Eine Kleine Ⅲ

 それぞれのフロアでエレベーターを降り、二人は一度、別れた。
「では、また後で」
 そう言って微笑んだシオンの背中を見送りながら、メリッサは自分の胸の奥が、ひどく落ち着かないことに気づく。
 部屋に戻り、シャワーを浴びる。
 髪を洗い、身体を温め、用意されていたルームウェアに袖を通す。
 一つ一つの動作はいつも通りなのに、どこか心が追いついていない。
 昨夜は、一緒に入浴して一緒に眠ったのに、今日は、別々に寝る……?
 鏡の前で、髪を乾かしながら、ふと手が止まる。
 別に、約束をしたわけではない。シオンが「今夜も一緒に」と言ったわけでもない。
(……でも)
 やっぱり、少し、寂しい。
 本当は、シオンの方から言ってほしかった。
「今夜は、そばにいてくれ」と。
 けれど、それを露骨に口にする人ではないことも、よく分かっている。
 理性。
 配慮。
 慎み。
 それらを重んじる人だからこそ、こちらから何も言わなければ、きっと何も起こらない。ベッドの端に腰を下ろし、テーブルの上に置いてあった小さな袋に目が留まる。
「……そうだ」
 小さく声が漏れた。
「チェキ、プレゼントしなくちゃ!」
 クリスマスプレゼントとして用意していたもの。
 シンプルなアルバムを開くと、最初のページに貼られているのは、アテネの港で撮った一枚のセルフィー。
 青い海を背に、少し照れた笑顔の自分。
 これから、二人の思い出を残していきたい。
 そう思って、選んだものだ。
 これは理由になる。口実としては、十分すぎる。
「……うん」
 メリッサはアルバムをそっと閉じ、手に取った。
 胸の鼓動が、少し早くなる。
 廊下に出ると、ホテルの夜は静かだった。足音がやけに大きく感じられる。
 スイートルームの前に立ち、深呼吸を一つ。
 呼び鈴のボタンを押す指が震える。
 (大丈夫。プレゼントを渡しに来ただけ)
 そう自分に言い聞かせて、ボタンを押した。その向こうにいる人が、どんな顔で迎えてくれるのか。それを想像するだけで、胸がまた一段と高鳴った。

 ――反応がない。
 一瞬、胸がざわつき、もう一度だけ指先に力を込めた。
 ほどなくして、内側から足音がして、扉が開く。
「……メリッサ?」
 現れたのは、湯上がりのシオンだった。
 髪はまだ少し湿り気を帯び、普段きっちりと整えられている襟元も、今は緩やかだ。白い部屋着の奥から、かすかに温もりが伝わってくるようで、メリッサの心臓は一気に跳ね上がった。
「あ、えっと……これ!遅くなったけど…」
 言葉を選ぶ余裕もなく、メリッサは両手でチェキとアルバムを差し出す。
「クリスマスの……プレゼント」
 シオンは一瞬、驚いたように目を瞬かせ、それから静かに受け取った。その指先が触れそうで触れない距離に、メリッサの意識はすべて持っていかれてしまう。
「……ありがとう、メリッサ」
 低く、穏やかな声。それだけで胸がいっぱいになる。
「じゃ、じゃあ……おやすみなさい!」
 ろくに顔も見られないまま、踵を返す。逃げるように廊下を進み、エレベーターのボタンを押したとき、ようやく息を吐いた。

 ――なにやってるの、あたし。

 部屋に戻りドアを閉めた途端、背中を壁に預けてずるずると座り込む。
 頬が、熱い。
「……渡せただけ、えらいよね」
 そう呟きながらも、胸の奥には、消えきらない名残が残っていた。
 一方その頃スイートルームでは、ドアの前に立ったまま、シオンはしばらく動けずにいた。
 閉ざされたドアの向こうに、もう気配はない。
「……行ってしまったか」
 手に残るアルバムの感触が、やけに確かだ。
 ソファに腰を下ろし、表紙をそっと開く。
 一枚目。
 アテネの港。
 潮の匂いと、ギリシャの陽射しが、鮮やかによみがえる。
「……そなたは」
 静かに息を吐く。
 プレゼントを渡しに来ただけ、というには、あまりにも慌ただしい去り方。視線を合わせる余裕すらなかった、あの表情。

