守る為の刀(翡翠様リクエスト)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夕飯の席には小鉄も加わり、皆で仲良く食卓を囲む。
「炭治郎さんに続き、名前さんにまで……いやぁ〜、この短期間で鋼鐵塚さんの
「……その言い方は少し癪に触るな」
「まぁまぁ鋼鐵塚さん、貴方はいい大人なんですから。落ち着いて下さい」
なかなかの毒舌っぷりを見せる小鉄少年に、鋼鐵塚はむっと眉を吊り上げる。それをやんわりと鉄穴森が宥めれば、名前は鉄穴森の妻と顔を見合わせ笑みを溢す。
上弦を倒してからというもの、何処か隊士達の間にもピリついた緊張感が漂っていたが…
〝こんなに穏やかな時間は久しぶりだな〟
皆のやり取りを眺めながら、名前はそっと頬を緩ませるのだった。
******
その晩、皆と別れた名前は約束通り鋼鐵塚の自宅へと招かれていた。
「今日は大勢と話したんだ、疲れただろう?」
「いえ。皆さんいい人達ばかりで、とても楽しかったです」
微笑む名前に、鋼鐵塚もふっと口元を吊り上げると、ぽふっと名前の頭に手を置いて笑いかける。
「そうか。……だがまた明日もあるんだ。今日はもう休むといい」
「……はい、ありがとうございます」
そう言葉を交わして客間まで案内して貰ってから、もう暫く時間は経つが……
なかなか寝付くことが出来ない名前は、そっと部屋を抜け出して縁側で夜空を見上げていた。
「……今日は楽しかったな」
ぽつりと落ちたその言葉は、夜の闇に消えていく。
日頃、鬼と対峙している時間帯に、あんなに平和なひと時を過ごせるなんて思ってもみなかった。
なんて幸せなことだろう…そう感じると同時に、再び鬼の被害が出始めれば二度と味わうことのない時間だと思い知る。
そんな事を考えていれば目は冴えていく一方で、どうしたものかとため息を落とす。
「どうした?眠れないのか?」
すると、名前の背中に優しい声がかけられる。
それに驚き振り向いた名前は、鋼鐵塚の姿を確認すると困ったように眉を下げた。
「…‥鋼鐵塚さん。すみません、起こしてしまいましたか?」
「いや、俺も起きていたから気にしなくていい」
薄着で夜空を見上げる名前に、鋼鐵塚はそっと歩み寄ると、風邪を引いてはいけないからとそっと上着を掛けてやる。
それから再び眠れないのか?と問いかけた彼に、名前は困ったように頷いた。
「なら眠くなるまでこうして居ればいい」
優しく名前の手を掴み、鋼鐵塚は縁側に腰掛ける。それから隣に座るように床をぽんぽんと叩くと、すっと夜空へと視線を上げた。
それに習い、名前も彼の隣に腰掛けると、夜空を見上げ口を開く。
「鬼がいないだけで、こんなにも穏やかな夜を過ごすことが出来るんですね」
「だろうな。日頃鬼と対峙してる者にしか分からない感覚だがな」
「………そう、ですね。早く鬼舞辻を倒して……鬼で苦しむ人がいない、平和な世の中が来るといいです」
そう言って微笑む名前の横顔を盗み見て、鋼鐵塚は彼女と繋いでいる手に力を込めた。
「それまでは俺が最高の刀を打ち続けてやる」
「ふふっ、ありがとうございます。それはとっても頼もしいですね」
その言葉にキョトンと彼を見つめた名前は、嬉しそうに頬を染めながら頷いた。
******
翌日から名前は充実した日々を過ごした。
毎朝、早くに起きて朝御飯の支度をし、鋼鐵塚と二人で仲良く食卓を囲む。
今日の名前の予定をあーでもない、こーでもない……と、まるで自分の事のように真剣に考え込む鋼鐵塚の姿に、毎朝自然と笑みが溢れる。
日中は簡単な家事をこなす合間に、暇を見つけては彼の作業を見学する。
それから鋼鐵塚の客人が余程珍しいのだろう。時折訪れる里の人達とも名前は楽しそうに会話を交わしていた。
この里の人達は誰も彼もが、とても親切で明るい人達ばかりで、じんわりと胸が温かくなる。
そんな人達に囲まれて過ごすこの日々は、名前にとってかけがえのないものに変わりつつあった。
しかし、そう考えるのは名前だけではないようで。
彼女を慕う鋼鐵塚は勿論、里の者達もいつになく穏やかな鋼鐵塚の姿に、このまま名前が此処に残ってはくれないだろうか……なんて淡い期待を寄せるようになっていた。
