短編
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「じゃあ、また」
「...うん」
これで何度目だろうか。
私の顔を見ないまま、降谷さんは愛車を走らせ去っていった。
貼り付けた笑顔で、私は彼の車が見えなくなるまで小さく手を振った。
きっと気づいてくれていると、そう信じて。
・
・
・
・
彼との関係は、本当になんでもないことで始まった。
彼の部下、私の高校の同級生である風見くんが、降谷さんを連れて私の務めているバーに来たことがきっかけだった。
風見くんが公安に務めていると知っていた私は、てっきり降谷さんが風見くんの後輩だと思いフランクに話しかけた。
「後輩くんは何を飲みますか?」
その時の風見くんの真っ青な顔、今でも面白くて忘れられない。
一瞬キョトンとした顔をして、降谷さんは笑って答えてくれた。
「バーボンダブル、ロックでお願いします」
「す、すみません降谷さん!!北別府、この方は俺の上司だ!!」
「えっ、あ、、す、すみません!若そうに見えたのでてっきり...」
「いえ、童顔のせいでよく間違われるので、お気づかいなく」
にこっと笑って、本当になんでもなかったかのように風見くんと話を続けていた。
その笑顔に、私は心がじわっと温まるのを感じた。
すぐに、この感情が一目惚れというやつだとわかった。
恋愛も人並みに経験してきたのに、この気持ちは初めてだった。
その日、風見くんがお手洗いにたった時に、降谷さんがお会計をと私を呼んだ。
お会計を終えた時、降谷さんが1枚の名刺を差し出した。
「これ、もし何かあったら、連絡してください」
「...え?」
「...こんな事言うの、変かもしれないんですが...少し、あなたの事が気になってしまって。もし良かったら、今度一緒に食事でも行きませんか?」
「...はい」
こんなことってあるんだなぁ。
そう思いながら、その日はうきうきで家に帰った。
本当の好意だと、信じて疑わなかった。
後日、本当に食事のお誘いが来た。
約束の日まで、頭の中はずっとファッションショーだし、スキンケアもいつもより念入りにした。
おばさんのくせにこんなに浮かれて、今思えば恥ずかしい。
そして約束の日。
私の家の近くまで、降谷さんが車で迎えに来てくれた。
ずっと憧れていたレストランでお食事をして、帰りにドライブがてら海を見に行った。
今日が終わってしまう。
寂しい気持ちになりながらも、お礼をするために降谷さんの方を見た。
「あの、今日、ありがとうございました。食事、美味しかったです」
「それはよかった」
その笑顔に、違和感を覚えた。
何がと聞かれると、分からないけれど。
悲しみのような、憎しみのような、諦めのような。
私の何かがそうさせたのか、そうじゃないのか。
ぼーっとしていた私の顔を見て、降谷さんは無表情で私に近づき、抱きしめた。
「っ??」
「...この後、まだお時間ありますか?」
「え...?」
「うちに、来ませんか」
その瞬間、悟ってしまった。
私、都合のいい女にされる。
伊達に恋愛をして生きてきていない。
分かってしまった。
抱きしめるその手も、顔も、体も、全て冷たかった。
・
・
・
・
それからというもの、だらだらとした体の関係が続き、そして、そんな関係に満足してきてしまっている私がいた。
降谷さんを見送って家に帰って、シャワーを浴びて、テレビを見て。
内容が入ってこない頭の中で、数時間前の行為を思い返す。
無心で腰を打ち付ける降谷さん。何も考えられないまま快楽を得る私。その最中、時々見せる、悲しそうな苦しそうな降谷さんの顔。
その瞳は、私を通して誰かを見ているようだった。
私の知らないその顔で、その瞳で、何を、誰を見ているの?
