運命の帰路(翡翠様リクエスト)
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名前の元を可楽が訪ねるようになって、
半年ほど経ったある日ー……。
その日もいつもと同じように彼女と出会った森へとやってきた可楽だが、森の入り口へと足を踏み入れた所で、彼はピタリと歩みを止めた。
「…‥先客とは珍しいのぅ」
可楽が感じた違和感は、名前以外の複数の気配。
恐らく気配からして鬼ではなく、人間……。
こんな森の奥までやって来るあたり、鬼狩りなのかもしれない。
消極的に見えたとしても、例え臆病だとしても、名前だって一端の鬼である。
直接聞いたことはないが、気配からして沢山の人間を殺めてきたことは確かだし、心配する必要はないはずなのに、無意識に歩みが早くなる。
〝万が一の時は、儂が間に入ればいい。
それにいつもはぐらかされてしまう、名前の血鬼術を拝む絶好の機会じゃからのぅ〟
はやる気持ちを都合の良い理由でこじ付けて、可楽は木々の間を駆け抜ける。
そうして森の奥を目指していれば、やはり可楽の読み通り、複数の鬼狩りに囲まれている名前の姿が目に入る。
「……帰って下さい。私は貴方達と戦う気はないんです」
しかし、名前が鬼狩り達へとかけた言葉に、可楽の足は必然的に止まってしまう。
〝……戦う気はない、じゃと?〟
まさに寝耳に水。消極的にも程がある。
可楽は、名前の言葉に驚きながらも、事の成り行きをそっと見守ることにした。
勿論、鬼狩り達に至っても、そんな言葉を信じる筈もなく、名前目掛けて次々に技を繰り出していく。
それに比べて、先程から防戦一方の名前は、鬼狩り達の斬撃を躱したり、逃げたり……
まるで戦う様子がないのだ。
この風向きが悪い状況から察するに、名前の血鬼術はかなり非力なものなのかもしれない。
そんな考えが頭を過り、可楽が徐に団扇を振り上げた瞬間ー……、
ひどく美しい笛の音が、その空間に響き渡る。
その音色は、先程まで攻撃をのらりくらりと躱してばかりいた名前から発せられていて。
横笛を吹くその姿は、どこか儚く美しく…
戦いには、不釣り合いの様に思えた。
そんな名前の姿に目を奪われていた可楽だが……
「……がはっ、やめろ!悪鬼めっ!!」
「来るなっ、来るなーー!」
鬼狩り達の悲痛な叫び声を皮切りに始まった目を疑うような光景に、可楽の思考は再び現実へと引き戻される。
彼女が横笛を吹き出した瞬間、鬼狩り達は同士討ちを始めた。
まるで互いが敵であるかのような言葉を口走りながら、仲間内で斬り合いをする様は、まさに地獄絵図。
一人、また一人と倒れていくたびに、赤が足元に広がっていく。
そうして、あたり一面が血の海になる頃には、横笛を奏でる名前一人しか立ち上がっている者はいなくなっていた。
恐らく幻覚の一種なのだろうが……
その一部始終を見ていた可楽は、なんて残酷で厄介な血鬼術なのだろうと思わず感心する。
そして、その頃には、名前の笛の音も止まっていて。
亡骸達の側に立っている名前の元へ、可楽はゆっくりと歩みを進める。
「随分と面白いものを見せてもらったのぅ」
「っ、可楽……いつから、そこにいたの?」
「何、ついさっき来たところだ」
突然姿を現した可楽に名前はびくりと肩を揺らす。
そんな名前に対して、いつもの調子で話しかけ、美しい旋律だったと言う可楽に、名前は素直に礼を述べる。
しかし、どこか浮かない表情をしている名前に、可楽は不思議そうに首を傾げた。
「見事な戦いだったというのに、浮かない顔じゃのう?」
「……え?」
「戦うつもりはない……先程そう言っておったが、それと関係があるかのう?」
「っ、」
「良ければ、儂に話してみぬか?」
そう言ってこちらを気遣う可楽の様子に、名前は困ったように眉を下げた。
それから少し躊躇うような素振りを見せた後、名前は遠慮がちに口を開いた。
「……私は争い事が嫌いなの」
「争いが……しかし、鬼である限り、儂らに争いは付きものではないか?」
「分かってる。分かってるけど……私は相手が鬼でも人間でも……誰かを傷つけたくはないの」
そう言って悲しそうに瞼を伏せた彼女に、可楽はふっと笑みを溢す。
それに名前が驚き彼を見上げれば、なんとも名前らしい考えだが、儂はとても好ましく思うと笑いかけられ、名前は思わず息を呑む。
今まで自分の想いを伝えても、馬鹿にされ、立ち向かって来る鬼を返り討ちにしてきた彼女。
可楽に至ってもきっと同じ……
理解してもらえることはないと思っていたのに、この想いを聞いてもなお、彼は優しく笑いかけてくれる。
それが彼女にとっては驚くべきことで、どれほど嬉しい事だったのか、可楽は知る由もないのだが。
「だがのう名前、現実はそうもいかない。その優しさは命取りになりかねない」
「それは…可楽の言う通りだと思う。私も頭では理解しているの」
「だったら「でも!でも…、ごめんなさい。それでも私は争いたくはないの、誰かを傷つけたくはない……」
「……名前」
可楽が、自分を心配して優しく諭してくれているのが分かるから、名前はその優しさに思わず声を震わせる。
「……ははっ、……こんなことを言う私は、やっぱりただの臆病者でしかないみたい」
そう言って、泣き出しそうな表情で強がる名前を、可楽はそっと抱き寄せる。
「臆病者ではない、名前はただ優しすぎるだけだ」
「っ、……」
思わず守ってやりたい衝動に狩られ、名前を抱き寄せた可楽に対し、抱き寄せられた名前本人は、突然の状況に驚き固まってしまう。
だが、そんな彼女の反応に構わず、可楽は再び口を開く。
「だが、以前言ったように儂は名前を気に入っておる。だから名前が儂の前から居なくなってしまうのは嫌だからのう……殺生を好まぬ名前には酷だと思うが、もしもの時は割り切って戦ってはくれぬか?」
「……可楽」
「儂の頼みだと思うて、承諾して貰えんかのう?」
そんな名前に対し、まるで、そうして貰わなければ困るとでも言わんばかりの物言いで。
何故こんなに必死になって説得しているのかと、可楽が自問自答していれば、名前も漸く折れてくれたようで、腕の中で小さく頷いた彼女に思わず笑みが溢れ落ちる。
自分の言葉を素直に受け止め受け入れてくれた名前の事がとても嬉しくて、可楽はきつく彼女を抱き締める。
同時に、彼女の存在が自分の中でこんなにも大きくなっていた事を思い知る。
〝……なんじゃ、儂は名前の事を好いておったのか〟
漸く気づいた自身の想いに、可楽は随分浮かれていた。
「名前なら、分かってくれると思っておった!」
……だからだろう。
可楽に抱き締められている名前が、何かを考え込むような顔をしているのに、彼は全く気づきもしなかった。
ましてや、その日を堺に、彼女が行方を眩ませるだなんて、今の彼には考えすら及ばなかった。
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翡翠様、お待たせ致しました。
リクエストの2話目を更新いたしました。
最終話は、出来上がり次第
公開させていただきますので
もう少々お待ちくださいませ。
もし、台詞等で
変更して欲しい箇所がございましたら、
お気軽にお声掛けください。 おもち
翡翠様リクエスト(可楽夢)
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