5 魔法と超人オリンピック
「ダークネス・ジュエル!!」
ボーンが呪文を唱えると、上空から降り注いだ黒いダイヤモンドの雨が、機銃の弾のように目標となった超人たちの一団を貫いた。
絶叫がほとばしり、5人ほどいた悪行超人たちは胴や手足を貫かれて、一瞬で地に伏す。
血が流れ、土と石と枯草の荒れ果てた地面を赤く染めていく。
「グロロ~ッ! これが魔法かあ~っ! 凄え~っ!」
ボーンの背後で成り行きを見守っていたフォークが、感嘆の声を上げる。
戦闘体制を取るべく身構えていた彼だが、出番はほぼなかった。
「鋭利な金剛石で貫くばかりではないな。傷口の回りを見ろ、黒く変色している」
ハンゾウは半死半生で呻いている悪行超人たちの体を指した。
血で赤く染まっている以外に、傷口を中心に肉が黒く変色しているのがはっきり見て取れる。
「あの黒ダイヤモンドには、死の魔力ってやつがこもっているのさ」
魔法を放った当人であるボーンは、悠然と葉巻に火を点けた。
深く吸って吐き出す。
「だから、そいつに傷つけられたところでは細胞が壊死するんだよ。魔力に乗って、壊死は広がっていく。しまいに全身死の魔力に食いつくされて、ジ・エンドだ」
ボーンは呻く犠牲者たちを眺め、魔法の解説を始めた。
「殺すなという命令には従ったようだが、これでは意味がないぞ」
見守っていたアタルがため息をこぼす。
「急所は確かに外しているようだが、その魔法の効果が本当ならば、そう時間を置かず死ぬではないか」
「大丈夫だよ。ほれ」
ボーンが犠牲者たちに手をかざした。
黒く変色した皮膚が元に戻っていく。
だが、傷そのものまで元に戻った訳ではない。
相変わらず彼らは痛みに呻いている。
「これは死の魔力を切ったのさ。俺がもう少し器用なら、傷そのものも塞げたんだが、生憎と俺にそういう力はないんでな」
ボーンの説明に、アタルはふむ、と鼻を鳴らした。
「まあ、これでよしとするか。ご苦労だった」
アタルが業務用のスマホを取り出し、この星の地元警察に連絡を入れる。
5分ほどで、警察と救急車がやって来た。
あれよという間に、瀕死の悪行超人たちは病院に運ばれていく。
アタルに逮捕の状況を尋ねた後、礼を述べて、警察は引き上げて行った。
「それにしても、いつの間にそんな能力を身につけたのだ、ボーン? カシドゥア人が魔法を得意とする種族だとは知っていたが、お前自身がまさかそこまでの魔法を使いこなすとはな」
ハンゾウが、宇宙船へと戻る道すがら、そんなことを尋ねてきた。
「ま、俺だってそれなりの研鑽はしてるってことよ」
ボーンは淡々と葉巻をふかすだけ。
「恐らく、サフィーアの元で魔法の訓練を積んでいるのだろうな」
アタルが推測を述べる。
「あの女は、一人で百人の超人の軍団を相手取るほどの魔法力があるというからな」
「ほう~。ただ楽しい思いしてくる訳じゃねえってことか」
フォークがにやにやと突っ込む。
「ま、その辺は推測に任せるがね」
ボーンがふっと笑う。
確かに自分は魔法の力に目覚めたが、その直接のきっかけは、サフィーアというよりカシドゥアの神像から声をかけられたことだ。
あれ以来、自分の中で何かが変わった。
恐らく、今まで眠っていた魔法を使う回路が開いたのだろうと、サフィーアには指摘されている。
「まあ、当初の予定通りと言えば予定通りだ。ボーンのカシドゥア人としての秘められた力を、犯罪の取締りの役に立てるのが、俺の目的だからな」
キン肉星へ戻る宇宙船に乗り込むと、アタルはそう呟いた。
「俺たちはついでか?」
とハンゾウ。
「そういう訳ではない。お前たちはボーンがその力を認めた者たちだ。この、他人を信じないボーンがな」
アタルは後部シートで悠然と断言する。
「ケッ、結局ボーンが基準かあ~! まあ、分かる気がするがな!」
フォークが肩を揺らして笑う。
「まあ、俺たちはノーリスペクトだ。それで良かろう」
ハンゾウが計器に目を走らせながらさらりと肯定する。
「まあな。その中の一人がカシドゥア人だったってだけの話だあ~!」
フォークが豪快に笑う。
ボーンはそんな仲間たちのやり取りを聞きながら、いつしか自分が一抹の安らぎを覚えていることに、密かに当惑した。
友情?
