Eine Kleine Ⅲ

 羽田空港の自動ドアを抜けた瞬間、空気が変わった。
 室内に満ちていた温度から、冬の冷気へ吐く息が白くなるほどではないが、頬に触れる風は確かに冷たい。
「こちらへ」
 声に促され、メリッサは足を進めた。 
 辰巳は厳つい見た目とは裏腹に、歩き方一つとっても無駄がなく、周囲への配慮が行き届いていた。人混みでは自然と半歩前に立ち、メリッサが立ち止まれば即座に気付いて歩調を落とす。
 空港の外へ出ると、冷たい冬の空気が肺に入り込んだ。送迎用の黒い車が、控えめにエンジンをかけて待っている。後部座席のドアを開ける所作すら、洗練されている。
「どうぞ」
 シートに身を沈めた瞬間、現実感が遅れて追いついてきた。
 本当に、日本に来てしまったのだ。
 ドアが閉まり、車が静かに走り出す。
「長時間のフライトでお疲れでしょう。まず宿泊先へ向かいます」
 淡々とした説明。
 余計なことは言わないが、不安を放置もしない。
「東京でのご滞在中は、基本的に私が窓口となります。何かあれば遠慮なく」
「……はい」
 返事をしながら、メリッサはシートの上で指を組んだ。
(東京観光……この人と?)
 ふと浮かんだ想像に、心の中で首を振る。
(ないない。絶対ない)
 この人は“案内役”であって、旅の同行者ではない。
 必要な場所へ連れて行き、必要な説明をし、必要が終われば距離を取る。
 そういう種類の人だ。

 車窓に流れ始めた東京の街並みを見ながら、胸の奥がじわりと落ち着いていくのを、メリッサは否定できなかった。
 知らない国。
 知らない言葉。
 知らない街。
 けれど、少なくとも今は道を示してくれる大人が隣にいる。
(……シオン様は)
 名前を思い浮かべただけで、胸が少しだけ痛む。
 辰巳はバックミラー越しに一度だけ様子を確認すると、静かに視線を前へ戻した。踏み込み過ぎないその距離感が、今のメリッサにはありがたかった。
 車は都心へ向かって、一定の速度で走り続ける。東京での休暇が、静かに、確実に始まろうとしていた。

 車は滑るように空港を離れた。

 窓の外に広がる景色を、メリッサは逃すまいと目で追う。滑走路の灯り、整然と並ぶ建物、行き交う車の多さ。どれもが、地元とは違っていた。

 ——東京。

 名前だけは何度も耳にしてきた。けれど、実際にこの目で見るのは初めてだ。
 道路は広く、信号は多く、建物は無秩序なようで、どこか揃っている。古い倉庫のような建物の向こうに、何食わぬ顔で高層ビルが立っている。
「……不思議な街ですね」
 思わず口にすると、辰巳が視線を前に向けたまま答えた。
「東京はそう言われることが多いです。新しいものと古いものが、無理なく隣り合っています」
 無理なく、という言葉にメリッサは小さく首を傾げた。彼女の目には、それはかなり大胆な混在に映っている。
 車は高速道路へ入り、視界が一気に開けた。遠くまで続く道路、絶え間なく流れる車列。その向こうに、無数の建物が折り重なっている。

