切鏡

番犬代わりと周りがからかう切裂とおりゃんせの怪人を横目に、鏡斎は今日休むことにした。
何枚目になるのか分からない破かれた絵を片付けながらため息を吐いた。

今はまだ居場所が決まっていない怪人は、柳田に連れられて別の場所へと行く僅かの間、この家にいる。


軍人を元にした妖ではあるが、その性質は扱いにくいの一言につきる。
独占欲が激しく、自分以外の作品はいらないと思っている節があり、実体化した妖を潰し続ける。

いい出来の作品ではある。
ただ、我が強すぎて他の作品と同じ場所には置けない。



「描くのを止めるのでありマシょうか」


大鋏を手元に置き、縁側で庭の方を見ていた怪人は唐突に訊いてきた。
その言葉に、片付けている途中だった鏡斎はそっけなく返した。



「……今日はな」

自分以外の作品がない時はこの怪人も大人しい。
現に、今だけは本来の激情からは程遠い。



気難しい
番犬? ……駄犬の間違いだろ。


end
(2012/05/31)
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