6章
ギルバートの手から伝わる体温は、劇薬で沸騰しかけていたジュードの意識を、より残酷に現実へと引き戻した。 抱擁というにはあまりに強く、骨が軋むほどの拘束。ジュードはその腕の中で、荒い呼吸を繰り返しながら、ボスの心音を全身で受け止めていた。
「……あ、……ボス……っ」
「黙れ。舌を噛み切りたくなければな」
ギルバートはジュードを床に組み敷くと、喉元までせり上がった黒い紋様を、まるで獲物の息の根を止めるかのように指先でなぞった。誘発剤の強制作用により、ジュードの濾過機能は限界を超えて回転し、体内の毒を処理しようと細胞が悲鳴を上げている。
ジュードの視界の端で、床に転がった鮮度計の数値が、激しいアラート音とともに「0.5%」まで急落した。それは、パラサイトとしての寿命が、あるいは人間としての命が、風前の灯火であることを示している。
「……ボス、銃は、……まだ……」
「そんなものはどうでもいい。ジュード、お前は今、俺を見ているか? それとも、俺という『機能』を見ているのか」
ギルバートの問いに、ジュードは虚ろな瞳を微かに揺らした。 彼にとって、ギルバートは「毒」を供給する源であり、自分を定義する絶対的な支配者だ。その視線に、道具以上の意味を見出すことは――彼が自分に課した禁忌に触れる。
「私は……、あなたの、汚れを……、……す、ための……」
「まだ言うか。この期に及んで、まだその壁を崩さないつもりか」
ギルバートはジュードの首筋に顔を埋め、理性をかなぐり捨てたように、その肌を激しく食んだ。愛撫などではない。それは、自分の名前すら呼ばない「完璧すぎる道具」を、強引に「生身の男」へと引きずり下ろそうとする、支配者の執念だった。
「っ……あ……ぐ、ぅッ!!」
ジュードの背中が大きく反る。 劇薬の苦痛と、主人の暴力的な情欲が混ざり合い、脳内は真っ白に塗りつぶされていく。 内側から焼き焦がされるような感覚のなかで、ジュードは初めて、ボスの背中に指を立てた。高級なシャツに爪が食い込み、布地が裂ける。
それは、道具としての「矜持」が崩れ始めた瞬間だった。
「……あ、……、……ギル……」
途切れそうな、意識の混濁が生んだ過ち。 あるいは、命の灯が消えかける刹那に漏れ出した、真実の欠片。
その呼び声を耳にした瞬間、ギルバートの動きが止まった。 彼はジュードの顔を覗き込み、苦悶に歪むその表情を、食い入るように見つめる。
「……今、なんと呼んだ」
「……っ、……いえ、……ボス、私は……」
ジュードは即座に理性をかき集め、虚無の仮面を被り直そうとした。 だが、一度溢れた水は戻らない。ギルバートは、狂喜とも絶望ともつかない歪んだ笑みを浮かべ、ジュードの首筋に埋め込まれた鮮度計を、その手で無理やり引き剥がした。
「あ……が、はッ……!!」
肉を割く衝撃と、鮮度計が引き抜かれる激痛にジュードが絶叫する。 床に転がったデバイスは、真っ赤な警告を発したまま砕け散り、沈黙した。
「数値など、もう必要ない。お前が道具であることをやめるまで、俺はこの毒を注ぎ続けてやる」
ギルバートは、血の滲むジュードの項を舌で舐り、再びその唇を奪った。 もはや、どちらが捕食者で、どちらが餌なのかも分からない。
嵐の夜、最上階の密室で。 壊れかけた「器」と、それを壊すことでしか繋がれない「支配者」は、真っ黒な依存の海へと深く、どこまでも深く沈んでいった。
「……あ、……ボス……っ」
「黙れ。舌を噛み切りたくなければな」
ギルバートはジュードを床に組み敷くと、喉元までせり上がった黒い紋様を、まるで獲物の息の根を止めるかのように指先でなぞった。誘発剤の強制作用により、ジュードの濾過機能は限界を超えて回転し、体内の毒を処理しようと細胞が悲鳴を上げている。
ジュードの視界の端で、床に転がった鮮度計の数値が、激しいアラート音とともに「0.5%」まで急落した。それは、パラサイトとしての寿命が、あるいは人間としての命が、風前の灯火であることを示している。
「……ボス、銃は、……まだ……」
「そんなものはどうでもいい。ジュード、お前は今、俺を見ているか? それとも、俺という『機能』を見ているのか」
ギルバートの問いに、ジュードは虚ろな瞳を微かに揺らした。 彼にとって、ギルバートは「毒」を供給する源であり、自分を定義する絶対的な支配者だ。その視線に、道具以上の意味を見出すことは――彼が自分に課した禁忌に触れる。
「私は……、あなたの、汚れを……、……す、ための……」
「まだ言うか。この期に及んで、まだその壁を崩さないつもりか」
ギルバートはジュードの首筋に顔を埋め、理性をかなぐり捨てたように、その肌を激しく食んだ。愛撫などではない。それは、自分の名前すら呼ばない「完璧すぎる道具」を、強引に「生身の男」へと引きずり下ろそうとする、支配者の執念だった。
「っ……あ……ぐ、ぅッ!!」
ジュードの背中が大きく反る。 劇薬の苦痛と、主人の暴力的な情欲が混ざり合い、脳内は真っ白に塗りつぶされていく。 内側から焼き焦がされるような感覚のなかで、ジュードは初めて、ボスの背中に指を立てた。高級なシャツに爪が食い込み、布地が裂ける。
それは、道具としての「矜持」が崩れ始めた瞬間だった。
「……あ、……、……ギル……」
途切れそうな、意識の混濁が生んだ過ち。 あるいは、命の灯が消えかける刹那に漏れ出した、真実の欠片。
その呼び声を耳にした瞬間、ギルバートの動きが止まった。 彼はジュードの顔を覗き込み、苦悶に歪むその表情を、食い入るように見つめる。
「……今、なんと呼んだ」
「……っ、……いえ、……ボス、私は……」
ジュードは即座に理性をかき集め、虚無の仮面を被り直そうとした。 だが、一度溢れた水は戻らない。ギルバートは、狂喜とも絶望ともつかない歪んだ笑みを浮かべ、ジュードの首筋に埋め込まれた鮮度計を、その手で無理やり引き剥がした。
「あ……が、はッ……!!」
肉を割く衝撃と、鮮度計が引き抜かれる激痛にジュードが絶叫する。 床に転がったデバイスは、真っ赤な警告を発したまま砕け散り、沈黙した。
「数値など、もう必要ない。お前が道具であることをやめるまで、俺はこの毒を注ぎ続けてやる」
ギルバートは、血の滲むジュードの項を舌で舐り、再びその唇を奪った。 もはや、どちらが捕食者で、どちらが餌なのかも分からない。
嵐の夜、最上階の密室で。 壊れかけた「器」と、それを壊すことでしか繋がれない「支配者」は、真っ黒な依存の海へと深く、どこまでも深く沈んでいった。