 聖域ではどこへ行っても視線がついて回った。港町でも事情を知る者の目があった。けれど、東京では誰も彼女を見ていない。その事実に、安堵と不安が同時に押し寄せる。
 やがて車は都心へと入り、速度を落とした。
 街の音が近づいてくるはずなのに、不思議と騒がしさはない。
 高層ビルの間を抜け、ひときわ静かな一角で車が止まった。
「こちらです」
 降りた瞬間、メリッサは思わず立ち尽くした。
 (ここが、ホテル?)
 外観は驚くほど控えめだった。豪奢な門も、目立つ看板もない。ただ、整えられた石畳と、静かな入口があるだけだ。
 一歩足を踏み入れると、音が消えた。
 空港でも、車内でも、街中でも感じていたはずの“都市の気配”が、ここでは綺麗に切り離されている。
「……すごい……」
 声が自然と小さくなる。
 中はさらに静かだった。天井は高く、光は柔らかく、人の動きはあるのに視線が交錯しない。
 メリッサは、自分の姿を一瞬だけ意識する。
 服装は旅行に適した動きやすいものだ。決して粗末ではないが、ここに馴染んでいるとも言えない。
 場違い。
 その感覚が、はっきりと胸に落ちた。
 フロントへ向かう足取りが、無意識に慎重になる。辰巳が名を告げ、手続きが始まる。
「ミス・ドラコペトラ。お早めのご到着ですね」
 穏やかな声。過度な敬意はないが、軽んじられてもいない。それが、かえって居心地を悪くした。
 書類に名前を書きながら、メリッサは自分が“ここにいていい理由”を探してしまう。
「本日はプレチェックインのみ承ります。お部屋のご利用は、準備が整い次第ご案内いたします」
「……はい」
 返事をしながら胸の奥がそわつく。
 見知らぬ都市の、あまりにも静かなホテル。
 そこに所在なげに佇むメリッサは、どう見ても場違いだった。
 年齢も、服装も、振る舞いも、この空間に必要とされる全てが、彼女には決定的に足りていない。
 それが分かってしまうからこそ、余計に息が詰まる。
 一方で辰巳は違った。
 大柄な体躯に仕立ての良いスーツ。歩き方一つ取っても無駄がない。ラウンジへ誘導する所作には一切の迷いがなく、周囲の視線や動線を自然に読み取っている。彼は馴染んでいる。それも、客としてではなく、仕える者としてこの場に属している。
 聖域で目にしてきた女官や官吏たちとも異なる。彼らは規律と格式の中で動くが、辰巳の丁寧さはもっと現実的で生活に根差している。
 主の立場を守るために身につけた、実務としての洗練。
 その隣を歩く自分がますます心許なく思えた。
 案内された座席の前で、メリッサは一瞬、立ち止まった。座る、という行為一つがひどく重たい。
 椅子に腰を下ろすと、背中が落ち着かない。深く沈み込むクッションが、かえって居心地を悪くする。
 視線が勝手に彷徨う。
 窓の外。
 天井。
 隣の席。
 スタッフの動き。
 どこを見ても自分の居場所が見つからない。
 辰巳が一礼し、静かにその場を離れようとした瞬間、メリッサは反射的に声を上げていた。
「あの……辰巳さんも、座ってください」
 言ってからはっとする。場違いな申し出だと、すぐに分かった。
 辰巳は足を止め、困ったように、しかし柔らかく首を振る。
「いえ。お客様と同席するわけにはまいりません。お気持ちだけありがたく頂戴いたします」
 丁寧で隙のない返答。それが正しいと分かっているからこそ、胸が縮む。
「そ、そうですよね……すみません」
 言葉がうまく整わない。謝る必要がない場面で謝ってしまう。
 膝の上で指が落ち着きなく絡む。ほどいても、また組んでしまう。
(どうしよう)
 誰に聞かせるでもない思いが頭の中を巡る。
 ここにいる理由はある。逃げてきたわけではない。それでも、この場所に求められている自分の姿が想像できない。
 ラウンジの静けさが容赦なく耳に届く。
 食器が触れ合う音。
 遠くの低い話し声。
 全てが、自分の動揺を際立たせる。
 優雅さや洗練の欠片もない。
 そう思うたび、余計に肩が強張った。
 辰巳は少し離れた位置に立ち、視線を外に向けている。決してこちらを見張っているわけではない。
それでも、その存在が、今のメリッサには重かった。

