短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
美しい花々が咲き誇るフラワーショップの一角で、ふわりと名前は笑みを浮かべた。
「そういえば実弥さんから聞きました。玄弥君、先日出場した射撃の大会で優勝したのでしょう?」
「うぇっ!?あ、兄貴!?……あっ…その、兄貴は名前さんに、なんて言ってたんすか?」
「ふふ、いつも通りですよ?射的ばかりじゃなく数学も勉強しろ、ですって。実弥さんは玄弥君の事が余程可愛いんでしょうね」
クスクスと可愛らしい笑みを浮かべながら、玄弥の向かいでコーヒーを口に含んだ名前は、彼の手元を覗き込み、スッと指を動かした。
「玄弥君、これ間違ってないかしら」
「えっ、……どこっすか?」
「ほらここ。この期待値というのは……ほら、ここで確率を計算して……」
名前の指を追いながら、オロオロと計算式を書き出し始めた玄弥を見つめ、名前は人知れずため息を吐く。
〝実弥さんも素直に褒めてあげればいいのに……玄弥君の為にあんなに真剣に問題を作ってあげるほどだもの。きっと射的のことも、なんだかんだ言って認めてあげているんじゃないかしら〟
今頃、生徒達の為にとせっせっと働いているだろう彼の姿を思い浮かべ、名前は優しく目元を緩ませた。
******
玄弥が通うきめつ学園には、彼の兄でもある実弥が数学教師として勤めている。
彼ら以外にも、理事長・校長の産屋敷夫婦や、公民教師の悲鳴嶼、美術教師の宇髄、………それだけではない、伊黒や冨岡、煉獄といった教師陣は名前にとっても気を許す仲である。
その中でも、生物教師の胡蝶カナエとは気心の知れた親友なのである。
だがそれはなにも、今世に限った事ではない。
皆と知り合ったのは今より百年程前の事である……
大正時代、人々を苦しめる鬼という生き物がいた時代。
それを阻止しようと日夜命懸けの戦いをしていた鬼殺隊という組織に名前は身を置いていた。
それは言わば前世という奴で、その頃出会ったのがカナエや実弥、玄弥といった面々だった。
当時、名前はカナエと同じ花の呼吸を使いこなす隊士で、その頃からカナエとは特別仲が良かった。
二人で何度も危険な任務をこなしてきたし、カナエが柱に就任した時だって、妹のしのぶと一緒に大喜びした程だ。
だがあの日……
カナエと共に訪れた任務先、突然現れた上弦の弐を相手に、二人で必死に攻撃を仕掛けたが、力の差は歴然だった。
名前が先に鬼に捕まり、利き腕をあらぬ方向へ捻じ曲げられた時、彼女を庇うように飛び出したカナエが名前を取り戻す代償に、命を落とすほどの致命傷を負ったのだ。
「なんでっ、… 名前さんもいたなら、姉さんを助けられたでしょうっ、……どうしてっ!?」
あの時親友の最後を看取り、自暴自棄になった彼女の妹に責められた名前は、自分の無力さに涙した。
それに追い打ちをかけるように、あの任務の後遺症で上手く動かせなくなった利き腕が、名前を更に追い詰めた。
「……お前が全てを背負う必要なんてねェ筈だァ。俺が名前の思いを繋いでいく……だから、そんな顔ばかりすんじゃねェェ……」
そんな名前を暗闇のどん底から救い出してくれたのが、今の夫……実弥の存在だったのだ。
姉を失ったしのぶを支える為にと、隊士を辞めた名前が蝶屋敷で働き出せば、実弥は名前を気にかけ時折蝶屋敷へ顔を出すようになった。
そして何でも抱え込んでしまう名前に寄り添い、彼女の心が軽くなるようにと実弥は何度も優しい言葉をかけ続けた。
そんな彼の優しさに、名前も自然と笑顔が増えていき、気づけば彼に想いを寄せるようになっていった。
