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最近は冬の寒さも厳しくなってかあまり外に出る機会がなかった。
そのせいもあって瀬凪は体のだるさや自堕落な日を送っている事を自覚し始めている。
部屋のソファで堂々と寝ている男真島もまた、組を持ち始めてからというもの、部下に仕事を任せっきりで冬場は特に動かないでいた。
「おい。おい真島」
「んぉ。なんやぁ瀬凪ちゃん」
真島はどんなに深い眠りに落ちていても一声かけるだけで割とすんなりと起きてくる。
生まれつきそうなのか、はたまた何かが原因でそうなってしまったのか定かではないが瀬凪はそんな彼の事がたまに心配になってしまったりもする。
真島からは、若い頃は眠りが浅くあまり眠れなかった、もしくは眠る事が出来なかったと言った話を聞いている。睡眠というのは生きていく上で切っても切れない縁だ。
彼の過去の話も小耳に挟んだ程度しか聞いたことがない瀬凪にとって、眠れないことや睡眠が浅い事に首突っ込む権利は無いと思いながらもやはりパートナーとして心配するのは筋。
とは言え、時が経ち瀬凪がパートナーとして共に過ごすようになってからは真島も盛大に寝るようになったし、今じゃ暇な日の大半は睡眠に使っている。
沢山寝れるようになったのはとても良い事だが、流石にこれはやり過ぎだと瀬凪も焦りを感じていた。
少しは動いてもらわなければ組の構成員達に示しがつかない。
そして彼のパートナーだからこそ組員に慕われている瀬凪の面子も立たない。
「少しは仕事らしい事をしないと、部下達の信用が薄くなるぞ」
「なーんや、人が気持ち良う寝てた言うのに、お仕事の話かいな……」
起こされて早々に聞かされる話の話題が仕事の話だったことに真島は大きく落胆し、またもやソファに倒れて隻眼を閉じる。
その光景に瀬凪はため息をつき、手で頭を軽く抱えてからソファで寝直そうとしている真島の近くまで寄って行った。
「おい、寝るな」
「ん〜嫌や寝る」
瀬凪は駄々をこねる子供のようにソファにくっつく真島を無理矢理立たせると、彼が愛用している鬼炎のドスを持たせると外に連れ出す。
外は張り詰めた冷気が漂っていて真島が反射的に寒っと声を張り、瀬凪も想像以上の寒さに思わず身震いした。
「アカン寒い戻ろうや……」
「だめだ……部下に示しがつかないだろ……。ほら、これでも巻いていろ……」
瀬凪はこれ程の寒さは予想していなかったが、天気予報で今年一の寒さが襲ってくるという情報を事前にチェックしていたので、手元から予め用意しておいた長めのマフラーを真島に手渡す。
真っ白なそのマフラーはふわふわと羽毛が肌を優しく撫でてとても温かそうだ。
半裸に蛇柄のジャケットを着た男が真っ白なマフラーを巻くのは少し奇抜ではあるが少しでも寒さを凌げるのなら気にする必要はない。
「おお。ありがたいわ……」
マフラーを首に巻き始めた真島は、半分ほどマフラーの丈が縮んだところで首に巻くのを止めた。
そして瀬凪の方を振り返る。
「お前も巻きや。寒いやろ」
「私は大丈夫だ。あんたの方がよっぽど寒そうだからな……」
「阿呆。俺だけ温かい思いしてお前が寒い思いしとってもなんも嬉しないわ」
真島はそう言いながら瀬凪の腕を引いて半分丈の残ったマフラーを瀬凪の首に巻いてあげると、マフラーの丈はピッタリ二人分で収まった。
瀬凪の首元はすぐに温まり、寒さもいくらかマシになる。
「温かいやろ?」
「……あぁ」
二人肩を並べてマフラーを共有していることが瀬凪は歯痒く、思わずぶっきらぼうに返事をしてしまう。
それでも真島と共に暖を取れる事が嬉しくもあり、自然と頬は緩んで、体温も上がっていった。
「で、わがまま瀬凪ちゃんに無理矢理叩き起されてこんな寒い外に放り出された訳やけど、どんな仕事したらええねん」
「……それは知らん」
瀬凪の答えに真島は口をぽかんと開けた。
あれだけ動けやら仕事をしろやらと言われて仕方なく外に出たと言うのに、具体的な仕事内容は分からないと来れば、真島も驚く他ない。
「なんやねんな外に出た意味無いやんか」
「……別に、」
「あ?別に?」
俯いて真島が聞こえるくらいの小さな声で瀬凪は口をもぞもぞとうごかす。
真島は聞こえやすいようにと瀬凪の声に集中して耳を傾けた。
「別に外に出る理由が仕事じゃなくても……いいだろ」
ぶっきらぼうに、しかし分かりやすく照れ隠しをしながら訴える瀬凪に、真島は本日二度目の驚愕をする事になる。
組としての示しがつかない、動かないと信用が薄くなるとあれだけ言っていた瀬凪は、ほんとうは真島と一緒に外を歩きたかっただけで仕事が云々という話は全て、瀬凪の本心を隠すための言葉に過ぎなかった。
それを今悟った真島は驚愕と共に心臓が締め付けられるほどの愛おしさが込み上げてくる。
遠回しの彼女の言い方にまどろっこしいだなんて一切思わない。
普段ならこんな事すらしない瀬凪が、今日はこんなにも甘えてくる事が真島にとっては大きくて、彼は隣を歩く瀬凪の腰に手を回してグイッと自分の体に寄せた。
「こうしたらもっと温かいやろ?」
「、温かい」
ゆったりと歩き始めた二人の背景に、純白の優しい雪がはらはらと舞い降りる。
空から降ってくる雪は小さな粉雪で、まるで二人だけの時間を邪魔しないようにと配慮してくれているようだった。
たまにはこうして世間一般的なパートナーらしい事をするのも悪くない、と人知れず真島は心の中で呟く。
いつもより少し違う穏やかな神室町の喧騒の中へと二人は飲み込まれていき、肩を並べて歩く二人を優しく見守るように、雪は優しく振り続けていた。
Fin.
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