FGO

とある扉の前に立った黒髭は、スーッと肺いっぱいに空気を吸い込んだ。

「バーソロミュー氏ィイイイイ! 遊びーましょォオオオオ!」
「大声を出さなくても聞こえている! 私の鼓膜を破る気か!!」

間髪入れずに開いた扉の先。
怒鳴り返すようにバーソロミューは声を荒げ。
ほぼ自分が出したのと同じほどの音量で怒られ、黒髭は口を尖らせた。

「え~? こんぐらい言わないと出てこないくせにー」
「相変わらずガサツ極まりない訪問だな」
「まあまあ、ちゃんとお土産を持って拙者が訪問するとかレアですし? お茶の一杯でも出してくれてもいいんですぞ?」
「来て早々に催促か、厚かましいにもほどがある」
「あ、できれば緑茶で!」
「ここにあるのは紅茶だけだ!」
「じゃあ紅茶をお願いするでござる!」
「まったく、仕方がな……いや待て。なぜ私がお茶を出す展開になる?」
「細かいことは気にしないお約束ですぞ!」

図々しくも押し売り営業マン並みに強引に部屋に入り込み。
席を確保とばかりにドッカリと黒髭は椅子に座り。
持ってきたお土産はテーブルの上へと雑に置いた。

「おっと、もうお茶が用意されてるとかさすがですな!」
「それは私の飲みかけだ!」
「ンー、すっかりと冷めきってるでござる……でもアイスティーも、いいよね!」
「信じられないほどの蛮行だな」
「アイスティーもいいですが。お腹が冷えるので次は温かいのをお願いしゃーす!」
「本当に、厚かましい。……少し待っていてくれ、用意してくる。くれぐれも余計なことを、するな、やるな、考えるな」
「そんなに注意しなくてもよくないです!?」
「貴殿はその持ってきたと豪語するお土産でも広げておくといい」
「へーい」

バーソロミューが飲み干された紅茶を新しく用意する間。
雑に置きっぱなしにした風呂敷包みのお土産を解き。
目の前に熱々の紅茶が置かれたところで、静々と黒髭は重箱に手を伸ばし。
ゆっくりと一番上の蓋を開けた。

「こちら、山吹色のお菓子でござる」
「……山吹色?」
「あれ? 元ネタ知らない感じです?」
「金塊型だからか?」
「うーん惜しい! 元ネタはマスター殿の国の昔話? だったカナ? 元ネタの物体だとお茶菓子にできないんで今回用意したのはバターたっぷり系の焼き菓子でござる!」

わざわざこのネタをするために黒塗りの重箱を用意した旨を伝え。
黒髭はバーソロミューから冷ややかな視線をもらった。

「あーおいちいーでござるー」
「食べかすを零さないだけ奇跡のような食べ方だな」

不思議なほどに欠片すら焼き菓子を零さない黒髭に対し、バーソロミューは懐疑的な感想をいだき。
自分で用意した紅茶へとほんの少し口を付けてからカップを置いた。


「それで? 貴殿は何の用で――私の船に?」

カルデア内の近代的な部屋とはほど遠い、木造の船室にて問われた言葉。
その問いに、手に持っていた焼き菓子を一気に口に詰め込み。
グイッと紅茶を飲み干してから黒髭は口を開いた。

「そろそろシミュレーターから出ません? バーソロミュー氏」
「何か苦情でも出たのか?」
「いえー? 別にー? 他にも引き籠ってるサーヴァントは多いですし? むしろ施設内で行動するサーヴァントが多過ぎてスペース的に仮想空間に籠ってくれるなら万々歳! とかいう意見もなくはないでござるからして?」
「では問題はないはずだ」

黒髭が飲み干したカップに追加の紅茶を注ぎ、淡々とバーソロミューは話題を流した。

「今なら拙者の隣部屋とか空いてますぞ! 何だったら拙者の部屋でルームシェアとかでも。ポッ」
「断る。むしろ絶対に嫌だ」
「えーひっどーい。出血大サービスで言ったのにー」
「どこがだ、罰ゲームの類だろ」

呆れてものも言えないとばかりに嘆息し、バーソロミューは紅茶へと口を付け。
その様子を、モソモソと焼き菓子を食べながら黒髭は眺め。
外から微かに聞こえてくる波の音をBGMに、同じく紅茶をすすった。

「誰もいない船に一人とか――どうなんでござる?」
「快適だとも。……この海は決して荒々しくはならない」
「徹底してますなぁ」

コミュ障などではない、むしろ人当たりは良すぎるほどにいい方だろう。
普段の自意識過剰振りを抜きにしても、人目を引く存在で。
マスターに頼まれれば快く誰とでも組めるほどに親しさにあふれ。
――波風を立てないよう行動する悪癖は、死んでも治りはしなかったらしい。

「まあアレでござる。いつでも拙者の隣は空いてるんで、気が向いたらどーぞ?」

自分でお土産として持ってきた焼き菓子を食べるだけ食べ、ポットに残っていた紅茶すら空にして。
黒塗りの重箱を風呂敷へと雑に包み直してから、来た時と同じような強引さで黒髭は席を立ってお開きを宣言した。

「じゃあ、拙者また遊びに来ますので! 次はお茶菓子用意しといてくだちい」
「次は緑茶とやらも用意しておく。期待して来るといい」
「あー、いいでござるよ別に。拙者、バーソロミュー氏が淹れたクッソ渋い紅茶でも喜んで飲めるんで!」
「出禁にされたいのか! さっさと出ていけ! 不愉快だ!!」
「そんな怒らなくてもwwww」

あと少しで蹴り出される寸前で仮想空間から撤退した黒髭は、風呂敷包みを片手に長いため息を吐いた。


「やっぱりそう簡単には出てきませんです?」

理由は分かるといえば分かるが。
せっかく召喚されたのだからもう少し自由にすればいい。
あれで生前に比べれば悪癖はマシになっていると言うのだから恐れ入る。

「拙者にはズケズケと言ったり行動できるくせに、猫被りでござるなァ」

シミュレーター室の扉を潜り抜け。
その先の廊下にて、見知った顔に出会った黒髭は笑顔を浮かべた。

「おやおやマスター、こんな所で会うとは奇遇ですな!」
「そう言う黒髭は、お弁当を持ってシミュレーター?」
「ちょっとピクニック! いや、突撃お宅訪問。ンー、お家デート? みたいなのを楽しんできたでござる!」
「シミュレーター室から出てきたとは思えない発言!」
「では拙者、これ以上このお弁当箱を食堂から借りパクしてると命に関わるので。食堂にダッシュしますぞー! しますぞー! しますぞー……ぞー……」
「セルフエコー!?」

何が何やらサッパリと分からない唐突さでダッシュしていく黒髭を見送り。
後に残ったのはポカーンと口を開けたマスターだけだった。

「シミュレーター室でお家デートって……何だったんだろう?」


end
(2019/10/20)
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