2024/12月(7~37)

 貴公らに良い物をもってきた。ニヤケ声で宣誓したのは、イーガの物資流通を担う幹部である。その手には、部屋に集まった大半の幹部が目にしたことのない小包が掲げられていた。
 「あ、それは」遠くハテールから、たまたまアジトへ帰ってきていた諜報班の幹部が思わず身を乗り出す。彼は他と違って外回り業務が主要であるから、巷の流行事には敏いのだろう。
 「さすがだな」と笑み零しながら、流通班の幹部は小包を机に置く。円になって覗き込む諸兄らに、もったいぶるような手つきで包みをぱらりと開いた。
「こ、これは・・・」
「パン・・・か?」
 ざわめく幹部を尻目にひとつ取り、艶めいてすら感じるそれを見せつける。
「これは、ドーナツという菓子だ」
「どーなつ」
「ハイラルミスドという店が中央に出店してな。今や空前の大ブームよ。世間の潮流を知るには、まず民草が何に心を奪われているのか知るべきであろう。というわけで買ってきたのだ。一人一個ずつ食っていいぞ!」
 大いに太っ腹。さあ存分に有難がれとばかり手を広げたが、彼らは顔を見合わせるのみである。
 小包に詰められたドーナツは、それぞれ違う種類のものが5つ。幹部も5人。誰から選ぶ?と空気の読み合いをしてしまうのは、控えめと謳われるシーカー族の性格故だろうか。
「ここは先輩から選んでいただいて…」
「えっ、私が?」
 ファーストペンギンに選出されたのは、この場でもっとも経歴の長い詰所勤めの幹部だった。しかしこの人物こそ控えめな性格をしているものだから、「いや、君が先にどうぞ」と即座に返す。「いやいや先輩が」「いやいや君が」
 「じゃあ私が」と挙手するハテール帰りの諜報員。それを「黙れ」と制したのは鍛練班の幹部だ。「貴方が黙りなさい」「お前が黙れ」犬猿の仲とはかくも見苦しい。
 手土産の主は苦笑いで「ほら、決めちゃってくださいよ」と、詰所の幹部を促す。
「うーん・・・迷うな。みな、気になる物があるなら先に持って行って欲しいが」
「甘ったるいのは嫌だ・・・。なるべく甘くないやつはないか」
 ぬっと出てきたのは、アジトの玄関で守衛を務める幹部だ。菓子だって言ってるんだから全部甘いよ。
 「そうですねぇ」と包みを覗き込んでいると、「あ、フレンチクルーラーは無いんですか」と諜報員。あんたは少し黙っててくれないか。
「オールドファッションだったらあんまり甘くないかもしれません。この茶色い奴」
 まじと見つめ、「なるほど」とだけ呟いて守衛番は押し黙る。彼は序列を重んじるタイプなので、目上が決めきるまで待つつもりなのだろう。
 その目上の幹部は、先ほどからうんうん唸ったままだ。「ポンデリングも無いんですね」とは諜報員。あんたは自分で買いに行ってくれ。
「こっちの砂糖をまぶしたのも美味そうだなぁ。クリームが入ったのも贅沢でいい。迷うなぁ・・・」
「先輩が決められないのであれば、私が先に」
「お前いい加減にしろ、少し静かにしてくれ」
「貴方ね、本当に先達に対しての口がなってません。ありえない」
「お前には絶対言われたくない」
「こらこらお前たち喧嘩はよせ、ドーナツ選びに集中できない」
「・・・早くしてくれないか」
 小包の周囲でギャイギャイと騒ぎ立てる大男たち。幹部の威厳はどこへやらだ。
 買ってこなきゃよかったかな~。ひと悶着の引き金となった手土産の主は、人知れず溜息を吐いた。
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