 ――逃げたな。

 そう思った瞬間、胸の奥に、微かな痛みと同時に、はっきりとした感情が芽生える。
(私が、臆していたのだ)
 誘うべきは、自分だった。
 分かっていながら、踏み出さなかった。
 シオンはアルバムを閉じ、ゆっくりと立ち上がる。濡れた髪を拭く手を止め、扉の方を見る。
「……メリッサ」
 低く、名を呼ぶ。
 このまま、何事もなかったように夜を終わらせることはできない。
 その思いだけが、はっきりと胸に残っていた。凶を引いたあのときのことが、ふと脳裏に浮かぶ。小さく震える肩。御神籤を握りしめた指先の白さ。涙を堪えきれずに俯いた、あの横顔。
 あれは運勢に怯えたのではない。――自分との未来を思い、その行方が見えなくなることを、怖れたのだ。
 シオンは唇を結び、静かに息を吐いた。
 彼女が抱いている不安の重さを、今日まで何度も見ないふりをしてきたのは、自分だ。立場、年齢、役目。いくらでも理由はあった。だが、理由を並べるたび、彼女は一人で揺れ続けていた。
 身体を重ねればすべてが伝わるなどと、浅はかに考えているわけではない。言葉も、態度も、時間も尽くさずに、それだけで信じてもらえるほど彼女の心は軽くないし、心の傷も深い。
 それでも。
 言葉では届かず、理屈では越えられず、沈黙のままでは救えないものが、この世には確かにある。
 抱きしめること。離さないこと。夜を共に越えること。
 それが、逃げではなく、責任として選ばれる瞬間があることを、彼は知っている。
 もう、猶予はない。
 彼女の不安に気づきながら、何も決めずにいることこそが、最も残酷だ。
 シオンは立ち上がり、チェキのアルバムをそっと閉じた。
 一枚きりの写真に込められた願いを、受け取らないままでいるわけにはいかない。
 今夜、決める。
 彼女の隣に立つのか、それとも手を離すのか。
 そのどちらでもなく、曖昧なまま夜を明かすという選択肢だけは、もう選ばない。
 シオンは洗面台の前に立ち、タオルで髪の水気を丁寧に拭った。
 濡れたままの金髪をそのままにしておくほど、今夜は無造作でいられない。櫛を入れ、いつもより時間をかけて整える。着替えも、部屋着ではなく、外に出られる程度にはきちんとしたものを選んだ。
 メリッサを迎えに行く。
 それだけのことなのに、胸の奥に、長いあいだ動かさずにいた歯車が、音を立てて回り始めるのを感じる。
 廊下に出ると、ホテル特有の静けさが広がっていた。夜は深まりつつあるが、眠りに落ちるにはまだ早い時間。足音を殺す必要はないのに、自然と歩調は控えめになる。
 メリッサの部屋の前に立つ。
 ノックをするまで、ほんの一瞬だけ躊躇いがよぎった。だが、それは逡巡ではない。覚悟を確かめるための、静かな呼吸だった。
 コン、コン。
「……メリッサ。私だ」
 返事を待つその間、浅草寺の境内で泣いた彼女の顔が、再び脳裏をよぎる。凶の文字よりも、そこに書かれた「結婚」「付き合い」という言葉に、あれほど心を揺らした理由を、今なら痛いほど理解できる。
 扉の向こうで、気配が動く。
 スリッパの音。布が擦れるかすかな響き。
 ドアが開いた瞬間、シオンははっきりと悟った。

