~地中に潜む脅威~

 城の外れにひっそりと建つ時計塔。
 時を告げる鐘と共に巨大な蛍煌石のモニュメントを頂くそこは、実は王都のちょうど中心。

 城でデュー達を待っていたトランシュは、中には入らずこの塔へ彼等を案内した。

「城の地下、って言ってたのにここなの?」

 イシェルナが王城を一瞥する。

「ここも城の一部だ。本来ならば立ち入りは禁止されているが……」

 トランシュが塔の入口を守る兵士に声をかけると、事前に話をつけていたのか兵士は道を開け敬礼した。

「私と一緒なら君達も入れるように話してある。さぁ、行こう」
「わかった」

 だが重い扉を開けると、そこに地下へおりる道はなかった。
 あるのは上へと続く階段のみ。

「……ありゃ?」
「どういう事ですか?」
「地下への道は封印が施されている」

 と、首を傾げる一行をよそにトランシュは懐から首飾りを取り出す。
 キィン、と甲高い音が響いたかと思えば、ただの床だった場所に階段が現れた。

「……ご丁寧なことだな」
「簡単に入られたら困る場所なんだ。それに、危険だからね」

 言いながらトランシュを先頭に、彼等は塔の地下へと足を踏み入れる。

 壁に沿うようにして長い螺旋階段が続いており、その先は深い闇に消えているためどれだけの長さかは想像もつかない。

「長っ……それになんか不気味じゃのぅ。イヤ~な感じがバリバリするのじゃ……」
「城の地下にこんな所が……」

 ミレニアとデューがそれぞれ感想を述べる。
 その声も足音も、闇の中に溶けて消えていく。

「この階段のさらに先……鬼が出るか蛇が出るか、ですね」
「鬼や蛇で済めばいいが……」

 自分で言った事にそれ以上に不吉な返しをされてリュナンは青ざめた。

「こ、怖い事言わないで下さいよ、旦那ぁ……」
「あ……す、すまない」

 怖がらせるつもりはなく、ただ純粋に思った事を口にしただけのオグマは申し訳なさそうに縮こまった。

 何せかつてない大事件の中心地に向かっているのだ。
 正直、何が待っていてもおかしくないだろう。

「ともあれ、気を引き締めて行かないとな」
「その通りだ。これから我々が向かうのは結界の外だからね」

 デューの言葉にトランシュが頷く。

 と、そこに疑問を感じてフィノが口を開く。

「……あの、結界の外って……?」
「そのままの意味だよ。王都全体を覆う結界と言っても地下深くまではその力は及ばない」

 王都の外からは城ごとすっぽり包み込んでいるように見える結界だが、地面の下がどうなっているのかまではわからない。

 地下深くまでどこまでもおりていけば、いつかは終わりに辿り着く事になるのは当然だろう。

「うわぁ……王都にいながらにして結界の外に出られるなんて、貴重な体験ですこと」

 リュナンが皮肉をこめて呟く。

「その上障気の大元に近付く訳だから、ここを一歩出れば障気と魔物が待ってる……という事よね」
「そりゃあ厳重に封印される訳じゃの~」
「元々は何かの儀式に使われる場所で魔物もいなかったんだ。魔物が現れたのは牙が生えて障気が発生してからで……」

 そうこうしているうちにトランシュの足が止まる。
 螺旋階段の終わりに古びた扉がぽつんと存在していた。

「……さっきも言ったがここから先は危険だ。準備はいいかい?」
「ああ」

 全員が頷くのを確認すると、トランシュは扉を開けた。
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