断片話

◆青い月が浮かぶ夜


「月が綺麗でござるなぁ」
「月はずっと前から綺麗だったよ。――まさか君がそんな感傷的でロマンチックな事を言うとはね」

「はー? さてはオメー拙者から溢れるロマンスのかほりを知らねーな?」
「君からするのは体臭だけだ。たまには風呂に入れ」
「入ってますー! 気が向いたら朝シャンとかまでしてますー!!」
「なるほど、だからたまに湿った犬小屋の臭いがするのか。髪はよく乾かした方がいい。臭うぞ」
「ムキー! 香水で誤魔化す系のどっかのキザ野郎とは違いますしおすし!」
「私は香水など付けていないが?」
「なんだと…!? ではバーソロミュー氏からかほるのはイケメソのグッドスメルだとでも?! かー!! 世の中って不公平!」
「まったく、貴殿が静かになるのは寝ている時だけなのか? 私は戦利品の観賞に忙しい、邪魔をしないでくれ」
「ハイハイ、8時までしか読めないですからねバーソロミュー氏。前から思ってるけど寝るの早くないです?」
「健康的でいいだろう?」
「海賊が健康的とかぁ、逆に不健康じゃね?」

「それで? 先ほどのはどういう意味で言った?」
「話の切り替えはや! 別に意味なんてないでござるが?」
「それは残念だ。私はてっきり愛の告白かと思ってわざわざ返したのに」
「ええーさすがにそれは同人誌の読みすぎでは? 普通は咄嗟に思いつかなくないです? というかそれだとぉ」
「君は意味もなく言ったんだろう? なら、私の言葉も意味はなくなったさ」
「じゃあ前言撤回しますー! 本当はめちゃくちゃロマンチックに告白したつもりでしたー!!」
「撤回は受け付けない」

「というか、バーソロミュー氏。どこで月がきれいデスねネタを?」
「今年のサバフェスだけで十数冊は読んだ覚えがあるよ」
「まあまあ有名で鉄板なネタですからネ」
「だが妙なことに、私はまだこの1冊しか今日は読んでいない」
「…………」
「そして、サバフェスは今日開催だった。――私はいったい何処で十数冊も読んだんだろうね?」
「さーて、何処ででしょうなぁ? しいて言うなら座からの記録では?」
「そんな味気のない事をする訳がないだろう」
「まっさらな状態でもう一度好みの同人誌読むのは夢でござるからな!」

「ところでバカ髭。この無遠慮に私に触れてくる手はなんだ? 私は戦利品を観賞したいのだが?」
「お昼寝も終わって目が冴えわたったのでぇ、付き合ってくだちい」
「まったく、即物的にもほどがある。もう少し気の利いた口説き文句はないのか」
「言いましたな? では拙者の溢れるロマンス臭を存分に発揮いたしますぞ!」
「発揮しなくていい。そしてついに香りではなく臭いと認め…」
「なあ、バーソロミュー」
「……何だ?」


「月が綺麗だな」
「――けれど青くはない」


「……空に浮かぶ月の色って、いま関係あります?」
「本当に、どの口でロマンスを語る? 断っている事にすら気付かないのか?」
「マイナーな返しすぎて分かりませんなぁ。それに拙者から見える月はいつも青いですし」
「青くはないと言ったはずだが? そもそも月が青くなる事は――」
「お前の目に映れば、何時だって青いだろ」
「…………」
「……え? バーソロミュー氏、無言は酷くないです?」
「つまり、私が目を閉じれば青くはないな」
「あー! 寝るつもりでござるな!!」
「良い子は寝る時間だ」
「まだ9時にもなってませんけどぉ?! あと拙者たち海賊! 悪い子代表!」


(2019/09/09)
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