2024/12月(7~37)

 顔を合わせたときから妙に引っ掛かってはいた。炊事場の戸口で声をかけたとき、彼女の顔に端然とした仮面があった。味見の邪魔だからと、普段はイーガの誇りを蔑ろにしている彼女だ。あるべき姿に戻っただけなのだが、口元の笑みが見られないことに、むしろ違和感を覚えてしまったのは我ながら驚きだ。
 酒を飲み始めてからも妙だった。僅かに持ち上げた仮面の隙間から、入れ込むように酒や肴を食べていく。
 俺にはよく分からんが、飯の際には口元を晒すべきじゃないと考える文化もあるらしい。彼女も往々にしてその傾向がある。が、今日のその所作は、宮仕えで身に着いたらしい品格ある振る舞いとは、少々違う気がした。
 まるで少しも素肌を見せたくないと、意固地にでもなっているような?

 決定打は、酔いのまわったたけなわ。口元へ迫ろうかと、彼女の仮面の隙間へ指を滑り込ませたときのことだった。
「き、今日は、ちょっと・・・」
 するり、と指先を掠めて頬が逃げていく。俺は確信を持った。やはり何か隠しているのだと。
 裸体を見せ合う仲を経て、彼女とは素顔も過去も一切合切を開け広げにした関係だ。この期に及んで俺にものを伏せようなんてどういう料簡か。
 俺は「なぜだ」と詰め寄った。
「久しぶりの逢瀬だぞ、こんなときでもなければ触れることも適わないというのに、何を隠してる」
「か、隠してるわけじゃありません、人聞きの悪い! これにはえっと・・・事情があって」
 「なんだ、言ってみろ」と迫ると、彼女は一段と声を小さくさせた。
「・・・最近、寝不足が続いていて、その・・・肌荒れが酷いんです」
 仮面の隙間から辛うじて聞こえたのは、聞き馴染みのない四文字。とはいえ、それがどんな状態かくらいは分かる。俺にとっちゃ、大いに肩透かしだ。
「肌がガサガサで、目の隈も・・・デキモノもできちゃって散々なんです。だから見られたくありません」
「なんだくだらん。そんなこと気にしてるのか?」
「気にしますっ、貴方って人は!」
「どうなってても好きなものに変わりない。俺にとっては些事極まりないことだ」
 言い聞かせるように頭を撫でても、彼女から帰ってくるのは「女の機微に疎いんだから」と、いつかに言われた文句だけだった。どうやらむくれてしまったらしい。俺は肩を竦めた。
 仕方ない。女の機微とやらを理解するのに努めよう。肌荒れを見られたくないから仮面が取れず、口づけに応じられないというのであれば、如何にして彼女の問題を解決してやるべきか。
 答えは簡単、俺が目をつむってやれば良い。
 考えついた傍から仮面を外し、腕の帯を解き、目に宛がう。それをグルグルと巻き付けた。
「ほら、これでいいだろ」
 巻いてる間もクスクス漏らしていた彼女は、ついに「なんですかそれ」と笑った。さっきのむくれ声とは、似ても似つかない嬉しそうな声。
 口を突き出してじっとしていれば、暫くして柔らかい触感が口元に触れてくる。
 ほらな。俺の問題解決能力も馬鹿にできないもんだろう。そうして俺は、彼女の素肌を捕まえた。
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