友達?
バカな……。
「しかし、ボーン。気になるのだが、お前が魔法を研鑽する訳は、もしやサタンと戦うためか?」
急なハンゾウの問いに、ボーンは気だるげな笑みで応じる。
「さあな?」
「なにぃ~!? 本当かボーン!?」
フォークがぎょっとしたように振り向いた。
アタル、そしてこの二人には、ボーンがサタンと戦う意思は伝えてあるが。
「サタンは実体がない故に、通常の超人レスリング技術では歯が立たない。ならば魔法なら何とかなると、お前は踏んでいるのではないか?」
アタルの問いに、ボーンは葉巻の煙を吐き出すことで答えた。
「ことはそう簡単ではないかも知れんぞ、ボーン」
アタルが警告する。
「もしその手が通じるのなら、お前以外のカシドゥア人の誰かがとっくにやっている。恐らく、それだけでは駄目なのだ」
「かもな」
ボーンはあっさり認めた。
「だが、何らかの方法があるはずだ。カシドゥアの伝説が単なるデタラメとも思えないんでね」
サタンを滅ぼし、カシドゥアを解放するには、何が必要なのだろう。
魔法が必要とされるのは確実だとしても、そもそもカシドゥアの神像は、何故自分に解放を命じたのか。
純粋のカシドゥア人ではない、雑種。
人の命を数知れず奪ってきた大罪人。
その自分が、何故。
ボーンは解けぬ謎を抱えながらも、宇宙船の進路をキン肉星に取った。
ボーンが呪文を唱えると、上空から降り注いだ黒いダイヤモンドの雨が、機銃の弾のように目標となった超人たちの一団を貫いた。
絶叫がほとばしり、5人ほどいた悪行超人たちは胴や手足を貫かれて、一瞬で地に伏す。
血が流れ、土と石と枯草の荒れ果てた地面を赤く染めていく。
「グロロ~ッ! これが魔法かあ~っ! 凄え~っ!」
ボーンの背後で成り行きを見守っていたフォークが、感嘆の声を上げる。
戦闘体制を取るべく身構えていた彼だが、出番はほぼなかった。
「鋭利な金剛石で貫くばかりではないな。傷口の回りを見ろ、黒く変色している」
ハンゾウは半死半生で呻いている悪行超人たちの体を指した。
血で赤く染まっている以外に、傷口を中心に肉が黒く変色しているのがはっきり見て取れる。
「あの黒ダイヤモンドには、死の魔力ってやつがこもっているのさ」
魔法を放った当人であるボーンは、悠然と葉巻に火を点けた。
深く吸って吐き出す。
「だから、そいつに傷つけられたところでは細胞が壊死するんだよ。魔力に乗って、壊死は広がっていく。しまいに全身死の魔力に食いつくされて、ジ・エンドだ」
ボーンは呻く犠牲者たちを眺め、魔法の解説を始めた。
「殺すなという命令には従ったようだが、これでは意味がないぞ」
見守っていたアタルがため息をこぼす。
「急所は確かに外しているようだが、その魔法の効果が本当ならば、そう時間を置かず死ぬではないか」
「大丈夫だよ。ほれ」
ボーンが犠牲者たちに手をかざした。
黒く変色した皮膚が元に戻っていく。
だが、傷そのものまで元に戻った訳ではない。
相変わらず彼らは痛みに呻いている。
「これは死の魔力を切ったのさ。俺がもう少し器用なら、傷そのものも塞げたんだが、生憎と俺にそういう力はないんでな」
ボーンの説明に、アタルはふむ、と鼻を鳴らした。
「まあ、これでよしとするか。ご苦労だった」
アタルが業務用のスマホを取り出し、この星の地元警察に連絡を入れる。
5分ほどで、警察と救急車がやって来た。
あれよという間に、瀕死の悪行超人たちは病院に運ばれていく。
