3 ノーリスペクト
「よう、久しぶり」
ボーンは葉巻をくわえたまま、分厚いアクリル板越しに、その二人に話しかけた。
「しばらくだな……ボーン」
火事場のクソ力修練の傷も癒えたハンゾウが、ボーンにそう返す。
焼け爛れた顔は新たな面で覆われ、コスチュームも元に戻っている。
「どうだあ~? 王兄殿下の犬っころになった気分は~? 上手くいってるのかあ?」
からかい半分に尋ねたのは、ハンゾウの隣に座るフォーク・ザ・ジャイアントだった。
彼もまた火事場のクソ力修練での傷が癒え、ちぎれた両手首も整合手術の結果繋がっている。
「ま、今までとやるこた同じだな。ただ、対象が正義超人から悪行超人に変わっただけのことだ」
差し入れの食料を看守に渡し、ボーンは葉巻をくゆらせた。
「それでも羨ましいぜ~っ! シャバで存分に暴れられるんだからな~っ! 俺にも司法取引で釈放の話でも来ねえかな?」
フォークが羨まし気に唸る。
ボーンは笑った。
「そういう話が来たら、お前さんは受けるつもりか?」
「おう! 願ってもねえ!」
フォークは即答する。
「ハンゾウはどうだ?」
ボーンに視線を向けられ、ハンゾウは腕組みしたまま言葉を放つ。
「……俺は、万太郎との戦い以来、正義超人になってもいいと思い始めている」
「ほお。鬼畜ハンゾウの言葉とは思えないぜ」
ボーンは面白そうに葉巻をふかす。
「……俺が正義超人になると言っても、誰も信じねえんだろうな、グロロ~……」
フォークは上体をアクリル板手前の張り出しに預けた。
「お前もかよ、フォーク! 全くどうかしてるぜ、お前ら」
「お前はどうなのだ、ボーン? 自分を正義超人になったとは感じていないのか?」
笑い転げるボーンに、ハンゾウが尋ねる。
「……そう言や、つい最近、正義超人を養成するとかいうガッコに行って来たよ」
ボーンは含みのある薄笑いを浮かべながら、唐突に言い出した。
「そこで特別講師ってのをやらされたんだが、その時にちょいとばかりボクちゃんたちの前で面白い話をしてやった」
「面白い話?」
「前お前らにも話したことがあったっけな? DV野郎の正義超人がいて、暴力振るわれるその嫁さんから亭主の殺害依頼があったって話さ。ついでに俺、その嫁さんと寝たってな」
ハンゾウとフォークが顔を見合わせる。
「お前、その話したのかあ!? 生臭い盛りのボウヤたちの前でかあ!?」
フォークが呆れたように叫んだ。
「……さぞ正義超人の卵どもは困惑しただろうな……」
ハンゾウが嘆息する。
「いかにもお前らしいタチの悪さだあ! 思春期の純情ボウヤどもに何てことしやがる!」
フォークがゲラゲラ笑い転げる。
「お前らも司法取引で釈放されたりすることがあれば、お鉢が回って来るかも知れねえぜ? ちなみに俺は生徒の半分ぐらい、入院させちまったがね」
しれっとしてボーンが告げた。
「俺が行ったら、多分殺しちまうぜ~っ。俺はお前と違って、手加減が上手くねえからな~っ!」
フォークは更に笑う。
「やはりシャバは、楽しそうだな」
ハンゾウがあれやこれやと思いを巡らせている様子で、ぽつりと呟いた。
「仕事だけじゃねえだろ~? お前のことだ、女でも引っかけて楽しんでるんじゃねえか~?」
フォークがにやにやする。
「キン肉星の女にゃ、食指が動かねえよ……。どいつもこいつも、変なマスク着けてやがる」
それはボーンのこの上もない正直な感覚だった。
「では、あの女のところにでも通っているのか?」
ハンゾウが、ごく生真面目な様子で問いかける。
「あの女って、どの女だい……」
ボーンは努めてポーカーフェイスを装った。
