とある書簡

 ――教皇シオン猊下 御机下――

 拝啓 

 聖域に吹く春の風が、穏やかに貴殿の御身を包んでおりますことを、遠きエルダニアよりお祈り申し上げます。
 このたびは、メリッサ・ドラコペトラ嬢を、我が国の国費留学生として迎え入れることをご許可賜り、心より御礼申し上げます。
 まず、国王として申し上げねばならぬことがございます。
 過日、我が国において彼女が受けた扱いは、決して相応しきものではございませんでした。
 王家の保護のもとにあるべき客人でありながら、その安全を十全に守れなかったこと。
 彼女を危機へと晒し、精神的にも重い負担を負わせてしまったこと。
 それらすべては、エルダニア国王たる私の責にほかなりません。
 ここに、深く、そして心からの謝罪を申し上げます。
 また、此度の留学は、結果として貴殿とメリッサ嬢を遠く引き離す決断ともなります。
 彼女の未来を思えばこその選択とはいえ、御心中いかばかりかと拝察いたします。
 それでもなお、彼女の志を尊重し、送り出してくださったご英断に、深甚なる敬意と感謝を捧げます。
 エルダニア国王として、私はここに明言いたします。
 メリッサ・ドラコペトラ嬢の立場と名誉は、国家の威信をもって守り抜くことを。
 彼女に対するいかなる不当な扱いも、断じて許しません。
 さらに――
 将来、教皇妃となられるべき御方として、ふさわしき教養と品位を身につけられるよう、王家の責任において淑女教育を施すことをお約束いたします。
 それは、単なる形式的な作法の教授ではございません。
 一国の王妃にも比肩し得る立場に立つ女性として、揺るがぬ自信と知性、そして慈愛を備えられるよう、私自らも関わり、心を尽くす所存にございます。
 彼女は、光を宿す人です。
 その光が曇ることなきよう、今度こそ、王として守り抜くことをここに誓います。
 遠く離れてもなお、彼女の心の支えが貴殿であることは、疑いようもありません。
 どうか御安心のうえ、聖域の重責にお励みくださいませ。
 結びに、貴殿の御健勝と聖域の安寧をお祈り申し上げます。

 敬具

 エルダニア王国国王
 アリシア・ローズマリー・フォン・エルダニア
 ――薔薇の王章印――
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