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6 ボーンとハンゾウとデーモンシード

「で? 難攻不落の鉄騎兵さんが、俺らに何の用だい?」

 ボーンが葉巻をくゆらせながら、そう尋ねた。

 現場を最寄りの都市の警察に引き渡し、彼らは少し離れた、わびしい高架下に移動している。
 幸いにというか、周囲に人目はない。

 悪行超人四人組を倒し、一時的な共闘を行なったノーリスペクトとケビンマスクは、改めて向かい合った。

 ノーリスペクトたちを倒した万太郎を、更に地に伏させたケビンマスクという男には、彼らは興味と共に、複雑な感情を抱いている。
 どうにも微妙といえば微妙な雰囲気ではある。

「俺が用があるのは、正確に言うとあんただ」

 ケビンマスクはすうっと腕を上げ、ハンゾウを指差した。

「な……俺か!?」

 ハンゾウが仮面の下で目を剥く。
 ボーンは好奇心も露わな顔を見せ、フォークは突然のことに呆気にとられるばかり。

「この度、俺が発起人となって、新しい超人軍を作ることになった」

 ケビンマスクは説明し始めた。

「各地から、有能な超人戦士を集めている。その中の一人として、白羽の矢が立ったのが、ハンゾウ、あんただ」

「何故俺なのだ? 実力ならボーンの方がはるかにあるが」

 ハンゾウは解せぬ顔だ。
 ボーンはにやにや笑い、フォークは視線をハンゾウとケビンの間でうろうろさせている。

「……あんたは奇妙な力を使うな。事前調査にはなかった情報だ」

 ケビンはボーンに向き直る。
 言葉に僅かな戸惑いが見て取れる。

「ボーン・コールドの情け容赦ない力も、フォーク・ザ・ジャイアントの力溢れる戦いぶりも魅力的だが……俺が欲しいのは、ハンゾウ、あんたの忍者としての変幻自在の力なんだ。どうか、俺たちと共に戦ってくれないか?」

 ケビンがまっすぐにハンゾウを見据える。
 ハンゾウは目に見えて困惑した。

「俺は……司法取引で釈放された身だ。今の仕事を辞めることは、立場上できん。せっかくの話だが……」

「聞いている。しかし、おれがあんたの上司であるキン肉アタルに直接かけ合ってみる。おそらく、かなりの確率で許可が下りるはずだ」

 ケビンは熱心にハンゾウを口説いた。

「いいんじゃねえ? ハンゾウ。お前、正義超人になりたがってたろ? このニイチャンの下に付けば、間違いなく正義超人と認定されるぜ? 何せこちらは由緒正しい正義超人のサラブレッドだ。そいつの選択に、わざわざ異を唱える奴がいるとも思えねえ」

 ボーンはさりげなくハンゾウに決断を促した。

「ウーム、ノーリスペクト解散かあ?」

 フォークが唸る。

「解散する必要はない。ハンゾウにはノーリスペクトと俺たちの軍団に同時に所属してもらえばいいだけの話だ」

 ケビンはさらりと最適解を返した。

「どうするよ、ハンゾウ?」

 ボーンは改めてハンゾウに訊いた。

「……しばし時間が欲しい。それに、アタルにも話を通さんと……」

「分かった。キン肉アタルには、俺からも話がしたい。……とりあえず、キン肉星に向かおう」

 ケビンはまだ戸惑うハンゾウの気持ちを汲んで、そう宣言する。


 ◇ ◆ ◇

 そのまま、ノーリスペクトとケビンは、それぞれの宇宙船に戻る。
 航路をキン肉星に自動設定し、並走するように、そのまま恒星間航行を開始する。

「どうするんだ、ハンゾウ? あのケビンとやらの新軍団に入るのか?」

 フォークが宇宙船の中で、座席に収まりながら、隣の席のハンゾウに訊く。

「うむ……。惹かれるものはある。あの万太郎を破ったケビンという男にも興味はあるしな。しかし、アタルが認めるかは……」

「アタルが問題じゃねえだろ? 問題なのは、お前の意思だよ」

 まだ迷うハンゾウに、ボーンが一押しくれた。

「お前、本当はかなり乗り気だろ? あのケビンマスクの下に付けば、正義超人として世間に認識される。お前は鬼畜とまで言われた超人だ、そのくらいのインパクトのある再出発をしないと、世間的にはなかなか正義超人として認識されないぜ? 手っ取り早く言や、これはお前にとって千載一遇のチャンスというこった」

