ハデ始

「其方の誕生日はいつであるか?」

中華の歴代皇帝達が中心となり神々すらも呆れるほどに盛大な降誕祝いが行われた日の夜。
そう言えばまだ聞いていなかったなとばかりに、本日の主役であった始皇帝はハデスへと問いかけた。


「そんなモノは神にはない」
「ん? 其方が存在している以上、誕生した日はあるだろう?」
「余の誕生した日は確かにあるだろうが。人間が使う暦での月日になど、どう当てはめろと?」

神の誕生を人間の尺度で考えるなど愚かなものだと、ハデスは始皇帝の戯言を流した。
地上界で使われる人間の暦など、月の満ち欠けを基準にしたものもあれば太陽を基準としたものもあり。
国や時代によっても変化し、あやふやで考えるだけで馬鹿らしいと。


「無問題。ならば今日この日を、其方の誕生記念日としよう」


忘れようがなく覚えやすい日であろうと、さも気軽に始皇帝は言い。
神の誕生を祝う日を、自身の誕生日と同じ日へと勝手にも決定した人間に対し。
その愚かしさと愉快さからハデスは笑いを零した。


初めから、神に誕生日などあるはずがないと分かっていて問うなど、あまりにも愚かしい。
望み通りに答えてやれば、案の定に己の誕生日である日を神の誕生記念日としてきた。
何故いきなり笑われたのか見当がつかないと言わんばかりの様子すら可笑しく。
一頻り笑った後、ハデスは始皇帝を抱き寄せ。

それほどに祝いたいものかと少しばかり疑問には感じるが。
人間の幼稚で愛らしい謀へとかかってやるのも悪くはないと考え。
どうせ思い付きをよそおい何も用意していないだろう相手へと、笑みを向けた。


「では、余に何かくれるか、人の王よ?」
「はっはっはっ! なかなかに切り替えが早いな、冥界の王は」



始まりの日
記念日とは人が勝手に創り出す。


end
(2022/02/18)
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