だが、そんな日々もあっという間に過ぎていき、気づけば休暇も最終日を迎えてしまった。
明日の朝には里を出発しなければならない為、せめてものお礼にと、その日は朝からみたらし団子を大量に手作りした。
それに彼が頬を緩めるのを眺めて、名前はほっと小さく息を吐いた。
******
その日の晩。
最早恒例になってしまった縁側で、二人は身を寄せ合いながら、一緒に夜空を眺めていた。
しかし普段とは違い二人の間には会話もなく、何処か寂しい雰囲気が漂っている。
そんな中、静まり返った空間に名前の声がぽつりと響いた。
「こんなに穏やかに過ごせたのは久しぶりでした。……ずっとこうしていられたら、どんなに幸せなんでしょうね」
まさに今、自分が考えていた事を口にした名前に、鋼鐵塚は少し躊躇った後、勇気を出して言葉を紡いだ。
「……ならずっとここにいればいい」
「……え?ここに?」
その言葉に名前は戸惑いながら彼を見上げる。
「分からないか?……俺は、……名前のことが好きなんだ。俺と夫婦になってくれないか?」
「っ、……」
その何処までも真っ直ぐな言葉に、名前も想いが込み上げる。
「……ありがとうございます」
「なら「でも、ごめんなさい。……私は鋼鐵塚さんが思うような人間じゃないんです」
それと同時に、彼の隣に自分は相応しくないと、名前は悲しそうに目を伏せた。
「俺の事が嫌いか?」
普段の何倍も弱々しく聞こえる彼の声に、名前は必死で首を横に振る。そして私も鋼鐵塚さんの事が好きです、と恐る恐る自身の想いを口にした。
「でも、私に出来るのは鬼の頸を斬る事だけでしたから……世の女性のように綺麗に着飾ったり、好いた人の為に自分を磨いたりする余裕はありませんでした……それどころか、私の体は古傷だらけで……全然女らしくないんです」
「……そんなこと気にすると思うのか?」
「え?」
そんな名前の言葉に、鋼鐵塚はぐっと拳を強く握ると、声を抑えて問いかける。
それに名前が驚いたように顔を上げれば、それ以上自分を卑下するんじゃない、と鋼鐵塚は語尾を強めた。
「でもっ、……」
「その傷は、誰かを助けた証だろう!!」
そう言って名前の両肩を掴めば、名前は大袈裟な程に肩をびくつかせる。
それでも構わず鋼鐵塚は、名前に言い聞かせるように優しい口調で言葉を紡いでいく。
「人を守る。……簡単に聞こえるその台詞も、日頃から努力していなければ到底出来るものじゃない」
「……」
「俺はそれを知っている。名前はもっと胸を張ればいい……今まで、俺の刀で沢山の命を救ってきてくれたんだろう?」
その一言に名前が驚き目を見開けば、少しだけ沈黙した後、鋼鐵塚はふっと笑みを浮かべた。
「俺が見合いをした話は里長から聞いたか?」
それに名前が戸惑いながら頷くと、名前の目をじっと見つめた鋼鐵塚は、断った理由を教えてやると口にした。
すると、その状況を思い出しているのだろう。名前を掴む両手に力がこもり、彼は苦しげに言葉を続けた。
「今の時代に刀は古いと言われたんだ」
「なっ、」
「刀なんて野蛮な物を作って欲しくないとも言っていたか……」
その言葉が、彼の刀鍛冶としての誇りをどれだけ侮辱し傷付けたのか。
それを誰よりも理解しているからこそ、名前は何て声をかけたらいいのか…と思わず言葉を失くしてしまう。
そんな名前を見つめ、ふっと小さく息を吐いた鋼鐵塚は、だがな……とその先の言葉を続けた。
「その野蛮な刀を使って人々を守っている人が居て、その刀を打てる事を誇りに思っている……そう相手には伝えたんだ」
「そう、ですか……」
「見合いは断ろうにも断れない状況で、相手に失礼がないように途中までは接していた。……勿論そんな話今まで一度もなかったから、少しばかり浮かれてしまった自分もいたが……それでも名前の事がずっと頭にちらついた」
「………」
「……まぁ、今回の見合いは俺に名前のことが好きだと自覚させる為に、わざわざ仕組まれた話だったらしいがな」
最後に照れ隠しのように明後日の方向へ視線を移した鋼鐵塚に、名前は胸の奥が切なくなる。
ぐっと唇を噛み締めて彼の言葉を頭の中で繰り返す。
次第に視界がぼやけ始め、頬を伝う雫で自分が泣いていることに漸く気がついた。
