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煙草をふかしながら瀬凪は窓の外を見つめた。
目を凝らして見てみれば空からは白くまだ小さな雪がちらほらと舞い降りている。
そういえばもうそんな時期だな、と瀬凪が煙草を唇に挟みながら煙を肺に押し込んだ。
今日は俗に言う"聖なる夜"という日だった。
しかし瀬凪には全く縁が無く、聖なる夜と名付けられた日でさえ、借金の取り立てや一般市民が絶対的にすることの無いような仕事をしている。
今日はたまたま仕事が早く片付いていたからこうして美味しくもない煙草を吸っているが、彼女の目の前に浮かぶ粉雪は今日が特別な日だと実感させるにはタイミングが良かったようだ。
最初の内はちらほらと降っている程度だった雪も、瀬凪が煙草を吸い終える頃には量を増していき、外が白くなり始めるくらいにまで降っていた。
温かい室内で椅子の背もたれに体重を預けながら、デスクに置かれてある灰皿に煙草を押し付けて火をもみ消す。
と、タバコの火が完全に消されたところで、瀬凪が寛いでいた部屋に大きな音が鳴り響く。
「騒々しいな……」
瀬凪は突然の大きな音に驚く訳でもなく、ただこの状況を予想していたかのように椅子をくるりと回して扉の方に視線を向けた。
「何やねんなぁ。久しぶりに会いにきたんやかもうちょっと歓迎ムードになってくれてもええやんか。今日はクリスマスやで?」
こんな所にノックもせず乱暴に扉を開けてやってくる人物といえばこの男しかいない。
「それで何の用なんだ。真島」
東城会本家舎弟頭でありながら、自分の組をも立ち上げたこの男、真島吾朗が必要無いはずの金貸しの会社に乗り込んでくるのはよくある話だ。
ただここ最近の真島は組のことや舎弟頭としての仕事が多いのか、それともただ単に神室町を遊び回っているだけなのかは分からないが五ヶ月程瀬凪の務める会社には来なかった。
なので二人は久々に顔を合わせる。
「特に用は無い。お前に会いたかったから来ただけやで?寂しかったわぁ」
「ふん、思っても無いことを言うな」
わざとらしく寂しそうな顔をして言う真島を見透かして瀬凪は煙草の入った箱とライターをデスクの引き出しに戻した。
その行動を見ていた真島は急に懐から煙草を出すと唇でくわえて火をつける。瀬凪が煙草を戻すのを見てどうやら口寂しさを覚えたようだ。
「久しぶりに会うんやからゆっくり話しようや。どや、仕事は上手くいってるんか?」
「アンタが仕事を回してくれるおかげでそれなりに繁盛させて貰ってるさ」
瀬凪の経営している金融会社は裏で真島組と連携していて、所謂ケツモチという形で真島が金融会社を援助している。
五ヶ月という時間が空いているが真島はその間も瀬凪の会社に仕事を回していて、彼女の経営は右肩下がりすること無く安泰を貫いていた。
真島が回している仕事内容と言うのは取り立てを会社側に手伝わせ、その取り立てた金の四割という羽振りの良さで報酬を与える事だった。
基本瀬凪の会社を訪れる借り受け人は大概、四百万円から一千万円ほどの額を貸してくれと交渉に出る。
ちゃんと返してくれる人間も入れば、返してもいないのに更に借金を追加する人間もいて、後者の場合は瀬凪の会社で働いている労働者が取り立てに向かい、手に負えない時は瀬凪が直々に出ることだってあった。
彼女の経営する金融会社は表立ってはいないものの真っ黒な闇金融。相手の出方によっては暴力で解決する時もあるが、それは本当にごく稀だ。