「あの青い女だ……。額に青い金剛石の、色香のある……サフィーアという名だったか」
ハンゾウ、そしてフォークがサフィーアの名を知っているのは不思議ではない。
ノーリスペクト結成後すぐ、超人ポリスに追われた彼らは、ボーンの導きでサフィーアの宇宙要塞に逃げ込んだ。
彼女は手負いとなっていたハンゾウとフォークをその魔法の力を使って癒し、超人ポリスが周辺の捜索を諦めるまで、ノーリスペクトの三人をかくまったのだ。
「おお、あの色っぺえ女かあ~! どうなんだボーン、会ってるのかあ?」
フォークがからかう口調で問う。
「……ま、想像に任せるがね」
ボーンはにやりとした。
「やっぱり会ってんのかあ! 好き者だなあ、お前も~!」
フォークはやけに嬉しそうだ。
「お前らもシャバに出りゃあ、女の一人くらい何とかなるかも知れねえぜ? 何せ火事場のクソ力修練で名前は知れ渡ったからな」
冗談半分に口にするボーンに、ハンゾウは自嘲の笑みを返した。
「俺のこの顔では、到底そうは思えんがな……」
「そうでもねえぜ? お前は元のツラは必ずしも悪くねえよ。それに、男を顔で判断しない女だって、意外といるもんだぜ?」
「俺もツラに自信がある訳じゃねえが、表に出りゃ何とかなるかもな~。あ~、シャバに出てえぜ~」
フォークは羨ましそうな目で、ボーンを見やる。
「ま、未だにこれだけタチの悪い俺が司法取引で釈放されたんだ。お前たちにも可能性がない訳じゃねえかも知れねえぜ? ちょいと期待して待ってたらどうだ?」
ボーンはそう告げると、椅子から立ち上がった。
「じゃ、そろそろ帰る。またそのうち美味いモンでも見付けたら持って来てやるよ」
「ああ。達者でな、ボーン」
「サフィーアによろしくな~、へへへ」
ハンゾウとフォークに見送られ、ボーンは接見室を後にした。
ボーンは葉巻をくわえたまま、分厚いアクリル板越しに、その二人に話しかけた。
「しばらくだな……ボーン」
火事場のクソ力修練の傷も癒えたハンゾウが、ボーンにそう返す。
焼け爛れた顔は新たな面で覆われ、コスチュームも元に戻っている。
「どうだあ~? 王兄殿下の犬っころになった気分は~? 上手くいってるのかあ?」
からかい半分に尋ねたのは、ハンゾウの隣に座るフォーク・ザ・ジャイアントだった。
彼もまた火事場のクソ力修練での傷が癒え、ちぎれた両手首も整合手術の結果繋がっている。
「ま、今までとやるこた同じだな。ただ、対象が正義超人から悪行超人に変わっただけのことだ」
差し入れの食料を看守に渡し、ボーンは葉巻をくゆらせた。
「それでも羨ましいぜ~っ! シャバで存分に暴れられるんだからな~っ! 俺にも司法取引で釈放の話でも来ねえかな?」
フォークが羨まし気に唸る。
ボーンは笑った。
「そういう話が来たら、お前さんは受けるつもりか?」
「おう! 願ってもねえ!」
フォークは即答する。
「ハンゾウはどうだ?」
ボーンに視線を向けられ、ハンゾウは腕組みしたまま言葉を放つ。
「……俺は、万太郎との戦い以来、正義超人になってもいいと思い始めている」
「ほお。鬼畜ハンゾウの言葉とは思えないぜ」
ボーンは面白そうに葉巻をふかす。
「……俺が正義超人になると言っても、誰も信じねえんだろうな、グロロ~……」
フォークは上体をアクリル板手前の張り出しに預けた。
「お前もかよ、フォーク! 全くどうかしてるぜ、お前ら」
「お前はどうなのだ、ボーン? 自分を正義超人になったとは感じていないのか?」
笑い転げるボーンに、ハンゾウが尋ねる。
「……そう言や、つい最近、正義超人を養成するとかいうガッコに行って来たよ」