 ――この人を、不安のまま一人で夜に残してはならない。

「驚かせてしまったなら、すまない」
 そう前置きしながらも、声は迷いなく落ち着いている。
「少し、話をしたい。……今夜は、独りで眠らせるわけにはいかぬと思った」
 それは誘いではあるが、曖昧なものではなかった。逃げ道を残さず、強いることもなく、ただ真っ直ぐに差し出された選択。
 シオンは、彼女の目を見て続ける。
「そなたが望まぬなら、ここで引き返す。だが――不安を抱えたまま朝を迎えさせる気は、もうない」
 夜は、静かに二人の前に開かれていた。
 メリッサは、しばらく言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
 扉越しではなく、正面から向けられるその眼差しが、あまりに静かで、逃げ場がなかったからだ。
「……入って」
 小さくそう言って、身を引く。
 それは許可というより、受け止める覚悟の表明に近かった。
 部屋に入ったシオンは、まず一歩だけ距離を取って立った。勝手に近づいてはならない。
 メリッサの部屋は、彼女らしく整っていて、ほのかに石鹸の香りが残っている。先ほどまで彼女が入浴していたのだと思うと、身体の芯が熱を帯びてくる。
「先ほどは……すまなかった」
 低く落ち着いた声が響く。
「呼び止めるべきだった。そなたが不安を抱えたまま戻ると分かっていながら、見送ったのは、私の怠慢だ」
 メリッサは、首を振った。
「違うよ。あたしが勝手に……逃げただけ」
 そう言って、視線を落とす。
 振袖の袂を持て余していたときと同じように。しかし、今は自分の指先を落ち着かせる場所が分からない。
「……でも」
 ほんの少し、間を置いてから続けた。
「迎えに来てくれて、嬉しい」
 その一言で、シオンの表情が、かすかに緩む。
「浅草寺で、そなたが泣いた理由を考えていた」
 責める調子ではない。ただ、確かめるように。
「凶を引いたからではないのだろ?そこに書かれた“結婚”や“付き合い”という言葉が……私との未来に重なったからではないのか?」
 メリッサは否定しなかった。
 代わりに、胸の前で両手をそっと組む。
「……だって、シオン様は、すごく遠い人だから」
 それは身分でも、年齢でもない。彼が背負ってきた時間と責任、その重みのことだった。
「一緒にいると、幸せなのに。その分だけ……怖くなる」
 沈黙が落ちる。だが、それは不安の沈黙ではなかった。
 シオンは一歩、距離を詰める。
 触れるか触れないか、その境界で止まり、静かに言った。
「ならば、伝えよう。私は、そなたと共にある未来を、軽い気持ちで思い描いているのではない」
 そして、ゆっくりと手を差し出す。
「今夜、そなたが望むなら……私の部屋へ来てほしい。共にいることを、確かめ合うために」
 メリッサは、その手を見つめたまま、しばらく動かなかった。
 やがて、そっと、自分の手を重ねる。
「……お願いします」
 指先が触れ合い、静かに絡む。
 それだけで、胸の奥にあった張りつめたものが、音もなくほどけていく。