そんな名前の涙を、鋼鐵塚は優しい手つきで拭ってやり、今度こそ自信を持って彼女への想いを口にした。
「体が傷だらけだろうと関係ない。俺は名前と言う人間を愛してるんだ」
「……っ、」
「俺と夫婦になって、いつまでも側に居て欲しい」
そう言って微笑む鋼鐵塚に、名前は遂には耐えきれず、ボロボロと大粒の涙を零しながらそれに頷いた。
「こんな私でっ、良ければ……鋼鐵塚さん、の、お側に……居させて、下さいっ……」
「ははっ、当たり前だ。お前じゃなきゃ意味がない」
涙を流す名前を強く抱き締めると、鋼鐵塚は愛おしそうに目を細めた。
「……これからは俺がお前を守ると約束する」
******
翌日。
二人は鉄珍の元へと訪れていた。
「おおっ、やっとくっついたんか!このまま別れたら、どないしようかと思ってたんや」
出迎えて早々、嬉しそうに笑い声を上げた鉄珍に、名前は思わず苦笑いを浮かべた。
「妻のことをお館様に報告しに行く許可を貰いたい」
そんな名前の肩を抱き、鋼鐵塚は鉄珍に真剣な表情で問いかけた。
「妻って、まー…くっつくまであんなに焦ったかったんが嘘のようやな」
「あ、ははは……すみません」
鉄珍の突っ込みに、名前は顔を真っ赤にして俯いた。
そんな二人に、改めて鉄珍は祝福の言葉を投げかけると、お館様には鴉で伝達しておくから直接報告しておいで、ともう一度嬉しそうに笑い声を上げた。
その足で隠に連れられて、初めて鬼殺隊本部へと足を踏み入れた二人は、あまね様を通してお館様からも祝福の言葉を頂いた。
「ありがとうございます。……あの、折角お祝いの言葉を頂いたばかりなのですが……」
「どうかされましたか?」
名前の言葉にあまね様は柔らかく笑いかける。
それに名前はぐっと口を噤むと、罪悪感に押し潰されそうになりながらも意を決して口を開く。
「誠に勝手ではありますが、……隊士を引退し、これからは後方支援に回らせて頂くことは可能でしょうか?」
「俺からも、どうか宜しくお願いします」
それは昨晩二人で話したこれからの事。
大きな決戦を前に身勝手ではあるが、それでも失いたくないものを二人は見つけたのだ。
それこそ、周りに罰せられようが罵られようが、これから先、二人が離れる事は決してないー……。
二人は深く頭を下げ、どうにかこの想いが伝わればと願いを込める。
しかし、そんな二人を見たあまね様は、彼らを叱りつけるどころか、ふっと笑みを深くすると名前に向かって深く頭を下げた。
「此方こそ、苗字様には今まで鬼殺隊の為に身を挺して頂いて……感謝してもしきれません。産屋敷家を代表し、心から感謝申し上げます」
「そんなっ、……どうか、お顔を上げてください」
あまね様の優しすぎる言葉に、名前は慌てて声を上げる。
しかし、顔を上げた彼女が続けた言葉に、名前は思わず涙を浮かべた。
「今まで隊士として第一線を走り続けてこられたのです。これからはご自分の幸せを大切にして下さい」
「あまね様っ、」
「これは夫、産屋敷耀哉の言葉でもあります。お幸せにして下さいね」
「……はいっ、ありがとうございます」
涙を流す名前の背をそっと支える鋼鐵塚の姿に、あまね様は嬉しそうに目を細めるのだった。
******
それから数日後。
隠れ里にて、集まった仲間達に囲まれて嬉しそうに笑う二人の姿がそこにあった。
元柱でもある宇髄夫婦が介添人として出席し、執り行われた祝言は、楽しそうな笑い声で溢れている。
「その簪、名前によく似合っている」
「ふふっ、ありがとうございます」
「ああ、とっても綺麗だ」
頬を染め嬉しそうに笑った花嫁の頭には、美しい藤の花が描かれた簪が、太陽の光を浴びきらきらと輝いていた。
******
翡翠様、リクエストありがとうございました〜。
そして大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。
詳細※鋼鐵塚蛍
あまりに長くなってしまった為、集中力が途切れ途切れ……になってしまい、また誤字脱字連発しているかもしれません(言い訳言ってすみません……)
また何かお気づきの点がございましたら手直し致しますので、お声かけ下さい。
お話がご期待に添えていれば幸いです。
おもち