そして最後の戦いが終わった時、余命数年となった彼を支える為、名前は実弥の妻となる事を選んだのだ。
「名前……すまねェっ、…お前を一人にしちまうなァ、……」
「いいえ、実弥さんから沢山の思い出を貰いました。私はそれだけで充分です。……貴方の妻にしてくれて、ありがとうございますっ、」
涙を流しながら看取った最愛の夫も、
大好きな親友のカナエも、
骨すら残らず消えていった義弟の玄弥も、
それだけじゃない。
あの戦いで命を落とした大勢の仲間たちと、再び出会い、またあの頃のように同じ時を過ごしている。
「あら、名前ちゃん。今日は随分と機嫌がいいのねぇ〜。何かいい事でもあったのかしらぁ?」
「カナエさん、お仕事お疲れ様です。ふふっ、分かりますか?さっきまで玄弥君が来ていたんです」
「あらあら、名前ちゃんのお店は生徒達にも大人気ね。あの謝花兄弟も名前ちゃんに懐いてるって…甘やかし過ぎだって不死川君が妬いていたわよ?」
そう言って、ふわりと花のように笑ってみせたカナエに、名前はほんのり頬を染める。
「そんな甘やかしてなんて……彼らには、度々勉強を教えてあげているだけだもの。妬いてるだなんて、揶揄わないで下さい…」
「うふふ、真っ赤になって可愛いわぁ!」
彼女が口にしたように、あの頃鬼殺隊と対峙していた鬼達も、今世では人として生まれ変わり、平穏な日常を送っている。
その中には、上弦の鬼でもあった謝花兄弟や、狛治、それから彼の結婚相手でもある恋雪など……
前世では絶対に相容れない彼らと一緒のテーブルを囲って談笑する日が来るなんて、一体誰が想像出来ただろう。
最初は、暇を見つけては名前の元へ訪れるカナエや実弥の為に用意した小さなカフェスペースが、今では穏やかな幸せを噛み締める、名前にとっての大好きな場所となっているのだ。
「……あ、そうだわ。カナエさん、少し待っていて貰えないかしら」
その一言を残し、作業台の方へ姿を消した名前は、数分後、小さな花束を持って戻ってきた。
「名前ちゃん、それってカスミソウ?」
「はい。とても可愛らしいでしょう?私カスミソウが大好きなんです」
そう言って、その花束を差し出した名前に、カナエはキョトンと首を傾げる。
「それを私に?」
「ええ、カナエさんに私から送りたいんです。いつもありがとうございます」
「ふふっ。嬉しいわぁ、ありがとう!!……じゃあ、お礼に名前ちゃんにはコレをあげる」
名前の掌にちょこんと乗せられた可愛らしい包み。そこから漂うチョコレートの匂いに、名前がパチクリと瞬きをすれば、クスクスと笑みを溢したカナエは店の入り口を指差した。
「名前ちゃんが淹れてくれる美味しいコーヒーのお供にと思ったんだけど、お迎えが来たみたいだから、コーヒーは別の機会にしておくわ」
その言葉に釣られて、名前がゆっくりと振り返れば、店の外で此方に背を向け佇む実弥の姿が目に入る。
いつからそこにいるのか知らないが、此方を気にして声もかけずに待っていてくれた不器用な優しさに、カナエと顔を見合わせて思わずくすりと笑ってしまった。
******
「本当に送って行かなくて大丈夫ですか?」
「もう、名前ちゃんたら心配性ね。こんなに平和な世の中になったじゃない、私なら全然平気よ!!」
あの後、名前の提案を笑顔で断ったカナエは、また来る事を告げると颯爽と店を出て行った。
それを見送った名前は、店の戸締りを確認すると、外で待っていた実弥に嬉しそうに駆け寄った。
「実弥さん、お待たせしました。いつもすみません」