 ――一人になりたい。でも、誰かにいてほしい。

 相反する感情が胸の中で折り重なる。
 メリッサは、背すじを伸ばそうとして途中で諦めた。無理に整えた姿勢はかえって不自然になる。
 代わりに、深く息を吸い静かに吐く。
 落ち着け、と自分に言い聞かせる。何度も、何度も。それでも、不安は簡単には引かない。
 ソファに身体を預けたままメリッサはしばらく動けずにいた。柔らかすぎるクッションが背中を支えているはずなのに、どこにも寄りかかれない感覚だけが残る。
 辰巳が数歩距離を詰め声を落とす。
「……お疲れが出ていらっしゃるようにお見受けします」
 はっとして、メリッサは顔を上げた。
「い、いえ……大丈夫です。ただ、少し……」
 言葉が続かない。“落ち着かない”と正直に言ってしまっていいのか、迷う。
 辰巳はそれ以上踏み込まなかった。
「まだ、お時間は十分にございます」
 そう前置きしてから、続ける。
「この近くに皇居外苑がございます。朝の時間帯は人も少なく静かです」
 メリッサは瞬きをした。
 皇居——
 その名に、一瞬だけ身構える。けれど、辰巳の口調には、重々しさがない。
「建物の中でお待ちいただくより、少し歩かれた方が気分転換になるかと」
 提案はあくまで控えめだった。“そうした方がいい”とは言わない。“選択肢”として差し出されている。
「……歩く、ですか」
 思わず、そう聞き返していた。
「はい。堀沿いを少し回る程度です。お身体に無理のない範囲で」
 皇居外苑。
 東京の中心にありながら、空が広い場所。
 頭の中に、さきほど車窓から見た、整いすぎた街並みとは違う景色が浮かぶ。
「……あたし、変じゃありませんか」
 ぽつりと漏れた言葉は、自分でも驚くほど小さかった。
 辰巳は、ほんの一瞬だけ考えるように視線を落とし、それから淡々と答えた。
「初めての場所で戸惑われるのは当然のことです」
 断定でも慰めでもなく、事実を述べただけのような口調。それが妙に胸に残った。
「外の空気を吸われてから戻られても、十分時間はございます」
 メリッサは膝の上で組んでいた手をほどく。ここに座って、落ち着かないまま時間をやり過ごすより、歩く、という選択肢を選ぶ方が自分らしい。
「……お願いします」
 そう答えた声が、ほんの少しだけ軽くなっている気がした。
 辰巳は、小さく頷いた。
「では、外套をお持ちいたします」
 その所作には一切の無駄がなかった。けれど、そこには“追い立てる”気配もない。
 メリッサはソファから立ち上がり、深く息を吸い直す。ホテルの外に出るだけなのに、それが小さな救いのように感じられた。
 歩こう。今はそれでいい。
 二人は静かなラウンジを後にした。

 外に出た瞬間、真冬の冷気が肌を刺した。
 ホテルの扉が背後で静かに閉じると、冷たい朝の気配が容赦なく肌に触れる。息を吸うと喉の奥がきゅっと縮む。湿り気の少ない硬い冷気。
「……冷たい」
 思わず呟いた言葉が、白くほどけ大気へ溶ける。

