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1 ボーンの秘密

 ボーンを乗せた小型宇宙船が、さながら宇宙要塞とも言うべき巨大な宇宙船に近づいた。

 小惑星帯の一角に巧みに隠されたその船は、滑り込んでくるボーンの宇宙船をハッチを開けて受け入れた。
 事前に通信し、ボーン・コールドだと名乗ると、すぐに侵入許可が下りた。

 10年ぶりだが、あいつは、俺のことを全く忘れてはいなかったんだねェ。

 この船の主を思い出し、ボーンはその死神を思わせる顔に笑みを浮かべた。

 船内に降りると、カシドゥア人とおぼしい緑色の髪の色っぽい女が、ボーンを出迎えた。
 彼女以外に数人の、カシドゥア人だとわかる整った顔立ちと精悍な長身の男たちが、通路の脇に控え、ボーンに頭を下げている。

「ようこそいらっしゃいました、ボーン・コールド様。わが主、サフィーア様がお待ちです。こちらへどうぞ」

 緑色の髪の女は優雅に一礼し、先に立ってボーンを案内し始めた。

「サフィーアは元気かい?」

 ボーンは案内役の女に、そう問いかけた。

「はい、大変お健やかでいらっしゃいます。ボーン・コールド様がおいでとおわかりになった時は、大層喜ばれて、私室に直接ご案内するようにと」

 ボーンはその意味を感じ取り、喜びの色を見せた。

 鋼色の廊下を歩き、やがてボーンは一際大きな扉の前へと案内された。

「サフィーア様。ボーン・コールド様をお連れいたしました」

『お入りなさい』

 案内の女が、インターホン越しに入室の許可を取った。
 扉がスライドし、ボーンは中に踏み込んだ。

「久しぶりだな……サフィーア」

 長椅子に寝そべる青い人影に向かって、ボーンはそう呼びかけた。

「そうね……」

 青い、目を見張るプロポーションを誇る妖艶な女は、火皿が花を模した煙管をテーブルに置くと、長椅子から立ち上がり、ボーンに近づいてきた。
 長い紺碧のストレートの髪が揺れ、ブラジャー状のトップスに下がったコイン状の飾りと、臍の下の、透き通ったハーレムパンツに続くビーズを連ねたベルトがしゃらしゃら鳴った。

 およそ男の欲望を刺激することについて、この女に並び立つ者はいないだろう……。

 魔女サフィーア。

 ボーンは近づいて来た女の腰に手を回して抱き寄せた。

「随分お見限りでしたわね?」

 サフィーアが、形良い妖艶な唇を笑みの形に吊り上げた。

「そうでもねえさ。ずっと会いたかった」

 ボーンは自分の首ほどの身長のサフィーアを見下ろしながら答えた。
 額の吸い込まれるような妖しい紺碧のダイヤモンドが目を引く。
 噂に聞く、凶兆のダイヤモンドのようだと、ボーンは思った。

「例の試合、拝見しましたわ……。あなたらしくもありませんでしたわね。プリズンに逆戻りしたはずのあなたが、どうして外へ?」

 ボーンの分厚い胸板に手を滑らせながら、サフィーアが問うた。
 彼は今までの経緯を彼女に説明する。

「そう……。あのキン肉アタル使われてらっしゃるの……」

 サフィーアは同情を込めた目でボーンを見上げた。

「……軽蔑するか? 俺を」

 今まで悪行超人の道をひた走ってきたにも関わらず、それを裏切り、正義超人に従っている。
 自分自身正義超人になったつもりはないが、さりとて悪行超人とも言い切れない。

「カシドゥア人たることの公表を楯に取って脅すとは、あの男も考えたこと。あなたの数奇な運命は、まだ続きそうですわね……」

 サフィーアは吸い込まれそうな紺碧の瞳で、ボーンの血の真紅の瞳を覗き込んだ。

「……そんなことをあんたに言われたっけな。あんたの占いは怖いくらい当たってるぜ」

 ボーン・コールドは数奇な星の下に生まれた。
 彼は大きな出来事に直面し、その後長らく不本意な状況に置かれるだろう。
 そして更に劇的な事件が起こり、彼は否応なしに生き方を変えるだろう。
 その後、運命は予想だにしない方向に走り出す……。

 キン肉星襲撃の少し前に、サフィーアがボーンに告げた占いの結果は、今のところ全くもって当たっている。
 自分は今後どのような運命をたどるのか。
 その運命にサフィーアを巻き込むのか。
 ボーンには分からなかった。

「あなたが解放されるのは分かっていましたわ……。でも、あなたはこれからどんな運命をたどるのかしら……」

 サフィーアはボーンの逞しい肉体にそのグラマラスな肢体をすり付けた。
 いい匂いがボーンの鼻孔を刺激する。

「私はいつまでこうしてあなたを感じていられるのかしら……」

「サフィーア、俺は……」

 ボーンはサフィーアを抱き締めた。
 どちらからともなく口づけを交わす。

 長い時間かけて、ようやく二人は離れた。

「シャワーを浴びていらして……ボーン」

「ああ」

 潤んだ瞳のサフィーアに、ボーンはうなずき返した。
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