2024/12月(7~37)

 あれ、と思ったのは、幹部さんが奥の扉を開いた時だった。持ってきた差し入れをニコやかに引き取って、「お茶を煎れてくるから待ってなさい」と引っ込んでいった幹部さん。カチャリと開いたその扉の裏側に、見慣れない紙が一枚増えているのが見えたのだ。
 あそこにあったのは、件の剣士の手配書だけだったはず。彼が戻ってくるまでの寸暇、椅子替わりの木箱に腰かけながら、あれはなんだったんだろうと考える。
 ややあって「お待たせ」と開いた瞬間──あ、やっぱり何かある。手配書の下、なにやら文字が羅列した紙があるのを視界に捉えた。

「幹部さん、さっき見えちゃったんですが、扉の裏・・・」
 ほんの小さな疑問を切り出せたのは、二人でお茶を飲みだして、一息ついてからだった。
 ほー、と息を吐きながら背中を緩める幹部さんに告げると、それだけでは伝わらなかったのか「ん?」と首を捻られる。
「手配書の下に、何か紙が増えてませんでした? もしかして、アジトからの連絡とか・・・?」
 ここに物資や定期連絡を運び込むのは、私が仰せつかっている業務のひとつ。他の人間が来てたとあらば、それは私にとって気持ちの良い事態じゃない。何よりせっかく彼と会える機会を一つ失うことに繋がっている。
 でも幹部さんの反応は、ほの暗い私と対照的に、さっぱりとしたものだった。
「違う違う。あれは私が作った暦だ。本当は日めくりにしたかったんだが、とりあえず日付が分かればいいかと思って」
なんだ暦か。微かに強張った顔の筋肉がふっと緩んでいく。
「なるほど、もう年の瀬ですもんね。日付が分からないと確かに不便です」
「年の瀬、も、そうではあるんだが」
 萎んでいくような言葉には、なんらかの含みがある。湯呑の淵を親指で撫でる彼に、首を捻った。それだけが理由ではないのだろうか。
 不意に、意を決した仕草で立ち上がった彼が「実はな」と扉に向かう。引っ張られるように着いて行った先、ぎ、と開かれた扉の裏には、先ほども片影を捉えていた数字の紙。
 そこで気が付いた。この暦、25日までしか記載されてない。
「これ、クリスマスまでの暦なんだ」
 目を丸くしながら繰り返す。「クリスマス」
「女神の生誕祭だからな、あまりイーガとしては褒められたものではないが・・・昔から好きでね」
 あ、そうだ。と言いながら、奥の部屋に引っ込んだ彼が筆をもって帰ってくる。既にバツのついた1から17の数字に続き、彼はゆっくりと、18の数にバッテンをつけた。
 彼の指先が、愛おし気に25の数字を撫でていく。なんだか彼の気配が浮ついているようで、「楽しそうですね」とほほ笑んだ。
 すると彼は少しだけ背筋を伸ばしてみせて、いかにもバツが悪そうに、ひとつ咳ばらい。
「・・・年甲斐もないって思ったろう。詰所はこういう楽しみがないと暇なんだ」
 そんなことありませんよ、と咄嗟に呟く。なんて可愛らしい人なんだろう。私は腰に提げていた小さな鞄に触れた。
「私も、楽しみです」
 ほんとは今日にしようと思ってた。でも7日後。彼の幸せが募った一日に、これがほんのささやかな彩りとなってくれたら良い。願いを込めて、私も25の数字に触れた。
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