「あ?別に学校からの帰り道だからなァ……んなこと気にしなくていーんだよォ」
そう言って、ぽんと頭を撫でてくれた実弥に名前は思わず頬を染める。
〝私は本当に幸せ者ですね〟
そんな事を思いながら、名前がクスクスと笑みを溢せば実弥が不思議そうに問いかける。
「どうしたァ?えらくご機嫌じゃねェか?」
「いえ、大した事じゃないんです。それより、ほら!見てください!!カスミソウがあまりにも綺麗だったので、家でも飾ろうと持って来たんです」
そう言って微笑む名前が可愛らしくて、実弥も優しく目元を緩ませた。
******
夕飯後、二人で仲良くソファーに座りカナエに貰ったチョコレートを一緒に食べる。
「美味しいですね」
終始にこにこと嬉しそうに頬を緩めている名前の様子に、実弥も釣られて口角を上げる。
それからチラリと窓際に飾られた花瓶に視線を移した実弥は、徐に名前へと問いかけた。
「で、何でお前はそんなに機嫌がいいんだァ?」
「……へ?」
まったりした時間によほど気が抜けていたのだろう。素っ頓狂な返事をした名前に、実弥が小さく噴き出せば、真っ赤な顔で笑わないでと抗議された。
それから、恥ずかしそうに視線を泳がせた名前は、小さな声で問いかけた。
「実弥さんはカスミソウの花言葉を知っていますか?」
「……花言葉ァ?」
その問いかけに実弥が首を傾げると、先程の反撃とばかりにクスクスと笑みをこぼした名前が、優しい口調で話し出す。
「無垢の愛、感謝、幸福……
最近、ふと思うんです。実弥さんに、カナエさん、玄弥君……ううん、それだけではないですね。あの頃命を落とした仲間達や、鬼になってしまった者達も、こんな穏やかな世界で今は平和に暮らしている。それって、なんて幸せなことだろうって……」
「……ああァ、」
「私は幸せ者です。またこうして実弥さんのお側にいられるんですもの」
そう言って、嬉しそうに微笑む名前に、実弥も釣られて口元を吊り上げた。
それからそっと彼女の手を包み込むと「名前らしいなァ」なんて笑いかけ、楽しそうに口を開いた。
「確かに、またあの頃と同じ顔触れに会うなんてなァ……まぁ、何かと教室を爆破させたり、竹刀で生徒を追い回したりする奴もいるから飽きはしねェが…」
「ふふっ。誰の話ですか、それ?」
「それに謝花兄弟は、教師の言うことを碌に聞きやしねェが……まぁ、妹思いのいい兄貴だろうな、ありゃァ」
「ふふっ、確かに言えていますね」
実弥の言葉に名前もクスクスと笑いながら相槌を打っていれば、ぎゅっと繋いだ手に力が込められる。
それに驚き彼を見上げれば、実弥は眉を下げながらぽつりと小さく呟いた。
「あの頃一緒にいてやれなかった分、もっともっと幸せにしてやるつもりだからよォ……覚悟しておくんだなァ」
「……はい」
それに頬を赤く染め頷くと、照れ隠しでガシガシと乱暴に頭を掻いた実弥と目があって、二人は思わず破顔した。
そんな幸せそうな二人を窓際に置かれたカスミソウだけが、優しく見守っているのだった。
******
翡翠様、リクエストありがとうございました。
リクエスト内容↓
設定は鬼滅学園軸。花屋を営む夢主と実弥さんは夫婦。(二人とも前世の記憶有り)そんな二人が隊士も鬼も皆無事に転生出来て良かったと、今の状態がとても幸せだとしみじみと笑いあうお話。
詳しくは詳細※実弥夢に記載してあります。
実弥さんと幸せを噛み締めるお話を目指しましたが、ご希望に添えていますでしょうか?
妓夫太郎夢に関しては、もう少しお時間をいただくかもしれません。しばしお待ち下さい。
楽しく読んで頂ければ幸いです。
2022/03/13 おもち