1 ボーンの秘密
「シューティング・アロー!!」
右手首ごと放たれた切れ味鋭い短剣が、巨躯の超人の右胸に深々と突き刺さっていた。
驚愕の表情を貼り付けたまま、その悪行超人は崩れ落ちる。
ボーンは短剣を一振りして血を飛ばすと、腰の後ろの鞘に収めた。
「悪いな。てめえに恨みはねえが、これが新しい仕事なんでな」
ボーンは倒れた元同業者を見下ろし、呟いた。
こんな風に死んでいく悪行超人はこれで何人目だろうか。
「見事だ、ボーン」
後ろで見ていたアタルが近づいて来た。
「あんたらが見事でなさすぎるんだよ。この程度の野郎に手こずってたのか?」
ボーンは憎まれ口で応じる。
キン肉星から数百光年、この惑星を拠点にしていた、少しばかり名の知れた殺し屋を始末するのが今回のミッションだった。
ボーンは現役の殺し屋として培ってきたツテを使い、ターゲットの居場所を突き止め、見事に始末した。
超人ポリスが何年もかかって追い回してきた相手を、ボーンは数日で片付けたのだ。
「キン肉星に帰るぞ」
死骸の始末を地元の警察に引き継ぐと、アタルはボーンに帰還を促した。
◇ ◆ ◇
「ボーン、お前は家出して以降、母親には会ったことがあるのか?」
帰りの宇宙船の中で、唐突にアタルは切り出した。
「……何でそんなことを訊きやがる」
アタルの隣の席で宇宙船を運転しながら、ボーンは低い声で問い返した。
「俺はカシドゥア人という連中に興味がある。そしてお前の母親もカシドゥア人だ。恐らくは純血のな」
アタルは前方の窓に広がる宇宙空間に目をやりながら、そう答えた。
「てめえらの先祖が滅ぼした種族にそんなに興味があるのかね?」
ボーンは嘲った。
「お前がノーリスペクトを率いてキン肉星を襲った理由は、祖先の復讐のためか?」
ボーンは一瞬沈黙した。
「……好きなように考えな」
「ふむ。あながち間違った推測でもないようだな」
アタルは感情の読み取れないボーンの顔に目を向けた。
ボーンは葉巻に火を点ける。
深々と吸って、吐き出す。
「安心しろ。カシドゥア人をどうこうしようとは思っておらん。お前もキン肉族への恨みを手離したらどうだ」
「もう、どうでもいいことだ」
かつてあれほど燃え盛っていた、キン肉族を滅ぼすという執念は、ボーンの中から消えていた。
万太郎と戦ったからかどうか。
「嘘ではなさそうだな」
アタルは今や自分の片腕となった男を見やった。
「……ボーン。進路を変更しろ」
「あ?」
「ここから遠くないはずだ。惑星カシドゥアに向かう」
ボーンは目をすがめた。
「一度この目で見ておきたい。お前もそうではないのか?」
ボーンは無言で自動航行装置の設定を変更し始めた。
右手首ごと放たれた切れ味鋭い短剣が、巨躯の超人の右胸に深々と突き刺さっていた。
驚愕の表情を貼り付けたまま、その悪行超人は崩れ落ちる。
ボーンは短剣を一振りして血を飛ばすと、腰の後ろの鞘に収めた。
「悪いな。てめえに恨みはねえが、これが新しい仕事なんでな」
ボーンは倒れた元同業者を見下ろし、呟いた。
こんな風に死んでいく悪行超人はこれで何人目だろうか。
「見事だ、ボーン」
後ろで見ていたアタルが近づいて来た。
「あんたらが見事でなさすぎるんだよ。この程度の野郎に手こずってたのか?」
ボーンは憎まれ口で応じる。
キン肉星から数百光年、この惑星を拠点にしていた、少しばかり名の知れた殺し屋を始末するのが今回のミッションだった。
ボーンは現役の殺し屋として培ってきたツテを使い、ターゲットの居場所を突き止め、見事に始末した。
超人ポリスが何年もかかって追い回してきた相手を、ボーンは数日で片付けたのだ。
「キン肉星に帰るぞ」
死骸の始末を地元の警察に引き継ぐと、アタルはボーンに帰還を促した。
◇ ◆ ◇
「ボーン、お前は家出して以降、母親には会ったことがあるのか?」
帰りの宇宙船の中で、唐突にアタルは切り出した。
「……何でそんなことを訊きやがる」
アタルの隣の席で宇宙船を運転しながら、ボーンは低い声で問い返した。
「俺はカシドゥア人という連中に興味がある。そしてお前の母親もカシドゥア人だ。恐らくは純血のな」
アタルは前方の窓に広がる宇宙空間に目をやりながら、そう答えた。
「てめえらの先祖が滅ぼした種族にそんなに興味があるのかね?」
ボーンは嘲った。
「お前がノーリスペクトを率いてキン肉星を襲った理由は、祖先の復讐のためか?」
ボーンは一瞬沈黙した。
「……好きなように考えな」
「ふむ。あながち間違った推測でもないようだな」
アタルは感情の読み取れないボーンの顔に目を向けた。
ボーンは葉巻に火を点ける。
深々と吸って、吐き出す。
「安心しろ。カシドゥア人をどうこうしようとは思っておらん。お前もキン肉族への恨みを手離したらどうだ」
「もう、どうでもいいことだ」
かつてあれほど燃え盛っていた、キン肉族を滅ぼすという執念は、ボーンの中から消えていた。
万太郎と戦ったからかどうか。
「嘘ではなさそうだな」
アタルは今や自分の片腕となった男を見やった。
「……ボーン。進路を変更しろ」
「あ?」
「ここから遠くないはずだ。惑星カシドゥアに向かう」
ボーンは目をすがめた。
「一度この目で見ておきたい。お前もそうではないのか?」
ボーンは無言で自動航行装置の設定を変更し始めた。