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「ララ、オレのはじまりはたぶんララだよ」
横に並んでいるときで、表情が読めない。ちゃんと見てられない。けれど、綺麗だとは思った。
「どういうこと?」
お兄さん、まだ、お兄さん。どう例えたらいいかわからないけれど、お兄さんだから、お兄さんって呼ばないのに、心のなかではずっとお兄さん。
「だって、ララは、オレの名前も顔も忘れちゃうでしょ」
「うん、そう。それは…そう」
「ララ、着いたよ。おいで」
手を繋ぐ。誘い。読みはいざない。それから、こわいから心臓がとくとくと音を鳴らしているだけ。ちょっとちがう。でも、こわい。

 全身を見られる鏡があるところがいい。見ていたくないけれど、自分が、本当に愛されることに見合う女のからだをしているのか、わからないし、ちゃんと見る。
 右胸にほくろ。胸は大きめ。本当にF65あるんだけどな。それから、下に目線をずらすとあるのは、右腰にほくろ。右の太ももにもほくろ。
 身長はマリリン・モンローのほうが高いし、わたしの手首は思いのほか、細い。でも、マリリンがしていたみたいなポージングを撮ってみると、わたしって結構色っぽいからだをしてるんじゃない? なんて嬉しくなる。
 横から見ると、気味悪いから見たくない。十歳のときからおへそあたりの膨らみが気になる。痩せようと鍛えようとなくならないから諦めた。
「楽しい?」
名前を呼ばれた。はっとなる。
「わたしってちゃんとしたくなる女?」
「うーん、なるよ。安心して」
こわい。ギラつく目ってきっとない。ずっと微笑ましく思われているのかな。弧を描いた目の形が、こわい。
「あ、うん」
痛い。ヒリヒリする。気持ちいいの男だけやん。苦しい。声、なんて出ない。苦しい。ずっとお腹の中が苦しい。
「ララ」
「あ、い」
痛いって言ったら嫌われるかな。気持ちいいなんて嘘つき。どの小説も、どの漫画も、本当のこと、教えてくれてなかった。
「あ、あ」
でた。声、でた。こわい。苦しい。痛くはなくなったけど、ずっと違和感あり、ってやつ。こわい。
 お兄さんの顔を見ていられなくて、ずっと胸板あたりを眺めていたけれど、ちゃんとお顔を見てみる。
「あー、いい」
やだ。他の女と比べないで。でも、比べる女がいないと、わたしは特別になれない。あ、どうしよう。あのひとの名前…なんだったけ。
「ララ」
「あ、うん」
こわい。苦しい。気持ちいいなんてうそ。涙出たりなんてしない。
「かわいいね」
髪を撫でられると、ぞわっとする。愛の行為とか嘘つき。わたしのこと見てくれているから、楽しい。嬉しい。けれど、結局独り善がり。
「あー、かわいい。かわいい」
嬉しい。けど、哀しい。他の女には言ってないよね。でも、わたしだけ。そう、わたしだけ。
「全部、聞こえてるよ。ララの声、かわいい」
優しいお兄さん。そんなの存在しない。ひどい。
「お返ししていい?」
美味しいの仕草は美味しいときにしか使わない。BuonoはBuonoだから。子どもがする、仕草らしいけど。

 写真のお兄さんのこと、やっぱりわからない。名前はきれいだから、忘れても思い出せるかな。

 どんな姿形でも、わたしはきれいなひとがいい。
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