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6 ボーンとハンゾウとデーモンシード

「ボーン……ボーン!!」

 響きの良い女の声に呼びかけられ、ボーンの意識は眠りの海から浮上した。

「ボーン、起きて!」

 ボーンは目を覚ます。

 視界に白く青く浮かび上がるのは、サフィーアの艶麗な容貌だ。
 天幕を下ろしたベッドの上は薄暗く、わずかに漏れ来る灯火に、サフィーアの青い髪と額の青いダイヤモンドが妖火のように目に沁みる。
 白いそのかんばせは、心配そうな色をたたえて、横たわるボーンを見下ろしていた。

「随分とうなされていたわ……」

 裸の上半身を起こすボーンに、サフィーアはそっと告げ、鈍く光る銀髪に降れた。

「ああ……お前の隣なら平気でいられると思ったんだがな」

 ボーンは苦笑する。

「どこか体調がおかしくて? それでうなされるの?」

 片手でボーンの額からこめかみにかけて触れ、何かを確認しながら、サフィーアが尋ねる。

「いや……体の方は至って健康なんだがな……。このところ、妙な夢を見やがる」

 ボーンは今しがたまで絡みついていた悪夢を振り払うかのように、頭を振った。

「妙な夢? あなたがうなされるからには、よほどのことなのですわね」

 サフィーアがさりげなく夢の内容を促した。
 話したくないなら、かわせる余地を残して。

「……夢の中で俺は、例のカシドゥアとかいう神そのものになっていやがるんだ」

 ボーンは銀髪に手櫛を通しつつ、自分を落ち着かせる。

「カシドゥアに? あなたが?」

 サフィーアは目を見開く。

「惑星カシドゥアの神殿で見た神像、あのカッコなんだ。ただし、ズタボロになってやがる。他の超人の神との戦いに疲れたっていうのが、何故か分かる。神々だけでなく、その支配下にある超人たちも戦ってる。眼下には、戦争で破壊されたシャリザーンが見える。俺は、というかカシドゥアは、悲しいし悔しい……と感じてる。自分が作り上げてきたカシドゥア文明が滅ぼされようとしている……。そんな時に現れやがったんだ、あいつが」

「あいつ……?」

 サフィーアは怪訝そうな顔をした。

「サタンだ。奴は言った。もっと恨め憎め、全てのものを。私がお前に代わってその恨み、晴らしてやろう」

 ボーンは夢の中で感じた生々しい感覚を思い出し、身震いした。
 サフィーアは凝然と聞いている。

「サタンを倒そうにも、カシドゥアにはその力が残っていなかった。サタンはカシドゥアの悲憤につけこみ、そのままカシドゥアを自らの内に吸収しちまった。俺は……いや、カシドゥアは無念だ。とてつもない無念さだけが感じられる……。夢はいつもそこで終わるんだ」

 ボーンはふうっとため息をこぼす。
 サフィーアはボーンに優しく触れて撫でまわし、落ち着かせようとしている。

「こいつは、かつてカシドゥアの身に起こったことなのか? 何でそんなモンを俺に見せるのかね?」

 ボーンは納得いかなそうにぼやく。
 サフィーアは、ボーンのたくましい肩に頬を擦り寄せた。

「ボーン。あなたは何者なのかしら?」

「? 何だよ、急に?」

「あなたの見た夢は、間違いなくカシドゥアの身に起こったことの追体験だわ。全く、伝説にある通り……カシドゥアがあなたに見せているの。自らが敗北した瞬間を……」

 サフィーアは、真剣な目でボーンを見つめた。

「ボーン、あなたは確実にカシドゥアに選ばれた存在だわ。やはりカシドゥアは、あなたに自分を解放させようとしているとみて間違いないわ」

「……そいつは俺もやろうとしてるんだが、それには何が必要なんだ?」

 苦々しい笑いが、ボーンの顔をよぎった。

「魔法だけじゃ駄目だろう。それで済むなら、他のカシドゥア人たちがとっくにやっているはずだ。魔法以外の何が揃えば、サタンを倒してカシドゥアを解放できるんだ? 何が鍵なんだ?」

 分からない。

 ボーンは自分が思考の迷路に落ち込むのを感じた。
 この問題を考える時、必ず襲ってくる感覚。
 何せ、情報が少なすぎる。
 おそらく宇宙で一番、超神カシドゥアとカシドゥア人については詳しいであろう、魔女サフィーアにしても十分な情報を得られないのだ。
 障害が多すぎる。
 何者かによる、意図的なものなのだろうか。

「鍵は……あなた自身かも知れないわ」

 サフィーアが唐突に突きつけ、ボーンは怪訝な顔を彼女に向けた。

「あ? 何だって?」

「サタンを倒し、カシドゥアを解放できるのは、救世主と呼ばれる者のみ、というのが、カシドゥア人に伝わる伝説よ。その人でなくてはならない。他の誰でもなく」

 サフィーアはそっと繊手をボーンの筋肉の巻き付いた太い腕に滑らせた。

「百歩譲って俺がその救世主だとして」

 ボーンは身を起こし、サフィーアに向き直る。

「俺のどこが他のカシドゥア人と違うんだ? シューティング・アローを撃てるとこくらいしか考えつかないがね?」

 ボーンでなくてはいけない理由とは何だろう?
 雑種の自分などより、遥かに巧みに魔法を使いこなす純血のカシドゥア人は多くいるはずだ。
 表に出てこないだけで、戦ったらボーンを上回る猛者もいるかも知れない。
 その者たちを差し置いて、ボーンが選ばれる理由とは?

「前から感じていたのだけれど……」

 サフィーアは戸惑いがちに口を開く。

「あなたの姿は、超神カシドゥアそのものに似ているの。最初は、異星人の血が混じっている故の偶然だと思っていたけれど……それだけではないのかも知れないわ」

「どういうことだ?」

「カシドゥアには、アヴァタール……神の化身という考え方があるの」

 サフィーアの目の中に、畏怖がある。

「神が己の魂の一部を切り離して、人の体にそれを封じた存在。人としての体と人格を持つ、小さな神と言っていいわ……。あなたは恐らく、カシドゥアの……」

「化身だって言いたいのか? ハッ!!」

 ボーンは首をのけ反らせて笑い声を上げた。

「笑い事ではなくてよ、ボーン」

「ねえ。それはねえ。考えてもみろ、俺が小さなカミサマだって言うのか? カミサマが殺し屋になって、しまいには刑務所に入るのか? アホらしくて笑っちまうぜ!!」

 笑い続けるボーンに、サフィーアが尚も話しかけようとした時だった。

 不意に笑いを収めたボーンが、くるりと体勢を入れ換えて、サフィーアを押し倒す。

「変な夢見て、妙な気分だぜ。やらせてくれよ、サフィーア」

 サフィーアが何か言う前に、ボーンはその唇を自らの唇で塞いだ。
 手をするりと秘所に伸ばす。
 敏感な突起をまさぐられ、サフィーアの体がびくん、と跳ねた。
 そのまま擦り上げると、塞がれた口から喘ぎ声が洩れる。

 ボーンはサフィーアの口に舌を差し入れて貪ったまま、指で突起への刺激を続けた。
 気の狂いそうな快感に、サフィーアの極度に妖艶な体がうねる。

 愛撫を続け、自らも快楽の波に引き込まれながら、ボーンはふと考えた。

 神も快楽に浸るのか?

 答えなどいらない。
 ボーンは絶頂を迎えたサフィーアの秘所を開き、自らを埋めた。
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