圓鏡

「客から菓子を多く渡されてネェ。貰ってくれないかい?」
「……あんたが貰ったんなら、あんたが食えばいいだろ」

それを何で此処に持ってくるんだと鏡斎は睨むように箱を眺めた。

「お前さんの好きな菓子だろう?」
「雷電にでも渡しとけよ」
「味の良し悪しも分からず食べられるのは菓子が可哀想だよ」
「じゃあ、柳田サン」
「柳田が帰ってくる間には賞味期限が切れるよ」
「珠三郎」
「箱ごと渡そうとすれば、太らせる気かと睨まれるだろうネェ」
「だったら、野風。一番気にせず大量に食べるだろ」
「鏡斎、何だかんだと提案してるが、そんなに断りたいのかい?」
「……そう言う訳じゃない」

ではどういう訳なのか。
ここまで断られると逆に食べさせたくなった圓潮は暫し考え。
ふと、思い当たる節が浮かんだ。


「言っとくが、あたしに物を送る層は人間の年齢では高齢者だよ」
「なら食べる。そこに置いておいてくれ、圓潮」


はたして、見事に当たった予想。
今までの断りは何だったのかと思うほどの手の平返しに圓潮は苦笑した。
なぜ素直に、恋に浮かれた客からの贈り物なら食べたくないと言えないものか。


高級菓子
「まったく。分かりにくいネェ、お前さんの嫉妬は」


end
(2020/10/04)
23/25ページ