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1 ボーンの秘密

 ボーンの意識が、ゆっくりと戻り出した。

 裸眼の右目と、特製の義眼が嵌め込まれた左目を開ける。
 白々とした天井が見えた。
 電灯が目に眩しい。
 自分が医療用のベッドに寝かされていることを、ボーンは数瞬ののち理解した。

「意識が回復しました」

 誰かの声が聞こえる。
 右手首に痛みが走り、ボーンは微かに腕を動かした。
 どうやらギプスで固定されているのだと見当を付けると同時に、全身に広がる痛みに気付いた。

 そうだ、俺は……負けたのだ。

 酸素マスクで覆われた口元に、自嘲の笑みが浮かぶ。
 負けた上に、あいつと出くわすというおまけまで付いた。
 ボーンの脳裏に、老いた父親の姿が浮かんだ。
 目の前に出てきたら、殺してやろうと誓ったこともある。
 しかし、現実はどうだ。

 俺も甘くなったもんだねぇ。

 内心一人ごちて、彼は頭を動かし、ここがどこか確かめようとした。

 と、頭部に違和感を感じた。
 涼しいというか、軽いというか。
 ぎくりとして、ボーンは自由になる左手を頭にやった。

 ターバンがない。

 額の中央をまさぐる指先に感じられるのは、硬質な石の感触。

 バレた。

 ボーンは暗憺たる思いと共に悟った。

 さて、どうされるかね?
 刑務所に逆戻りではすまないかも知れない。
 キン肉星には、人道上の理由とやらで死刑がないが、同じ人道上の理由でボーンは闇へと葬られるかも知れない。
 14000年前にもやったのだ。
 今度は例外だという保証がどこにあろう?

 ボーンは思い切って起き上がった。
 体にかけられていたシーツが広く分厚い胸から滑り落ちた。
 死灰色の皮膚はあちこち包帯で巻かれている。
 衣服も剥ぎ取られていると知り、ボーンはうんざりした。

 どやどやと足音が近づいてくる。

「いけません! まだ横になっていて下さい!」

 駆け寄った看護師が、ボーンを押さえようとする。
 マスクをかぶった容姿からするにキン肉族だ。
 そう言えば、キン肉星行きの宇宙船に、虫の息で運び込まれた微かな記憶がある。

 走り回る医師の一人が、王兄殿下に連絡を、と口にするのが聞こえた。
 自分を10年以上にも渡って追い続け、キン肉星襲撃の機に乗じてようやく捕らえたキン肉アタルの仏頂面が浮かんだ。

 さて、奴は俺をどうするかね?
 ボーンは不敵ににやりと笑った。
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