切鏡

ボトリと畳に落ちた右腕を眺め、鏡斎は切り落とした本人へと視線を向けた。


「……そんなに、この腕が欲しかったのか?」
「その腕さえなければ、貴方はもう産めなひでありマシょう?」

血の付いた大鋏を持ち直した男は満面の笑みで言った。
その言葉に、少し笑ってから鏡斎は口を開いた。


「自分以外を産み出す腕さえなければいいなんて考えるのは、お前だけじゃない」


切り取られた自分の腕を手に取り、鏡斎は相手に投げ渡した。
無造作に投げ渡された腕を男は驚いたように受け取った。


「よくいたんだ。オレが産み出した作品は、オレの腕が大嫌いなくせに欲しがる」

何度目だったかと思い出せないほど奪われた片腕。
愛しい作品が望むのなら別にかまわないかと考え始めたのは、いつだったかは忘れた。


控えの筆を取り出し、血が滴る傷口へと穂先を浸して鏡斎は腕を描き足した。
見る間に実体化する腕を、男は口惜しそうに睨みつけた。
そんな相手を眺め、鏡斎は首を傾げて訊き返した。


無意味
「今度は両腕を切り落とすか?」


end
(2012/07/02)
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