金融会社と言うのは大手企業でもない限りかなり経営が厳しかったりする。自分の手で金を増やすことから始めなければならない。故に個人経営で潰れる会社も珍しくはなかった。
瀬凪の会社もそれに近い状態に一時期なっていたことがある。
だが真島が仕事を回してくれたおかげで、毎月少なくても二千万、多いときで一億もの大金が流れ込む。
彼のおかげで経営は順風満帆と言っても過言ではない。そこに関しては瀬凪も真島に感謝している。
「そうかそうか。ほなまた近いうちに仕事回しといたるから経理の人によろしく言っといてやー」
「分かった」
彼がこんなにも瀬凪に手を貸すのは偶然ではなく必然的な事で、瀬凪と真島は切っても切れない腐れ縁だ。
十歳以上も歳が離れた二人はどういう訳か、瀬凪がまだとても幼く、真島がまだ生真面目な青年だった頃からの関係だった。
そこから十数年という月日が流れて、長い間離れ離れだったというのにこうして神室町で再会し未だにつるんでいる。
しかし二人とも親しい友人というにはあまりにも淡白な関係で、それでいて言い知れぬ共依存を互いに胸の内に秘めていた。
永遠に目移りすることの無いほど夢中になれる獲物を、射止めた時のような執着と歪んだ感情。
ある意味で友人、恋人、家族なんかよりももっと深い何かで二人を結びつけている。
「瀬凪お前ずっとここにいるってことは、今日暇なんか?」
「あぁ。仕事は殆ど部下達がやってくれてる。お前の力無しでも沢山稼いでやるって血の気の多い部下が一人いてな……そいつに殆ど仕事を取られてしまった」
どうやら真島が後ろ盾してくれている事が気に食わない人間も多く、会社単独での力だけでのし上がりたいと思う従業員が仕事に精を注いでいるようだ。
仕事熱心な従業員が多いのも瀬凪を尊敬し信頼しているからで、殆どの従業員は瀬凪に恩を返す為には働いているようなものだった。
仕事が上手くいかない人間、いつまで経っても就職できない人間、ブラック企業のせいで仕事に耐えられなくなった人間、そんな理由があって仕事のできない者達が集い、瀬凪が経営する今の会社がある。
どの人間も生活面で貧困に苦しんでいたり、返さなくてもいいような借金を背負わされてやりたくもない仕事をさせられているような本当に苦しんでいる人間を瀬凪は雇っている。
まさに瀬凪は救世主というのが相応しいだろう。故に彼女は従業員達から大きく尊敬されている。
「ほうー。そいつってこの前瀬凪と一緒に泰平通り歩いてた短髪の男のことやろ?」
「ストーカーとはいい趣味だな真島」
「あほ、俺がストーカーするんは桐生ちゃんだけや」
その発言もどうかと思った瀬凪だが、真島はストーカーをしていたのではなくただ通りかかった時に丁度見つけただけだと知ってこれ以上追求することは無かった。
「最近そいつとよく神室町歩いてるの見かけるんやけど。仲ええんか?」
「あいつが私の後ろを着いてきてるだけだ。私は迷惑なんだがな」
隠す気もなくさらりと放った瀬凪の発言に真島は彼女にバレないように顔を顰める。
それもそのはず。真島がいつも見ているのは、神室町で従業員である男と一緒に歩いている無表情ながらもどこか楽しそうな雰囲気の瀬凪だからだ。
男に連れ回される瀬凪は興味無さげな顔をしながらもそれなりに楽しんでいて、真島と接する時とは違った接し方を従業員の男にする。
それを遠目で見る度、真島は言いようのない腹立たしさを覚え、男と一緒に歩いて楽しそうにしている時の瀬凪がどうしようもなく嫌いだった。
つまらない、面白くない、瀬凪はお前のものでは無い。
凄まじい執着心と異常なまでの独占欲、そして嫉妬心。
