失礼ですねー先達に向かってため息なんて!」
「そもそもクリスマスなどと、今まで乗じてきたことこそがおかしな話でござろう。自分は無くなって然るべきかと」
女神ハイリアの生誕祭、クリスマス。祭りが好きだというただそれだけで、イーガも毎年便乗してきた宴の名だ。
しかし時は戦乱である。異教の祭りを祝うほど余分な物資はイーガにない。そのような理由で、つい朝方コーガ様より「クリスマスは中止」というお触れが出されたところであった。
誰もが「仕方ない」と肩を落とし、それは先生も同じだったはず。しかし俺と二人きりという状況が、心中に燻っていた煙を吐き出すきっかけとなってしまったらしい。先生はどうしようもない不満を「うー」という唸り声に変えた。
「分かってるけど・・・でも楽しみだったのになぁって。美味しいもの食べて、お酒飲んで、朝起きたらバナナが置いてあってさぁ・・・」
「バナナはともかく、その他はクリスマスでなくとも良いのでは」
「うーん、それは確かに・・・。まぁ、確かに。・・・だったら一人でクリスマスお祝いしちゃおっかなぁ」
不意のぼやきに、俺は咄嗟に「一人で?」とオウム返しにする。
「何も一人でなくとも。相手を見繕えば良いのでは?」現に、諸兄らは有志で集まるようなことをいっていた。
「それこそ、中止っていったコーガ様の面目が立たないじゃない?だから一人でこっそりした方が良いかなって」
「こっそりと飯を食い合える相手を見繕えば良いでござる」そういえば俺も声をかけられている。
「・・・そんな人いる?」
「今しがた、貴女の計画を聞いた者がいるので」
その途端、先生の目が丸くなり、二三度ぱちぱちと瞬きする。
「だってスッパ君、忙しいでしょう?」
諸兄らには心の中で謝った。「飯の時間が、それに挿げ変わるだけでござる」
「だって、・・・クリスマスだよ?一緒に過ごす相手は?」
「貴女が」
そこまで言うと、先生は呆れたように相好を崩してぷっと噴き出した。曲げられた口の隙間からふふふと笑みを漏らしながら、目を眇める。
「じゃ、今年は二人でお祝いしよっか! 夕餉のご飯とお酒、バナナを持って崖上に集合ね!」
「酒はちょっと」
「じゃあご飯とバナナ! 特別に二本!」
今年は、通年よりも記憶に残るクリスマスになりそうだ。背に凭れ直した彼女の熱に、思わず火照りそうな予感があった。