 これを逃せば、恐らく次はないぜ?
 ボーンの断言に、ハンゾウは、うむとうなずく。
 確かにその通りだと、ハンゾウにもわかってはいる。

「ケビンも言ってただろ~? ノーリスペクトと同時に所属するのは問題ないってな。お前の立場がどうなろうと、お前が望む限り、お前はノーリスペクトマーク2だぁ~!!」

 フォークが安心させるべく、きっぱりと言い切る。

 ボーンはふっと笑った。
 こんな馴れ合いは嫌いだったはずだ。
 だが、心底ハンゾウの行く末を案じている自分が確かにいる。

 これが友情ってやつなのかね?

 ボーンは葉巻の煙を吐き出した。

「……それに、あのケビンマスクって奴自体、元悪行超人だったはずだぜ? 多分、お前の気持ちをさっぱり理解しない、なんて事態にはならねえはずだ。他のメンバーがどんな奴らかは知らねえが、理解されなくて精神的に辛い、なんてことは、ことチームリーダーに関してはねえんじゃねえか?」

 ボーンはついでにそんなことを付け足した。

「……そうだな」

 ハンゾウがぽつりと洩らした。

「肚は決まった。ケビンと一緒に、アタルに是非新軍団参加を許してくれるように頼み込んでみる」

 やがて彼らの宇宙船は、キン肉星へと接近した。


 ◇ ◆ ◇

「アタルからの許可が下りた。俺はケビンと共に地球へ行く」

 メッセージが、ボーンとフォークのスマホ端末に入ったのは、ハンゾウとケビンマスクが連れだってマッスルガム宮殿に向かってから、そう時間をおかないでのことだった。

 指名手配悪行超人退治から帰ってすぐ、その足で、ハンゾウとケビンマスクはマッスルガム宮殿のアタルを訪ね、ハンゾウの新軍団入りと、キン肉族司法長官の私兵の立場を解く許しを求めた。

 拍子抜けするほどあっさりと、アタルは許可を出したのだという。

 ハンゾウの家にやって来たボーンとフォークに向けて、ハンゾウはそう説明した。

「明日荷物をまとめて、明後日には地球に向かう。今日の仕事がアタルの私兵としての最後の仕事になる……二人とも、世話になった。礼を言う」

 ハンゾウは仲間二人を順繰りに見る。
 いつになく穏やかな視線に、純粋な感謝が伝わる。

「なら、今夜はおめえの壮行会にしようぜ。おごるからよ、なんか派手に飲み食いできるとこ行こうぜ」

 ボーンがすかさず切り出した。
 スマホに念のためにクリップしておいた、近場の飲食店をピックアップしはじめる。

「ハンゾウ~!! 本当に行っちまうんだなあ~!!」

 いよいよこうなると、フォークも寂しさを噛み締めずにはいられぬよう。

「惑星IGA風料理の高級店があるぜ。今夜はこれでいかねえか? 悪いが、スペクトラには遠慮してもらってな」

 ボーンはスマホの画面で、そのハンゾウの故郷風の高級料理店を表示して、二人に見せる。
 IGAエビの刺身の姿盛りが豪奢だ。

 ハンゾウの門出だ。
 せいぜい、盛大に祝うとするかね?

 自分も、ハンゾウも変わっていく。
 フォークもだ。
 それがこの先自分に宇宙にどう影響を与えるのか、ボーンにはまだ分からなかった。
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