2024/12月(7~37)
待ってくださあい、と小走りでコーガ様を呼び止める。ふと振り返った主君は「おおー」と手を上げた。こっちこっちと手招きしてるのが見える。
「ちょっと今日は散歩でもしようと思ってな」
深穴の間から奥に続く崖へ指をさす。コーガ様は、この向こう側に行かれるのか。
奥から流れてくる風は酷く冷たい。陽はまだ高いけど、こんな薄着で行って大丈夫なんだろうか?
「お前はどうする?着いてくるか?」
崖に足をかけながら、コーガ様が言う。単なる小間使いに主君を留めることなんてできるわけもなくて、ならばせめて着いて行こうと思った。主君は「そうか、じゃあスッパには内緒な」と人差し指を立ててみせた。
小高い崖の先に続くのは、岸壁の切れ目のようなくねり道。地肌が全て、一面の雪に覆われている。
まさか少し崖を登っただけで、ここまで景色が変わるなんて。
唐突に凍えるような風がびゅう、と吹き抜けていく。突き刺すような冷たさで、思わず身体を抱きしめる。「うお、ちべて~」とコーガ様も身を丸めたけれど、だからといって散歩を辞める選択肢はないらしい。
ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏みしめながら、ゆっくり歩きだすので、私も少し遅れて小さくなった背中に着いて行く。
「しっかしここはいつ来てもさみいな~。いつももう一枚持ってこようと思って忘れちまうぜ」
いつも来てらっしゃるんだ。そして忘れてしまうんだ。
私はいつも忍ばせている筆録の紙に、がいとう、と一筆した。
「なんか面白いモンねえかなあ。雪投げ遊びにでも興じてみるか」
おもむろに屈んで、雪をかき集めたコーガ様は「えい」と崖壁へ玉を投げつける。ぱしゅ。まとまりの浅い雪玉は、ぶつかった瞬間に霧のように広がって、陽にキラキラ瞬いた。
雪って、綺麗なんだな。ほお、と白い靄を吐き出して、ふとその行き先を追う。高い崖の上にこんもりと積まれた白い塊が見える。その向こうには真っ青な空。
ぱしゅっ。仮面に何かぶつかる感覚がして、突然のことに悲鳴を上げた。「だはははっ」ってコーガ様の笑い声が続く。
仮面ののぞき穴に詰まった何か──雪だ。拭ってコーガ様に文句を言うと、彼は「油断してっから悪いんだ!」と雪の中をズボズボ駆けていく。待ってください、と手を伸ばした瞬間、雪に足を取られた主君が「あだ」と倒れ込んだ。
唐突に姿を消した主君に大丈夫ですかと駆けよる。彼への心配よりも、どうにもこみ上げてくる笑みを堪えることができなかった。
「────これこれ、これを探しにきたんだ」
単なる散歩かと思えば、コーガ様には目的があったらしい。
おもむろに雪を掘った主君が掴んだのは、黄色いバナナ。
束で埋められているようだけど、主君はそれを三本だけ拾い上げて、あとはまた雪を被せた。
「たまにな、食いたくなんだよな。お前にも一本やろう」
バナナはカチコチに凍ってた。身体の芯まで冷え切った現状で、すぐ食べる気にはなれない。
今はちょっと、と断ると、コーガ様に「今食えなんて言わねえよ!」と噴き出して笑われてしまった。
「ちょっと今日は散歩でもしようと思ってな」
深穴の間から奥に続く崖へ指をさす。コーガ様は、この向こう側に行かれるのか。
奥から流れてくる風は酷く冷たい。陽はまだ高いけど、こんな薄着で行って大丈夫なんだろうか?
「お前はどうする?着いてくるか?」
崖に足をかけながら、コーガ様が言う。単なる小間使いに主君を留めることなんてできるわけもなくて、ならばせめて着いて行こうと思った。主君は「そうか、じゃあスッパには内緒な」と人差し指を立ててみせた。
小高い崖の先に続くのは、岸壁の切れ目のようなくねり道。地肌が全て、一面の雪に覆われている。
まさか少し崖を登っただけで、ここまで景色が変わるなんて。
唐突に凍えるような風がびゅう、と吹き抜けていく。突き刺すような冷たさで、思わず身体を抱きしめる。「うお、ちべて~」とコーガ様も身を丸めたけれど、だからといって散歩を辞める選択肢はないらしい。
ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏みしめながら、ゆっくり歩きだすので、私も少し遅れて小さくなった背中に着いて行く。
「しっかしここはいつ来てもさみいな~。いつももう一枚持ってこようと思って忘れちまうぜ」
いつも来てらっしゃるんだ。そして忘れてしまうんだ。
私はいつも忍ばせている筆録の紙に、がいとう、と一筆した。
「なんか面白いモンねえかなあ。雪投げ遊びにでも興じてみるか」
おもむろに屈んで、雪をかき集めたコーガ様は「えい」と崖壁へ玉を投げつける。ぱしゅ。まとまりの浅い雪玉は、ぶつかった瞬間に霧のように広がって、陽にキラキラ瞬いた。
雪って、綺麗なんだな。ほお、と白い靄を吐き出して、ふとその行き先を追う。高い崖の上にこんもりと積まれた白い塊が見える。その向こうには真っ青な空。
ぱしゅっ。仮面に何かぶつかる感覚がして、突然のことに悲鳴を上げた。「だはははっ」ってコーガ様の笑い声が続く。
仮面ののぞき穴に詰まった何か──雪だ。拭ってコーガ様に文句を言うと、彼は「油断してっから悪いんだ!」と雪の中をズボズボ駆けていく。待ってください、と手を伸ばした瞬間、雪に足を取られた主君が「あだ」と倒れ込んだ。
唐突に姿を消した主君に大丈夫ですかと駆けよる。彼への心配よりも、どうにもこみ上げてくる笑みを堪えることができなかった。
「────これこれ、これを探しにきたんだ」
単なる散歩かと思えば、コーガ様には目的があったらしい。
おもむろに雪を掘った主君が掴んだのは、黄色いバナナ。
束で埋められているようだけど、主君はそれを三本だけ拾い上げて、あとはまた雪を被せた。
「たまにな、食いたくなんだよな。お前にも一本やろう」
バナナはカチコチに凍ってた。身体の芯まで冷え切った現状で、すぐ食べる気にはなれない。
今はちょっと、と断ると、コーガ様に「今食えなんて言わねえよ!」と噴き出して笑われてしまった。