~地中に潜む脅威~

―マーブラム城・地下―

 扉を潜ると城の中とは景色が一転、広大な地下洞窟が一行を迎え入れた。

「どんより嫌な感じじゃの~」
「心なしか王都の外より障気が濃い気がしますね……」

 洞窟内はデュー達が王都に来るまでに見た光景と同じように、紫色の靄がかかっていた。
 それにこちらを窺う魔物達の気配が隠す事なく伝わってきて、いつ襲いかかってきてもおかしくない状態だ。

「これが王都のすぐ真下にあるとはにわかに信じがたいな」
「オグマはここの存在を知らなかったのか?」
「話には聞いていたが……」

 オグマは言葉を止め、考え込む。
 だが靴がざり、と硬い地面をする音が彼の思考を遮った。

「いいか、みんな……シュクルとミレニアを守りながら一気に行くぞ」

 デューが剣を構え、魔物との間合いを測りながら目配せをする。

「わしも戦うぞ!」
「よ……余もっ……」
「いいから守られてろ。今回はお前らの力が鍵なんだからな」

 守られるなど性に合わないミレニアが戦おうとするが、デューは静かにそれを制した。

「……その時が来たらお前の出番だから、な?」
「デュー……」

 いつもなら言われたぐらいで引き下がる彼女ではないのだが、この時のデューの目には穏やかながら有無を言わせない力が感じられた。

 自分より少し背が低い、子供のはずなのに……

(……なんか、変な感じなのじゃ……)

 しかしそんな思考にとらわれたのも一瞬のことで、周囲の殺気が膨れ上がり彼女も現実に引き戻された。

「……来ます!」
「来させるか、ってね!」

 一斉に飛び掛かる魔物達をリュナンが斧槍で豪快にひと薙ぎで吹っ飛ばす。

「豪快だな……」
「力技が取り柄なんでね☆」

 その間にフィノが術を発動させる。

「貫くは黒き剣……お願いっ!」

 地面から闇の剣が突き出し、魔物を串刺しにする。
 それだけでは終わらず、彼女は再び詠唱に入る。
 術を阻止しようと襲いかかる魔物には、オグマが素早くナイフを投げて命中させる。

「邪魔はさせない!」

 動きを止めた魔物に接近すると、彼はその俊敏さで圧倒的な手数を繰り出す。

「はぁっ!!」

 連続攻撃の最後に相手を浮かせ、魔力をこめたナイフの追撃を食らわせて退けた。

「術が得意分野だと思ってたけど……」
「さすが元騎士、だな」

 流麗な身のこなしに、ミレニア達のガードに入っていたイシェルナとデューから思わず嘆息が零れる。
 その間に時間稼ぎも済んで、フィノの杖がシャランと音を立てた。
 同時に光の円陣が足元に出現し、複数の魔物を囲む。

「弄ぶは気まぐれな女神、その掌中へ!」

 ふわ、と陣の中の魔物達の身体が浮き上がる。
 見えない力で成す術もなく高くまで持ち上げられたかと思えば上昇は止まり、そこから一気に落下させられた。

「見た目によらずえげつない術を使うのぅ……」

 派手で豪快な術ばかり使うミレニアが言えた事ではないだろう、とデューとシュクルが内心でツッコミを入れる。

「そろそろ頃合か……フィノ、オレと交代だ!」
「はいっ!」

 フィノがミレニアの側まで下がり、入れ替わりにデューが前線に飛び出す。
 それを見たリュナンがあからさまに嫌そうな顔をした。

「げっ、少年来ちゃったの?」
「オレが来ちゃ悪いか?」
「いやぁ……女の子がいた方が潤いが、ね……」
「知るか」

 前線メンバーが男性だけになったことを嘆く彼と、それを呆れ顔で睨むデュー。
 そんな会話を繰り広げながら、二人共きっちりと襲い来る魔物は捌いている。

「随分戦い慣れしているな……」
「頼もしい若者達だ」

 激しい戦いの最中だというのに、オグマはトランシュの呟きに笑みを浮かべた。
 と、彼は魔物の攻撃をかわしながら後退し、一旦距離をとる。

「怒りの雷帝よ、剣振り翳し相対する者に裁きを!」

 オグマが手を振り払うと凄まじい雷撃が落ち、多くの魔物を消し飛ばした。

「……貴方も、若者に譲るつもりはなさそうだ」

 クス、とトランシュが笑う。
 だがそれも一瞬で、奥から現れた一際凶暴な気配に一同の意識が釘付けになった。

「……大ボスの出現、ってとこですかね?」
「そのようだ」

 大柄な魔物は一行に睨みをきかせると、大気を震わせる咆哮をあげた。


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