恋人でもなんでもない瀬凪に対して真島は、いつも人知れず恋人のように嫉妬をして独占欲をむき出しにする。
「あんまオススメせーへんなぁ、あの男は。下心丸出しに見えるんやけど」
「いや、あいつはそんな奴じゃない……」
瀬凪は真島の言葉をあっさりと否定した。
冗談めいたものじゃなく本気で男を庇うような言い草の彼女に、真島の中で抑えていた歪な感情が蓋を壊そうと荒波を立て始める。
真島はいつもの笑顔を保っていられず、真顔になった。その目には怒りが含まれている。
「やめとけや。瀬凪、お前また後悔することになるで」
「……分かってる、そんなの」
小さく脅してみても、瀬凪の目は変わらなかった。
真島は彼女の一番の弱みを知っている。男の恐怖を嫌という程味わってきた瀬凪は二度と、人を好きになることは無いだろうと近付いてくる男達を片っ端から跳ね除けていた。
断固として心を開こうとしない瀬凪の心の隙間に従業員の男は巧みに入り込んで、彼女の核心に触れ、冷えきった心を温めたに違いない。
そうでもなければ、
「瀬凪、お前、」
そうでもなければ瀬凪はこんなにも苦しそうな顔はしていない。
彼女の表情は、恋に溺れてしまった一人の女性の表情だった。
たった一人の平凡な従業員が瀬凪の分厚い心の壁をいとも容易く壊し、彼女をここまで溺れさせた。
その事実が、真島の心の奥でずっと閉じ込めていた気持ちを強くさせ、嫉妬と独占欲でどす黒くコーティングされていく。
「何やねん。おもろないな」
「え?」
真島は革手袋をつけた手を瀬凪に向けて伸ばした。もう片方の手は未だに煙草を持ったままだで、役目を終えていく煙草の灰達が重たそうに俯いていて今にも落ちてしまいそうだ。
伸ばされた手はとん、と強めに瀬凪の肩を押し、彼女は背もたれに深く凭れながら驚いた顔をして真島を見つめる。
その顔すらも愛おしく憎らしい。いつからそんな顔もできるようになったのだろうか。
原因は他でもない瀬凪と一緒に街を出歩いていた従業員の男だ。
真島はこれ以上我慢が出来なくなっていた。狂ったような感情の渦が全て瀬凪に矛先が向いている。
互いに認め合っていた。名前の付けようのない深い共依存であることを。
二度とこんな人間は現れないとまで思っていたのに、瀬凪は真島以外に夢中になってしまう相手を見つけた。
裏切られた気持ちが余計にどす黒く色を変えていく。
「俺だけ見とったらええやん……俺やったらお前の事、」
「やめろ……それ以上言うなっ」
真島に肩を押さえられていた瀬凪が切実に彼の次の言葉を止めようとする。
真島はそれが気に入らなくて、瀬凪の後頭部を強く掴んで強引に唇を押し付けた。
「っ、!」
瀬凪の全身がぞわりと疼き、真島の肩を押して突き返そうと力を入れる。だが彼の力には到底敵わず、余計に口付けは激しさを増していった。
と、真島が体を強ばらせて動きを止めた。
瀬凪から顔を離せば、真島は舌を出してギラついた笑みを浮かべる。彼の舌には真っ赤な鮮血が流れていて、瀬凪は真島の舌に勢いに任せて噛み付いたらしい。
「どうやねん……こんな強引にされて、嫌やったんとちゃうか?男っちゅうんは皆こんなヤツらばっかや。それでもあの男が好きなんか?」
「ふざけるなっ、あいつは違うと言ってるだろっ。お前の裁量であいつを測るな!」
瀬凪が嫌がるようなことをしても、彼女はあの男を一心不乱に庇い続ける。
それが余計に真島をイラつかせてしまう原因になるとも知らずに。
「馬鹿やな。お前が今までされてきた事思い出してもそんな事が言えるんか?」
「……っ、」