ボーンは含みのある薄笑いを浮かべながら、唐突に言い出した。
「そこで特別講師ってのをやらされたんだが、その時にちょいとばかりボクちゃんたちの前で面白い話をしてやった」
「面白い話?」
「前お前らにも話したことがあったっけな? DV野郎の正義超人がいて、暴力振るわれるその嫁さんから亭主の殺害依頼があったって話さ。ついでに俺、その嫁さんと寝たってな」
ハンゾウとフォークが顔を見合わせる。
「お前、その話したのかあ!? 生臭い盛りのボウヤたちの前でかあ!?」
フォークが呆れたように叫んだ。
「……さぞ正義超人の卵どもは困惑しただろうな……」
ハンゾウが嘆息する。
「いかにもお前らしいタチの悪さだあ! 思春期の純情ボウヤどもに何てことしやがる!」
フォークがゲラゲラ笑い転げる。
「お前らも司法取引で釈放されたりすることがあれば、お鉢が回って来るかも知れねえぜ? ちなみに俺は生徒の半分ぐらい、入院させちまったがね」
しれっとしてボーンが告げた。
「俺が行ったら、多分殺しちまうぜ~っ。俺はお前と違って、手加減が上手くねえからな~っ!」
フォークは更に笑う。
「やはりシャバは、楽しそうだな」
ハンゾウがあれやこれやと思いを巡らせている様子で、ぽつりと呟いた。
「仕事だけじゃねえだろ~? お前のことだ、女でも引っかけて楽しんでるんじゃねえか~?」
フォークがにやにやする。
「キン肉星の女にゃ、食指が動かねえよ……。どいつもこいつも、変なマスク着けてやがる」
それはボーンのこの上もない正直な感覚だった。
「では、あの女のところにでも通っているのか?」
ハンゾウが、ごく生真面目な様子で問いかける。
「あの女って、どの女だい……」
ボーンは努めてポーカーフェイスを装った。
「あの青い女だ……。額に青い金剛石の、色香のある……サフィーアという名だったか」
ハンゾウ、そしてフォークがサフィーアの名を知っているのは不思議ではない。
ノーリスペクト結成後すぐ、超人ポリスに追われた彼らは、ボーンの導きでサフィーアの宇宙要塞に逃げ込んだ。
彼女は手負いとなっていたハンゾウとフォークをその魔法の力を使って癒し、超人ポリスが周辺の捜索を諦めるまで、ノーリスペクトの三人をかくまったのだ。
「おお、あの色っぺえ女かあ~! どうなんだボーン、会ってるのかあ?」
フォークがからかう口調で問う。
「……ま、想像に任せるがね」
ボーンはにやりとした。
「やっぱり会ってんのかあ! 好き者だなあ、お前も~!」
フォークはやけに嬉しそうだ。
「お前らもシャバに出りゃあ、女の一人くらい何とかなるかも知れねえぜ? 何せ火事場のクソ力修練で名前は知れ渡ったからな」
冗談半分に口にするボーンに、ハンゾウは自嘲の笑みを返した。
「俺のこの顔では、到底そうは思えんがな……」
「そうでもねえぜ? お前は元のツラは必ずしも悪くねえよ。それに、男を顔で判断しない女だって、意外といるもんだぜ?」
「俺もツラに自信がある訳じゃねえが、表に出りゃ何とかなるかもな~。あ~、シャバに出てえぜ~」
フォークは羨ましそうな目で、ボーンを見やる。
「ま、未だにこれだけタチの悪い俺が司法取引で釈放されたんだ。お前たちにも可能性がない訳じゃねえかも知れねえぜ? ちょいと期待して待ってたらどうだ?」
ボーンはそう告げると、椅子から立ち上がった。
「じゃ、そろそろ帰る。またそのうち美味いモンでも見付けたら持って来てやるよ」
「ああ。達者でな、ボーン」
「サフィーアによろしくな~、へへへ」
ハンゾウとフォークに見送られ、ボーンは接見室を後にした。