 ギリシャの冬をメリッサは知っている。けれどそれは、どこか湿りを帯び海の匂いを含んだ寒さだった。ここにはそれがない。乾いた冷え方。音を吸い取るような空気。
 足元の砂利を踏む音がやけに大きく響く。その一歩一歩が、この場所の広さを教えてくる。
 視界がひらけた。
 高い建物は遠くに退き、空と地面の境目が、はっきりと見える。
 松の木々が静かに立ち並んでいる。どれも整えられているのに作り物めいた感じはしない。
「……不思議」
 港町では朝は必ず音から始まった。漁船のエンジン、波が岸に触れる音、人の声。けれど、ここには音がない。完全な静寂ではない。遠くで車が走る気配、誰かが砂利を踏むかすかな足音。それでも、余白が多い。
 皇居のお堀が視界に入ると、メリッサは思わず立ち止まった。
 水面は動かず、鏡のように空を映している。凍っていなくても、触れれば痛いほど冷たいことが想像できた。
 常に動き、呼吸するように波打つ海とはまるで違う。
 この水は沈黙だ。
「……守られている感じがします」
 自分でも驚くほど、静かな声だった。
 辰巳は、少し後ろに立ったまま短く答える。
「そう感じられる方は多いですね」
 松の枝がわずかに風に揺れた。音はほとんど立てない。寒さで指先が痺れているはずなのに、胸の奥は温かかった。
 東京という街は、高く、速く、隙がない場所だと思っていた。けれど、その中心に、こんなにも広くこんなにも静かな場所がある。逆に、この場所があるからこそ、東京は雑多でいられるのかもしれない。
 メリッサは、コートの前を掻き合わせ、もう一度、ゆっくりと息を吸う。
 白い息が空に溶けていく。夜がゆっくりと退いていく。
 東の空からわずかに色が差し始めたのは、気づけば、というほど自然な変化だった。
 濃い群青が薄まり、その下から淡い灰色が滲み出す。やがて、冷えた空気の奥でごく淡い光が息をするように広がっていく。
 メリッサは歩みを止め空を仰いだ。
 夜と朝の境目は音を立てない。ただ、色だけが変わっていく。
 皇居外苑の景色は、夜の名残を保ったまま、少しずつ輪郭を取り戻していた。
 石垣の線、松の枝ぶり、遠くに続く道の白さ。
 車の往来が少ないせいか、視界を遮るものがない。
 街はまだ眠っているのに、世界だけが、先に目を覚ましていく。
 冷たい空気は変わらない。けれど、刺すような感覚は薄れ、代わりに、澄み切った透明さが残る。
 胸の奥に溜まっていた緊張も、理由のわからない不安も、夜明けの光に照らされるうち、形を失っていった。
 朝は、こんなふうに来るのか。
 港町の夜明けは、潮の匂いと共にあった。水平線から、力強く光が立ち上る。
 けれど、ここでは違う。
 光は押し寄せない。ただ、静かに満ちていく。そして、世界が少しずつ明るくなっていくのだ。

 その様子を見つめながら、ふと、胸の奥に浮かんだ顔があった。
 理由は、なかった。
 ただ、この景色を、この冷たく澄んだ空気を、この、何も急がせない朝を。
「……一緒に見られたら」
 声に出すつもりはなかったのに、言葉が息と一緒に零れた。
 シオン様。
 彼なら、この静けさを言葉少なに受け止めるだろう。何も語らず、ただ同じ空を見上げるだけで十分だと知っている人。
 メリッサは、もう一度空を見る。
 朝の光は、彼女の中に残っていた影を否定することなく、静かに照らしていた。