そんなこと知ったら、きっとこの関係が終わってしまうんだろうな。
テレビを消して、ベッドに入った。
苦しいなぁ。そう呟いて目を閉じた。
貴方の水槽-オリ-で溺れ続ける
(酸素も与えられないまま)
(苦しみを悦ぶの)
「...うん」
これで何度目だろうか。
私の顔を見ないまま、降谷さんは愛車を走らせ去っていった。
貼り付けた笑顔で、私は彼の車が見えなくなるまで小さく手を振った。
きっと気づいてくれていると、そう信じて。
・
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彼との関係は、本当になんでもないことで始まった。
彼の部下、私の高校の同級生である風見くんが、降谷さんを連れて私の務めているバーに来たことがきっかけだった。
風見くんが公安に務めていると知っていた私は、てっきり降谷さんが風見くんの後輩だと思いフランクに話しかけた。
「後輩くんは何を飲みますか?」
その時の風見くんの真っ青な顔、今でも面白くて忘れられない。
一瞬キョトンとした顔をして、降谷さんは笑って答えてくれた。
「バーボンダブル、ロックでお願いします」
「す、すみません降谷さん!!北別府、この方は俺の上司だ!!」
「えっ、あ、、す、すみません!若そうに見えたのでてっきり...」
「いえ、童顔のせいでよく間違われるので、お気づかいなく」
にこっと笑って、本当になんでもなかったかのように風見くんと話を続けていた。
その笑顔に、私は心がじわっと温まるのを感じた。
すぐに、この感情が一目惚れというやつだとわかった。
恋愛も人並みに経験してきたのに、この気持ちは初めてだった。
その日、風見くんがお手洗いにたった時に、降谷さんがお会計をと私を呼んだ。
お会計を終えた時、降谷さんが1枚の名刺を差し出した。
「これ、もし何かあったら、連絡してください」
「...え?」
「...こんな事言うの、変かもしれないんですが...少し、あなたの事が気になってしまって。もし良かったら、今度一緒に食事でも行きませんか?」
「...はい」
こんなことってあるんだなぁ。
そう思いながら、その日はうきうきで家に帰った。
本当の好意だと、信じて疑わなかった。
後日、本当に食事のお誘いが来た。
約束の日まで、頭の中はずっとファッションショーだし、スキンケアもいつもより念入りにした。
おばさんのくせにこんなに浮かれて、今思えば恥ずかしい。
そして約束の日。
私の家の近くまで、降谷さんが車で迎えに来てくれた。
ずっと憧れていたレストランでお食事をして、帰りにドライブがてら海を見に行った。
今日が終わってしまう。
寂しい気持ちになりながらも、お礼をするために降谷さんの方を見た。
「あの、今日、ありがとうございました。食事、美味しかったです」
「それはよかった」
その笑顔に、違和感を覚えた。
何がと聞かれると、分からないけれど。
悲しみのような、憎しみのような、諦めのような。
私の何かがそうさせたのか、そうじゃないのか。
ぼーっとしていた私の顔を見て、降谷さんは無表情で私に近づき、抱きしめた。
「っ??」
「...この後、まだお時間ありますか?」
「え...?」
「うちに、来ませんか」
その瞬間、悟ってしまった。
私、都合のいい女にされる。
伊達に恋愛をして生きてきていない。
分かってしまった。
抱きしめるその手も、顔も、体も、全て冷たかった。
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それからというもの、だらだらとした体の関係が続き、そして、そんな関係に満足してきてしまっている私がいた。
降谷さんを見送って家に帰って、シャワーを浴びて、テレビを見て。
内容が入ってこない頭の中で、数時間前の行為を思い返す。
無心で腰を打ち付ける降谷さん。何も考えられないまま快楽を得る私。その最中、時々見せる、悲しそうな苦しそうな降谷さんの顔。
その瞳は、私を通して誰かを見ているようだった。
私の知らないその顔で、その瞳で、何を、誰を見ているの?
そんなこと知ったら、きっとこの関係が終わってしまうんだろうな。
テレビを消して、ベッドに入った。
苦しいなぁ。そう呟いて目を閉じた。
貴方の水槽-オリ-で溺れ続ける
(酸素も与えられないまま)
(苦しみを悦ぶの)
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