苛立ちは次第に瀬凪の心を傷付ける言葉の刃へと変化し、彼女の心の中心部を大きくえぐりとっていく。
どうしても瀬凪を男の手に渡らせたくない、奴の手に渡るくらいなら自分が嫌われる事になろうとも瀬凪を止める。そんな一心で真島はひたすら言葉の暴力を浴びせた。
「そんなの確かめてみないと分からないだろ!」
真島の隻眼が大きく見開かれる。これだけの事を言われて尚、嫌な事を思い出させても、意思を変えようとしない瀬凪。
瀬凪の心はもう既に、男の手に渡っている。
真島は確信してしまった。もう自分では瀬凪の隣は埋まらないのだと。
「アホくさ……もうええわ……」
持っていた煙草を指先で弾いて飛ばす。
床に力無く落ちた煙草は火はついたまま。重たそうに傾いていた灰は飛び散って原型を留めていない。
真島は革手袋を両方とも取り外すと、デスクの上に無造作に放り投げて瀬凪に近づいた。
「っ!よせ真島っ、」
危機感を感じた瀬凪がいち早く動くが、真島は目にも止まらぬ速さで瀬凪の肩を掴んで椅子から立たせ、デスクに組み敷く。
背中を打ち付けた瀬凪は痛みに顔を歪ませながら真島の顔を睨みつけた。
「ははっ、その目や、その目が見たかった……俺が憎いんやろ?ほら、はよ抵抗しないと、」
そこで一旦言葉を止めた真島は、デスクに組み敷いた瀬凪の耳元に唇を寄せる。
そしてドスの効いた声で低く続けて呟いた。
「犯すで」
瀬凪の目は穴が開くのではないかと思うほど見開かれ、デスクに貼り付けられて自由の効かない手に渾身の力を込めて真島から逃れようとする。
しかし瀬凪の力では真島を退けることなど出来るわけなく、真島に肩を押さえつけられてしまい、渾身の抵抗はあっという間に意味を無くした。
「あーあ、流石に俺には敵わんよなぁ?昔もそうやったんやろ?男共にこんな風に押さえつけられて、」
真島が続けながら瀬凪の両手を片手で締め上げ、空いたもう片手で抵抗できない瀬凪の衣類を器用に脱がしていく。
「やめろっ、真島っ、よせっ」
「お前はどんな風に触られたんや?こうか?」
真島は瀬凪の静止の言葉もまともに聞かず、外したシャツのボタンの隙間から手を滑り込ませて、彼女の素肌に触れる。
途端に瀬凪の全身の肌が栗立ち、いつまで経っても慣れることの無い感覚に不快感と恐怖、そしてあの日の思い出したくもない記憶が全身を包むように蘇った。
無数の男に貪られ、道具のように乱暴に使われた。瀬凪の一生の心の傷。
真島は彼女の傷口に塩以上に痛む何かを刷り込んでいる。
「嫌やったら泣いて叫べばええやん。あの男が助けに来てくれるんちゃう?」
皮肉とは言え、男の事を話に出せば瀬凪の瞳は分かりやすいほどに揺れた。
それが嫌でたまらなく、真島は瀬凪のシャツを一気に取り去る。
「お前にもう一回、教えたる……男がどんだけ怖いんか。そしたらお前も考え直すやろ……?」
間違いだと分かっている。
だが決して塞がったりしない未だにまだ痛む傷を抉り返したとしても、一生恨まれても、
「瀬凪、」
誰かに取られるのなら、最後くらいは自分でいっぱいにしてやろうと、
「悪く思わんといてな……」
真島は心に残っていた最後の良心を捻り潰して、瀬凪の嫌がること全てを彼女の体に刻み込んだ。
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突き刺すような寒さを剥き出しの肌で感じて、真島は目を覚ました。
室内のソファで寝てしまっていた彼は上体をゆっくりと起こして寒さの根源に目を向ける。
窓の外では振り積もった雪が銀世界を作りあげており、ふわりふわりと今も尚雪は振り続けていた。
