2024/12月(7~37)

 月のものが割合に酷い性質で、しばしば生活に支障をきたすことがあった。装束の布が鉄糸に変わったようで身体が重く、腰が地面に吸い寄せられてるような気怠さ。特に今回はキツくて、布団から一歩も出たくない。
 だけど、まだイーガに入りたての私が、何もかもほっぽってウゴウゴしていて良いのだろうか。と、考えるまでもなく、良くないに決まってる。でもお腹が痛くて動けない。
 頭の中でグルグル悩んで、結局は直属の上司に断って、業務をお休みさせてもらうことにした。この時の私には、ここへ来て初めて鍛錬をお休みしたことに、まだ気づいていなかった。

 さて、休みをもらって三日目。漸く復活の兆しを得た私は業務をこなし、鍛錬場へも顔を出すことを決めた。
 「お願いします」と扉をくぐる。すると、私が入るや否や、その場にいる鍛錬班部員から、一斉にギョロッとイーガ瞳を向けられる。
 何事? 目をパチクリさせていると、「あああ!!!」という聞き慣れた大音声。思わず声の方を見上げれば、櫓の上には鍛練班幹部殿がいる。
 呆気に取られてる合間に、まるでホラブリンみたいな器用な動きで、彼がするする降りてきた。
「久しぶりだな!?どこにいたんだ、最近全然会えなかったから・・・急に来なくなって心配したんだ」
 久しぶり? この人はいつも、ことさらに大きく物を言う。だってたったの3日のことだ。
 そのままを伝えたけれど、焦ったような声は一切変わらない。
「毎日来てた団員を心配するのは当然だろう。何かあったんじゃなくて良かった。どこかで怪我でもしていたらどうしようかと思った」
「そんな大げさな」
「いいや、ここがどれほど剣呑か考えれば、普段との僅かな差を軽んじるべきじゃない」
 暫く姿を見せない団員なんて、いくらでもいるのに。
 と思ったけれど、次に聞こえた溜息で、文句の言葉は消えてなくなっちゃった。
「ああ、でも、…本当に良かった」
 心の底から滲み出てきたような、安堵の声。思わずむずりと胸の中が痒くなるような。
 何を言えば良いかわからなくなって、結局「ご心配おかけしました」と頭を下げた。
 この人、こういうところがある。むずむず感から逃げるように踵を返す。だけど、続けざまに彼が言った。
「それで、この三日間どうしてたんだ?」
 …この人、こういうところがある。悪気なく聞いてくるんだもん。
 私は振り返らずに言った。
「内緒、です!」



 思い出話を聞いていた彼は、むっつりと黙り込んでしまった。
 月のものがきていて、体調が悪い。そう告げるや否や、問答無用で私を座らせて、ブランケットやら温かい飲み物やら。果てには後ろから抱きかかえながらお腹をポカポカの掌で撫でてくる。相変わらず大袈裟なこと。
 そんな甲斐甲斐しい彼に、昔の小さな秘密を暴露するなんて、恋人として容赦がなかったかもしれない。でももう止まらないもんね。
「あのとき医務室とか食堂とか、私が来てないか聞いて回っていたでしょう。行く先々で幹部さんが探してたよって言われるの、すごく恥ずかしかったです」
「・・・すまん」
「単なる月経痛なのにっ」
「本当ににすまなかった!」
 肩越しに下がった彼の頭。私はくすくす笑って、彼の掌を上から抱きしめる。
「すまない、って思ってるなら、・・・しっかり温めてください!」
 それをお詫びとして受け入れようというのだから、私はやっぱり優しい彼女かもね。・・・なんて!
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