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 街なかで見かけるあの子は、いつも美しい無だった。纏っているのはいつだって黒のMA-1で、脚線美を誇るパンツスタイルで。

 本物の宿命の女は、魔性の女は、生きながらえるだろうと思う。
「ララ、今日は灰色だね」
「そう。色味が暗めで白っぽかったわ」
学の何を指しているのかわからない言い方に、可愛いなぁなんて思いつつ、アイメイクのことだと気づいてそう返す。今日のわたしの格好は茶系だから。
「でも、綺麗」
「そう? ありがと」
美しく微笑みを浮かべていられたらいいのに。そう願いながら学を見上げた。
「オレ今日うれしうれし」
「なにに?」
「ララの好きなもの知れるから」
曖昧な返事をして、街ゆくさなかに時折聞こえてくる下賤な言葉にわたしは首を傾げた。
「ララは可愛い」
「ん、ありがと。学はかっこいいね」
たまらなくこのひとを愛おしく思った。わたしの夢見ている俳優の高本学くんに少し申し訳なく思う。彼のことを知れるのは、彼が書いた話した言葉と写真からだけ。それでも、わたしの一等賞はあなたなの。

「なに食べよっか、今日」
H&Мに入って、唐突に問うてみた。つまり、お腹が空いた。
「オレなんでもいい」
学に似合いそうだなと思ったワイドパンツを手に取ってわたしに合わせてみると学もなにか違うと思ったのか首を振った。
「じゃあ、煮物やな。お茄子と厚揚げ。牛蒡と蓮根。魚も煮付けでいい?」
深鍋のフライパン一つで出来る料理を並べてみた。
「えー。いや」
実際に作るとしたらやっぱり美味しいと言ってくれるのだろうけれど、わたしたちが考えたことが一緒だったのか。笑ってしまった。
「和食より洋食が食べたい」
どちらからともなく、揃いの声でそう呟いた。
「イタリアンで、行きたいところあるの」
「じゃ、そこ行こ」

 茶屋町に行くとあるのが、どこからともなくピッツァの焼けるいい匂いのするイタリアンレストラン。
「オレパスタとピザどっちも食べたい」
「わたしも。ここのサラダどんなドレッシングやろ」
メニューは宝箱。
「全部頼も。オレが奢るし」
「学だーいすき♡」
「あ、デザートは?」
「歩き疲れたら他のカフェ行こ」
「うん」
「わたしマルゲリータとモッツァレラチーズのポモドーロがいいな」
「オレこれにするわ」
「マルゲリータでいい?」
「いいよ。そうしよ」
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