 シオンに導かれるまま、メリッサはベッドへと横たえられた。
 柔らかなシーツが背に触れ、天井の淡い灯りが、彼の金の髪を静かに縁取る。
「メリッサ……良いか?」
 確かめるような問いかけ。答えを急かさない、その間が、彼の誠実さそのものだった。
「うん……」
 小さな声で、けれど確かな意思を込めて頷く。その瞬間、シオンの表情から、長い逡巡がほどけた。彼は身を低くし、押し潰さぬよう細心の注意を払って覆い被さる。
 唇が重なる。最初はそっと、触れるだけの口付け。けれど、離れがたさを知ってしまったかのように、次第に深くなる。
 メリッサの指が、無意識にシオンの衣を掴む。それに気づいた彼は、短く息を吸い、彼女の額に額を寄せた。
「……怖くはないか」
「……少し。でも」
 視線を逸らさず、続ける。
「シオン様となら……大丈夫」
 その言葉に、彼の胸の奥で何かが静かに決壊した。再び口付けるその仕草は、先ほどよりも熱を帯びているのに、決して乱暴ではない。慈しむように、何度も確かめるように。
 時間の感覚が、少しずつ曖昧になっていく。
 互いの呼吸が重なり、鼓動が近づいていくのが分かる。触れ合うたび、言葉にしなかった想いが、少しずつ伝わっていく。
 シオンは終始、メリッサの表情から目を離さなかった。
 不安の影が差せば立ち止まり、安らぎが戻れば、また一歩踏み出す。それは征服ではなく、寄り添うための歩みだった。やがて、二人の距離は、心も身体も、もう分け隔てがなくなる。
「メリッサ…」
 熱を帯びた声を聞いた瞬間、メリッサの胸に込み上げたものが、静かに溶けていく。
 夜は深く、外の世界は遠い。
 スイートルームの中には、互いを想う気配と、確かな温もりだけが残っていた。
 それは激しさよりも、甘さに満ちた初めて。
 不安を越えて、未来へと手を伸ばすための、静かで確かな始まりだった。

 シオンの指先は、震えを隠そうともせず、メリッサのシャツのボタンを一つずつ外していった。
 小さな音を立てて外れるたび、彼女の胸がわずかに上下する。その呼吸の揺れが、彼の理性を静かに試していた。
 露わになった肌は、驚くほど白く、柔らかそうで――けれどそれ以上に、彼女がそこに「在る」ことの確かさを雄弁に語っていた。
 触れれば壊れてしまいそうで、だからこそ、触れずにはいられない。
「……美しい」
 漏れた声は、賛美というより祈りに近かった。
 メリッサは恥じらいながらも視線を逸らさず、ただ彼を見つめていた。
 過去の痛みも、不安も、すべてを抱えたまま、それでもここに立っている――その強さが、彼の胸を打つ。
 シオンはそっと彼女を抱き寄せる。力を込めすぎぬよう、包み込むように。額に、頬に、唇に、確かめるような口付けを重ねていく。
 一つひとつが、問いであり、返事だった。
 進んでよいか。
 怖くはないか。

 ――共に在ってくれるか。

 メリッサは、彼の背に腕を回した。
 それだけで、答えは十分だった。
 二人の距離は、ゆっくりと、必然のように縮まっていく。
 鼓動が重なり、呼吸が溶け合い、言葉はもう必要なくなる。
 その夜、彼らが分かち合ったのは、衝動ではない。
 長い逡巡の末に選び取った、互いを大切にするという覚悟だった。
 灯りが落ち、静寂が満ちる。
 世界は外側に遠のき、残されたのは、ただ二人の温度と、確かな存在感だけ。
 それは、始まりだった。
 傷を越え、孤独を越え、同じ場所へ辿り着いた二人の、静かで、甘やかな、最初の夜。

―――

 彼女の名を呼ぶたび、胸の奥が静かに疼いた。
 私は長い時を生きてきた。
 戦いも、別れも、喪失も、数え切れぬほど経験してきたはずなのに、今この瞬間ほど、慎重に呼吸を選んだことがあっただろうか。
 メリッサが、私の下で静かに息をしている。その温もりが、確かにここにある。
 指先が彼女の衣に触れたとき、思わず動きを止めた。欲が怖いのではない。彼女を傷つける可能性が、何よりも怖かった。
 この手は、守るためにある。
 奪うためではない。
 そう何度も自分に言い聞かせてきた。
「……メリッサ」
 名を呼ぶと、彼女は小さく頷いた。言葉ではなく、仕草で示される信頼。それが、私の胸を強く打った。
 私は、ゆっくりと彼女を抱き寄せる。力を抑え、確かめるように。触れるたびに、彼女の鼓動が伝わってくる。その一つ一つが、私の心をほどいていった。
 私は、この人に選ばれている。
 それだけで、十分すぎるほどだ。
 唇が触れ合ったとき、世界が静かに遠のいた。熱は確かにあったが、衝動に任せることはできなかった。
 私はただ、彼女の存在を受け止め、応えることを選んだ。
 重なった呼吸。
 絡めた腕。
 互いの温度が、ゆっくりと溶け合っていく。
 その時間は、長くも短くも感じられた。
 だが確かなことは一つだけだ。

