2024/12月(7~37)
地底から久しぶりに陽の目を浴びたコーガは、天変地異の猛威を痛感した。
割れた崖から突如として流れ出した大滝。ナボール山の麓に続く雪解け水の川。ぼっとすれば死に直結する日中の灼熱。
しかし、それよりなによりも、コーガの嫌気がさしたのは夜の極寒だった。久しぶりに布団で寝られるぜ、と早めに綿の間へ潜り込んだのも束の間、外扉から容赦なく冷気が忍び込んでくる。最初は布団の中で丸まり、手足を擦り合わせなんとか凌いでいたものの、夏用布団に単なる着流しを着ている現状ではどこまでも凍えるばかりである。
ルンルン気分はどこへやら。「寝れねえ!!」と叫びながら布団を剥いだのは、予定調和に違いなかった。
「身体を暖めるもの、ですか」
廊下ですれ違った幹部を捕まえ、事情を説明する。総長を愛してやまない団員たちなのだ。すぐさま何かしらを準備してくれるかと思ったが、しかし返事は芳しくない。
「実は冬布団もポカポカ薬も足りていない現状でして・・・俺が使ってる冬布団で良ければお部屋にお持ちしますが」
「お前が寒くなンだろ。人が使ってるのはいい」
団員の自己犠牲の過ぎる性分を評価するのは、コーガがもつ立派な総長観と程遠い。
「となると、弱りましたね・・・」と腕を組んで悩むが、ややあって思い出したように「でしたら」と幹部が紡いだ。
「新たな試みで、縫製班が用立てたセーターがあります」
「おお!いいじゃねえか!」
「ただ、その・・・作っている団員の、センスが、ですね」
もごもごと奥歯にものが詰まった言い方だ。やきもきして「いいからもってきてくれ」と指示すると、幹部は恐縮しながらも廊下の奥へと消えていった。
暫くして、はたはたと幹部が小走りで帰ってくる。彼に抱えられるもこもこの塊は、一見すると小さな布団のようだった。
あったかそうじゃねえか、と浮ついたのも束の間、「これなんですが」といいながら広げられるセーターに少々言葉を失った。
『コーガ様に栄光あれ』
緑地のセーターに、団員がよく口にする標語が黄色い糸で編みこまれている。
その下には、団の象徴ともいえる総長・・・つまり自分が、両手でピースをしているイラスト。なんちゅード派手なセーターだ。
「試作品で編んだらしく、着るように頼まれたんですが肩回りがキツくて俺には無理で。コーガ様ならばちょうど良いのではないかと」
「器用なやつがいるんだなぁ。しかしこのデザイン、笑えるな」
「ど、どうでしょうか」
受け取るや否や、コーガはササッとセーターに袖を通す。むっちりとした毛糸の弾力と、重みのある極厚な編地。悪くねえじゃねえか。
「嫌いじゃねえぞ。こういうのは目立った方が良いからな」
到底隠密の統領とは思えない発言だが、彼が派手好きなのはどの団員も承知済みだ。
頭を下げて見送る幹部に、ホカホカ気分でコーガは「あんがとな!」と手を挙げた。
コーガをファッションリーダーとして敬う団員の間で、件のセーターが話題になったのは言うまでもないことである。
セーターの注文が殺到し、縫製班の仕事が増えることになるのだが、それはまた別のお話。
割れた崖から突如として流れ出した大滝。ナボール山の麓に続く雪解け水の川。ぼっとすれば死に直結する日中の灼熱。
しかし、それよりなによりも、コーガの嫌気がさしたのは夜の極寒だった。久しぶりに布団で寝られるぜ、と早めに綿の間へ潜り込んだのも束の間、外扉から容赦なく冷気が忍び込んでくる。最初は布団の中で丸まり、手足を擦り合わせなんとか凌いでいたものの、夏用布団に単なる着流しを着ている現状ではどこまでも凍えるばかりである。
ルンルン気分はどこへやら。「寝れねえ!!」と叫びながら布団を剥いだのは、予定調和に違いなかった。
「身体を暖めるもの、ですか」
廊下ですれ違った幹部を捕まえ、事情を説明する。総長を愛してやまない団員たちなのだ。すぐさま何かしらを準備してくれるかと思ったが、しかし返事は芳しくない。
「実は冬布団もポカポカ薬も足りていない現状でして・・・俺が使ってる冬布団で良ければお部屋にお持ちしますが」
「お前が寒くなンだろ。人が使ってるのはいい」
団員の自己犠牲の過ぎる性分を評価するのは、コーガがもつ立派な総長観と程遠い。
「となると、弱りましたね・・・」と腕を組んで悩むが、ややあって思い出したように「でしたら」と幹部が紡いだ。
「新たな試みで、縫製班が用立てたセーターがあります」
「おお!いいじゃねえか!」
「ただ、その・・・作っている団員の、センスが、ですね」
もごもごと奥歯にものが詰まった言い方だ。やきもきして「いいからもってきてくれ」と指示すると、幹部は恐縮しながらも廊下の奥へと消えていった。
暫くして、はたはたと幹部が小走りで帰ってくる。彼に抱えられるもこもこの塊は、一見すると小さな布団のようだった。
あったかそうじゃねえか、と浮ついたのも束の間、「これなんですが」といいながら広げられるセーターに少々言葉を失った。
『コーガ様に栄光あれ』
緑地のセーターに、団員がよく口にする標語が黄色い糸で編みこまれている。
その下には、団の象徴ともいえる総長・・・つまり自分が、両手でピースをしているイラスト。なんちゅード派手なセーターだ。
「試作品で編んだらしく、着るように頼まれたんですが肩回りがキツくて俺には無理で。コーガ様ならばちょうど良いのではないかと」
「器用なやつがいるんだなぁ。しかしこのデザイン、笑えるな」
「ど、どうでしょうか」
受け取るや否や、コーガはササッとセーターに袖を通す。むっちりとした毛糸の弾力と、重みのある極厚な編地。悪くねえじゃねえか。
「嫌いじゃねえぞ。こういうのは目立った方が良いからな」
到底隠密の統領とは思えない発言だが、彼が派手好きなのはどの団員も承知済みだ。
頭を下げて見送る幹部に、ホカホカ気分でコーガは「あんがとな!」と手を挙げた。
コーガをファッションリーダーとして敬う団員の間で、件のセーターが話題になったのは言うまでもないことである。
セーターの注文が殺到し、縫製班の仕事が増えることになるのだが、それはまた別のお話。