圓鏡

酒を飲むのは珍しくはない。
語ることが生きがいだとしても、喉を焼くような酒を飲みたくなる時もある。

煙草を吸うのも珍しくはない。
また同様に、肺に悪かろうと煙を吸いたくなる時もたまにはある。



「……それ、止めてくれないかい?」
「おや、珍しいネェ。お前さんからの忠告は」
「やるならオレと会わない時にしてくれ」
「随分な毛嫌いだ」


そんなに煙たかったかいと、吸っていたタバコを灰皿へと押し付け。
ようやく作業場から離れて来た相手を眺めた。


「人間の体に悪かろうと、あたし達には関係ないだろうに」
「……苦いのはごめんだ」
「おや」


意外な言葉に軽く目を見開き、相手をまじまじと見れば。
逆に訝しげな視線を返された。



「何だよ、圓潮」
「いや、何でもないよ」


いまいち分かっていない相手をよそに、机に置いていた煙草の箱にライターを重ね。
今日はもう吸いはしないと灰皿の近くへと移動させた。



煙草
「お前さんが苦いのは嫌だと言うなら仕方ないネェ」


end
(2020/01/03)
22/25ページ