ふと、真島はある存在を気にして室内を見渡した。
「あいつ、どこ行ったんや……」
事を終えてそのまま互いに眠りに落ちてしまったのを最後に瀬凪は姿を消していて、真島は途端に不安な思いを募らせる。
あれだけ嫌がる事をやっておきながら心配するのは筋が通っていないのに。
真島はソファの上にあったジャケットを羽織って部屋中を探し回った。
トイレ、娯楽室、給湯室、物置部屋。
どこを探しても瀬凪はいない。
こうなってしまった以上有り得るのは、真島の強引なやり口に嫌気がさして出ていってしまったと予想するのが妥当だ。
つまるところ惚れた従業員の男の元にでも行ったのだろう。
「しゃーないよな……最悪なこと、したんやから……」
静かな室内で虚しく紡がれた言葉は更に真島の不安をあおり、それに伴って一人である寂しさも覚える。
今日はもう帰ってしまおうと、真島は瀬凪の残り香がまだ残る部屋を後にした。
玄関先まで向かい、扉を開けて外へ出ようとした時、横に設置されている部屋から音が聞こえた。
水が弾けるような音。
そこで真島はその部屋がお風呂場だと言うことを思い出す。前に雨に降られてびしょ濡れで瀬凪の会社を訪れた時に貸してもらったのだ。
やっと瀬凪の居場所が分かった真島は静かに脱衣所の前まで入った。
シャワーの音は聞こえず、代わりにちゃぽん、と水が弾ける音がまた聞こえた。どうやら瀬凪は湯船に浸かっているようだ。
瀬凪を見つけ出したのは良いものの、今後どうやって接していくのかを事前に考えず衝動的に行動していた真島は、この場にいるべきなのかそれとも会社内から出て姿を消した方がいいのか迷い始めた。
真島は瀬凪に嫌われるような事を沢山した。決して許されない事で、彼女はきっと真島の顔さえ見たくないだろう。
真島はこの場から黙って消えた方がいいと判断し、脱衣所から出ようと音を立てずに扉を開いた。
と、脱衣所から出ようとした時、瀬凪のいる風呂場から水の音以外の音が聞こえた事に気付き、真島は動きを止めて風呂場に耳を傾ける。
その音が何なのかを理解するのに、時間は1秒と要らなかった。
声を抑えず小さく嗚咽を漏らす瀬凪の声。
弱々しく、とても悲しそうに声を出して瀬凪は響き渡る風呂場の中で泣いていた。
真島がまだ寝ていると判断した上で、苦しさに耐えていた糸がたった今切れたのだろう。
大人になった瀬凪がこうして子供のように泣いている場面に直面したのは初めてだった。
「……はぁ、……」
真島はその場で壁にもたれてズルズルとへたりこむと、頭を抱え前髪をくしゃりと掴む。
瀬凪に嫌われるような事をした事実を今真正面から受け止めた真島は、ずっと感じないふりをしていた罪悪感と後悔に今更酷く苛まれた。
「最低やな……俺……」
瀬凪に聞こえないほど小さな声で、自分自身を罵倒する。
だがそんな事をしたところで、彼女の気持ちが変わってくれることなど無い。
贖罪なんて言葉は、通用しない。
それでも真島は瀬凪に聞こえないトーンでひたすらに口を開く。
「ごめんな……ホンマに……ごめんな……」
手足や指先を刺激する寒さはいつしか感覚が無くなるほど冷え込み、真島の心さえも冷たく色を吸い取っていく。
瀬凪にとって重い罪を背負ってしまった真島は、もう彼女の人生の中で生きていくことは出来ない。
二度と、あの頃の瀬凪の心は帰ってこない。
今日は十二月の二十五日。クリスマスの日であり、キリスト教の誕生を祝う聖なる日。
そして、真島と瀬凪にとっての、忘れることのない、最低で特別な日。
END