2024/12月(7~37)
一瞬の出来事だった。背後でガサリと草を踏み荒らす音。振り返る余裕もなく刃が閃く。瞳に映ったのは彼の風切り刀。木立に落ちた影を切り裂いて──。後にはボコブリンの角が落ちていた。
固まった身体を、彼の腕に力強く引き寄せられる。またひらり視界に映る、波刃の光。刃がぶつかった肉塊の振動が、彼の身体を通して伝わる。
深い袈裟切りを受けたモリブリンは一度獰猛な咆哮をして、それからどお・・・っと倒れ込んだ。散り散りになっていく塊を、ただじっと見る。そうしている内に、呼吸が止まってることに気が付いた。
一度大きく息を吸う。心臓が荒々しく鼓動しているのにも、そこで気が付く。
「大丈夫だったか。すまん、急に」
強く服を掴むと、視界一杯に彼の顔。私は興奮が冷めやらず肺を膨らませた。
「よく気付きましたね・・・!私、直前になるまで近づかれてることなんて、全然・・・!」
「外に出るなら警戒心を緩めるべきじゃない。まぁ、ボコブリンとモリブリンなんて、大した敵じゃないけどな」
食材探し業務でのことだった。外回りを始めてまだ日が浅い私を、彼は心配して着いてきた。もう慣れましたから、と最初は追い払おうとしたものだけど、結果としては彼の心配性に助けられたわけだ。
一人だったらどうなっていただろう。自然の過酷さと自分の無力さ。突きつけられているようで身が震える。
鞘に刀身を収めていく彼は、確かに気を張っているらしい。辺りへ巡らす緊張感が、空気を介して伝わってくる。鋭い眼光のまま、辺りを見回す。横顔の輪郭が、梢から射す陽光で浮き上がってる。凛とした立ち姿で、颯爽と魔物を屠った彼。
その姿に、思わず、見惚れてしまった。
「どうかしたか?ぼうっとして」
不意の横目に「いえ、その」と視線を逸らしたけれど、身体の奥底が奮える。
合わせた口先がふにゃあ、と緩んで、言葉が漏れた。
「カッコ良かった、から」
ふわ、と耳が熱くなった。
彼は「む」と唸ってから一拍あけて、「そうか」と視線を背けた。
小さく頭を掻く。暫くして遠くの方を見遣って、二人で黙った。ちちち、と小鳥のさえずりが聞こえた。
そうしていると、ふと手を掴まれる。何も言わずにゆっくり歩き出すので、私も倣った。骨ばった彼の指先に私の指先を絡めて、握り直した。
彼の体温を感じながら、林を抜けていく。
「やっぱり強いんですね、なんだか、圧倒されました」
「魔物の一匹や二匹、幹部役なら当然だ」
「ただの食いしん坊じゃなかったんだ」
「なんだと、失礼だな」
「ふふ・・・でも、貴方がいれば安心ですね」
「まぁな。大概なら問題ない」
「あっ、見てください。あそこに何かいます。さっきとは別の魔物が」
森から抜けた先、平原の真ん中に四つ足の魔物が立っているのが見えた。
馬のような姿をしている。・・・知らない魔物だ。やけにたくさんの武器を持っていて物騒だ。
目を凝らしている最中、繋いだ指先にグッと力が籠められて、つんのめる。
「どうかしましたか」と振り返ると、彼は真面目な顔で「まずいな」と唸った。
「あれは俺では無理だ」
えっ、と応える間もなく、地面から足が遠のく。逃げるぞと言われたときには、もう身体は森の中だった。
固まった身体を、彼の腕に力強く引き寄せられる。またひらり視界に映る、波刃の光。刃がぶつかった肉塊の振動が、彼の身体を通して伝わる。
深い袈裟切りを受けたモリブリンは一度獰猛な咆哮をして、それからどお・・・っと倒れ込んだ。散り散りになっていく塊を、ただじっと見る。そうしている内に、呼吸が止まってることに気が付いた。
一度大きく息を吸う。心臓が荒々しく鼓動しているのにも、そこで気が付く。
「大丈夫だったか。すまん、急に」
強く服を掴むと、視界一杯に彼の顔。私は興奮が冷めやらず肺を膨らませた。
「よく気付きましたね・・・!私、直前になるまで近づかれてることなんて、全然・・・!」
「外に出るなら警戒心を緩めるべきじゃない。まぁ、ボコブリンとモリブリンなんて、大した敵じゃないけどな」
食材探し業務でのことだった。外回りを始めてまだ日が浅い私を、彼は心配して着いてきた。もう慣れましたから、と最初は追い払おうとしたものだけど、結果としては彼の心配性に助けられたわけだ。
一人だったらどうなっていただろう。自然の過酷さと自分の無力さ。突きつけられているようで身が震える。
鞘に刀身を収めていく彼は、確かに気を張っているらしい。辺りへ巡らす緊張感が、空気を介して伝わってくる。鋭い眼光のまま、辺りを見回す。横顔の輪郭が、梢から射す陽光で浮き上がってる。凛とした立ち姿で、颯爽と魔物を屠った彼。
その姿に、思わず、見惚れてしまった。
「どうかしたか?ぼうっとして」
不意の横目に「いえ、その」と視線を逸らしたけれど、身体の奥底が奮える。
合わせた口先がふにゃあ、と緩んで、言葉が漏れた。
「カッコ良かった、から」
ふわ、と耳が熱くなった。
彼は「む」と唸ってから一拍あけて、「そうか」と視線を背けた。
小さく頭を掻く。暫くして遠くの方を見遣って、二人で黙った。ちちち、と小鳥のさえずりが聞こえた。
そうしていると、ふと手を掴まれる。何も言わずにゆっくり歩き出すので、私も倣った。骨ばった彼の指先に私の指先を絡めて、握り直した。
彼の体温を感じながら、林を抜けていく。
「やっぱり強いんですね、なんだか、圧倒されました」
「魔物の一匹や二匹、幹部役なら当然だ」
「ただの食いしん坊じゃなかったんだ」
「なんだと、失礼だな」
「ふふ・・・でも、貴方がいれば安心ですね」
「まぁな。大概なら問題ない」
「あっ、見てください。あそこに何かいます。さっきとは別の魔物が」
森から抜けた先、平原の真ん中に四つ足の魔物が立っているのが見えた。
馬のような姿をしている。・・・知らない魔物だ。やけにたくさんの武器を持っていて物騒だ。
目を凝らしている最中、繋いだ指先にグッと力が籠められて、つんのめる。
「どうかしましたか」と振り返ると、彼は真面目な顔で「まずいな」と唸った。
「あれは俺では無理だ」
えっ、と応える間もなく、地面から足が遠のく。逃げるぞと言われたときには、もう身体は森の中だった。