 ——東京も悪くない。

 そう思えたのは、この朝があまりにも静謐だったからかもしれない。
 彼女はコートの襟を少しだけ正し、新しい一日の気配を胸いっぱいに受け止めた。


 二人は並んで歩いていた。舗道は広く、足元の感触は一定している。歩くことそのものが、考えを整えてくれるようだった。
「ここ、全部がお城なんですか?」
 メリッサが前方に続く松並木を見ながら尋ねる。
声は先ほどよりも幾分落ち着いていた。
「いえ。今歩いているのは“外苑”です。城の中ではありません」
「外、なんですね」
「はい。ですからこうして自由に歩けます」
 なるほど、と小さく頷く。
「じゃあ……あの橋の向こうは?」
 視線の先には、重厚な石橋がある。
「あちらが内側です。一般の方が入れるのは決められた日だけですね」
「守られているんですね」
「ええ。それと同時に、守っている場所でもあります」
 メリッサは、その言葉を反芻する。
 守られている。守っている。
 静かな空間に、その二つが同時に存在しているのが、不思議だった。
 歩き続けるうちに、空はさらに明るくなっていく。石垣の影が、はっきりと地面に落ちる。
「日本って、こういう“余白”を大事にしますよね」
 自分でも少し意外な言葉だった。
 辰巳は歩みを緩めることなく答える。
「そうかもしれません。全てを使い切らない、という考え方でしょうか」
「使い切らない」
「空けておく。人のためでもありますし、時間のためでもあります」
 時間。
 メリッサは無意識に空を見上げる。
 夜明けはすでに終わり、朝の色が確かにそこにあった。
「……だから、こんなに静かなんですね」
「この時間帯は特に」
 辰巳の声には、どこか懐かしさが混じっていた。何度もここを歩いたことがある人の声音。
「辰巳さんはここに来たことが?」
「何度か。任務の合間や警備の下見で」
「お仕事なんですね」
「はい」
 それ以上は語らない。メリッサはその距離感に少し安堵する。
 堀の水面が朝の光を映す。
「海とは全然違います」
「そうですね」
「でも嫌いじゃないです」
 メリッサの言葉に辰巳はわずかに目を細めた。
「それは何よりです」
 歩きながら質問をして、答えをもらってまた歩く。
 それだけのことなのに、心が整っていく。
 メリッサはふと立ち止まり、もう一度だけ景色を振り返った。
 この静けさを、この朝を。
 どうしても思ってしまう。
 この景色を、シオンにも見せたい。

 ――一緒に歩けたら良いのにな。

 そう考えた自分にもう戸惑いはなかった。
 夜は完全に明けていた。


 歩調は自然と揃っていた。砂利を踏む音が一定の間隔で続く。朝の空気は相変わらず冷たいが、もう身構える必要はなくなっていた。
「辰巳さんは」
 メリッサが、視線を前に向けたまま口を開く。
「アテナ様にお仕えしてるんですよね?」
「はい」
 即答だった。
「沙織お嬢様――アテナ様がまだ幼い頃から」
 “幼い頃から”。
 その言葉に時間の厚みを感じる。一朝一夕ではない積み重ねがそこに横たわっていた。
「聖域に行ったことはあるんですか?」
 少しためらいを含んだ問いだった。
「はい、ございます」
 辰巳は間を置かずに答える。けれど、その声はわずかに硬くなっていた。
 理由まではわからない。
 けれど、良い記憶ばかりではないのだと、そう感じ取るには十分だった。
「ヘスティア様や、教皇猊下にお会いしたことはあるんですか?」
 辰巳は一瞬だけ視線を落とし、慎重に言葉を選ぶようにしてから答えた。
「ヘスティア様とは、まだ、あの方が覚醒なさる前から仕事上のお付き合いがございました」
「覚醒する前から……」
「はい。猊下とは何度かご挨拶を」
 淡々とした口調。誇るでもなく、隠すでもない。
「……じゃあ」
 無意識に、声が低くなる。
「シオン様とも顔見知りなんですね」
「はい」
 短い肯定。それだけで十分だった。
 なるほど。この落ち着き、この距離感、必要以上に踏み込まないこの態度。
 ただの“案内役”ではない。
 ただの“護衛”でもない。
 聖域の女官や官吏たちとは違う。けれど、彼らと同じ世界を確かに知っている人。
 メリッサの胸に残っていた緊張が音もなくほどけていく。
「……ありがとうございます」
 そう言った自分の声が思った以上に柔らかくて、少し驚いた。
「いえ」
 辰巳は変わらぬ調子で答える。
「お役に立てるのであれば」
 その言葉に裏はない。守るために仕える人の、まっすぐな姿勢。
 メリッサは、前を向いたままそっと息を吐いた。
 ここまで来る間、知らない国、知らない街、知らない格式に囲まれていた。
 けれど今は違う。
 少なくともこの人がそばにいる。

 朝の光は、もう十分に世界を照らしている。

 皇居外苑の静けさの中で、メリッサの心は、確かに落ち着きを取り戻していた。
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