 ――私は、この夜を、生涯忘れない。

 戦いの記憶でも、栄光でもない。ただ、彼女がそこにいて、私が抱きしめたという事実。
 灯りが落ちたあとも、私は彼女を離さなかった。眠りに落ちるまで、いや、その先も。
 私は初めて知ったのだ。
 守るということが、これほどまでに甘く、切なく、尊いものだということを。
 そして私は、心の底から思った。
 この人と生きていきたい。例えどんな未来であっても。
 それが、私にとっての“初めて”だった。

―――

 メリッサは、目を閉じた。
 暗闇の向こうに、過去の記憶が浮かびかけるのを感じたからだ。
 怖れ、冷たさ、抵抗しても届かなかった声――
 それらが、長いあいだ心の奥に沈んでいた。
 けれど、今は違う。
 シオンの腕が、確かに自分を抱いている。
 逃げ場を塞ぐ力ではなく、包み込むための重さ。その違いを、身体より先に、心が理解していた。
(……ああ)
 息をするたび、胸の奥に溜まっていたものが、少しずつほどけていく。
 怖い記憶が、薄紙のように剥がれ落ち、その上から、温かなものが重ねられていく感覚。
 シオンは、急がなかった。
 確かめるように、何度も視線を合わせ、何度も名を呼ぶ。そのたびに、メリッサは「ここにいていい」と言われている気がした。
 愛する人に触れられるということが、こんなにも幸福で、安心に満ちた行為だとは知らなかった。
 身体が覚えていたはずの恐怖は、今、彼の温度によって、少しずつ書き換えられていく。
 痛くない。
 怖くない。
 あたしは、大切にされている。
 その事実が、何度も、何度も、心に刻まれる。
 涙が、頬を伝った。
 それは悲しみではない。長いあいだ溜め込んできたものが、ようやく流れ出しただけだった。
「……シオン様……」
 彼の胸に顔を埋めると、深く、落ち着いた鼓動が伝わってくる。
 それが、現実だった。
 過去は消えない。
 けれど、上書きされる記憶は、確かに存在する。愛する人と共にあるこの時間が、メリッサの心を、静かに洗い清めていく。
 傷ついたままでもいい。
 完全でなくてもいい。
 それでも、愛されていいのだと――
 その夜、メリッサは初めて、“愛する人に抱かれる”ということの意味を、心で知った。
 夜は、静かに深まっていった。
 互いの存在を確かめ合うように、二人は何度も抱き合い、口づけを重ねた。触れるたび、呼吸が合い、心拍が重なっていく。言葉は少なく、けれど不足はなかった。確かめたいことは、すべて温度と視線の中にあった。
 メリッサは、シオンの胸に身を委ねるたび、過去の影が遠のいていくのを感じていた。
 恐れは溶け、緊張はほどけ、代わりに静かな安心が満ちていく。
 シオンは、彼女の背に腕を回し、決して離れぬと誓うように抱きしめた。守ること、選び続けること、そのすべてがこの抱擁に集約されていた。
 やがて、世界は外側へと退き、二人だけの時間が残る。
 熱は高まり、心は澄み、感情は頂へと運ばれていく――けれどそれは、奪い合う衝動ではなく、分かち合う歓びだった。
 その夜、二人は知った。
 もう孤独ではないこと。
 誰かを愛してもいいのだということ。
 そして、愛されることを、恐れなくていいのだということ。
 静かな余韻の中、二人は寄り添い、眠りへと身を委ねた。
 夜は終わる。けれど、尽きない想いは確かにそこにあった。
12/13ページ
スキ