アタルに逮捕の状況を尋ねた後、礼を述べて、警察は引き上げて行った。
「それにしても、いつの間にそんな能力を身につけたのだ、ボーン? カシドゥア人が魔法を得意とする種族だとは知っていたが、お前自身がまさかそこまでの魔法を使いこなすとはな」
ハンゾウが、宇宙船へと戻る道すがら、そんなことを尋ねてきた。
「ま、俺だってそれなりの研鑽はしてるってことよ」
ボーンは淡々と葉巻をふかすだけ。
「恐らく、サフィーアの元で魔法の訓練を積んでいるのだろうな」
アタルが推測を述べる。
「あの女は、一人で百人の超人の軍団を相手取るほどの魔法力があるというからな」
「ほう~。ただ楽しい思いしてくる訳じゃねえってことか」
フォークがにやにやと突っ込む。
「ま、その辺は推測に任せるがね」
ボーンがふっと笑う。
確かに自分は魔法の力に目覚めたが、その直接のきっかけは、サフィーアというよりカシドゥアの神像から声をかけられたことだ。
あれ以来、自分の中で何かが変わった。
恐らく、今まで眠っていた魔法を使う回路が開いたのだろうと、サフィーアには指摘されている。
「まあ、当初の予定通りと言えば予定通りだ。ボーンのカシドゥア人としての秘められた力を、犯罪の取締りの役に立てるのが、俺の目的だからな」
キン肉星へ戻る宇宙船に乗り込むと、アタルはそう呟いた。
「俺たちはついでか?」
とハンゾウ。
「そういう訳ではない。お前たちはボーンがその力を認めた者たちだ。この、他人を信じないボーンがな」
アタルは後部シートで悠然と断言する。
「ケッ、結局ボーンが基準かあ~! まあ、分かる気がするがな!」
フォークが肩を揺らして笑う。
「まあ、俺たちはノーリスペクトだ。それで良かろう」
ハンゾウが計器に目を走らせながらさらりと肯定する。
「まあな。その中の一人がカシドゥア人だったってだけの話だあ~!」
フォークが豪快に笑う。
ボーンはそんな仲間たちのやり取りを聞きながら、いつしか自分が一抹の安らぎを覚えていることに、密かに当惑した。
友情?
友達?
バカな……。
「しかし、ボーン。気になるのだが、お前が魔法を研鑽する訳は、もしやサタンと戦うためか?」
急なハンゾウの問いに、ボーンは気だるげな笑みで応じる。
「さあな?」
「なにぃ~!? 本当かボーン!?」
フォークがぎょっとしたように振り向いた。
アタル、そしてこの二人には、ボーンがサタンと戦う意思は伝えてあるが。
「サタンは実体がない故に、通常の超人レスリング技術では歯が立たない。ならば魔法なら何とかなると、お前は踏んでいるのではないか?」
アタルの問いに、ボーンは葉巻の煙を吐き出すことで答えた。
「ことはそう簡単ではないかも知れんぞ、ボーン」
アタルが警告する。
「もしその手が通じるのなら、お前以外のカシドゥア人の誰かがとっくにやっている。恐らく、それだけでは駄目なのだ」
「かもな」
ボーンはあっさり認めた。
「だが、何らかの方法があるはずだ。カシドゥアの伝説が単なるデタラメとも思えないんでね」
サタンを滅ぼし、カシドゥアを解放するには、何が必要なのだろう。
魔法が必要とされるのは確実だとしても、そもそもカシドゥアの神像は、何故自分に解放を命じたのか。
純粋のカシドゥア人ではない、雑種。
人の命を数知れず奪ってきた大罪人。
その自分が、何故。
ボーンは解けぬ謎を抱えながらも、宇宙船の進路をキン肉星に取った。