圓鏡


「すっかりと花見の時期だネェ」


春とはとかくポジティブで生命力に溢れ、怪談物の広がりが鈍い。
開き直って春季は普通の噺家として活動している圓潮は茶を飲みながら春の陽気を感じていた。
いっそ休業して遠出をしたくなるほどの春の陽気を。


「オレは遠出をする気はないぜ、圓潮」
「おや、先回りかい?」

まあ、数年ごとに実際に連れ出していれば予想もつくことかと。
話題を潰された圓潮はさほど残念とも思わずに苦笑した。


「花見がてら各地の桜餅の食べ比べでもしてみたかったんだがネェ」
「……関東と関西にまたがっての旅行は御免だ」


関東風の小麦粉を水で溶き薄く焼いて餡を巻いた桜餅。
関西風の道明寺粉を使用した餅の中に餡を入れた桜餅。
どこぞの茸と筍のチョコレート菓子ほどではないが派閥争いがなくもない季節菓子。


「時に、桜餅には長命寺でも道明寺でもない物があってネ」
「エイプリルフールはとっくに過ぎてるぞ圓潮」
「都心からも近い県にあるんだが、日帰りで食べに行ってみないかい?」
「…………」


はじめに高い要求を出し、後から緩和して交渉を飲ませる手法を何と言ったか。
流れるように詐欺に近い手口をしれっと使う圓潮に対し鏡斎はジト目を向けた。




桜餅
第三勢力の真偽。


end
(2024/04/15)
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