7.優しい秘密が知りたいの
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7-2
「っはー!逃げ切った!!」
太陽のようにまぶしい笑顔。全力疾走していたというのに全く乱れていない呼吸。あそこの店うまかったなあ、と言うのは結構だが。
「エースさん」
「おう!なんだ?」
「なんで私まで一緒に逃げることになったんですか?」
「何となくだ!!」
そういわれるとは思ったが実際に言われると気が抜けてしまう。怒る気と言うか何か言う気も失せるというか、ある意味すごい人、エースさん。
時はベンチから立ち上がり、イゾウさんの方に行こうと思った瞬間にさかのぼる。イゾウさんの眉が一瞬ぴくっと上がり、何か言おうとしたまでは見て取れたが私が尋ねようとした瞬間、私の体は持ち上がっていた。
『逃げるぞ!』
と、言ったのはエースさんで。宣言通り彼は逃げた。私を担いで。
目を白黒させているうちにどんどんイゾウさんからは遠のき、代わりのように追いかけてくる人たちがエプロンをしているのを認めて私はやっとで状況を理解することとなった。
どうやら彼は食い逃げをし、その逃げている途中で私を見つけたから勢いで担いでしまったらしい。いや、なぜ。絶対一人で逃げたほうが早いのに。
「あの、エースさん」
「今度はなんだ?」
「降ろしてくださると助かります」
さすがに肩に担がれたままの状態はおなかがきつかった。悪ィ悪ィと降ろしてもらったのだが。ここで一つ問題が。
「落ちそう」
ここはどこかの家か店の屋根の上なのだ。
「じゃあ、担いでおくか?」
「いやそれは遠慮したいというか、重いでしょう」
「いや、全然」
降ろしてもらったものの、エースさんの手を離せない私を見てエースさんは笑った。軽いとは言うが、担がれるのは勘弁したい。イゾウさんもそうだが、どうして私をひょいひょい担ごうとするのか。
「落ちるなよ」
「降りるという選択肢はないんですか」
「もうちょっと落ち着いたらな」
にしし、と笑うエースさんは「まだ探してるだろうからもう少し経ってからの方がいいんだ」と慣れたように言うが、そもそもお金をちゃんと払えばいいのではと思った。よく食べる人だとは知っていたが外食はお金が足りないほどだとは……。いつも食事を作ってくれている4番隊の人たちも大変だ。
落ちるわけにはいかないのでおとなしく座っていれば「安全確保!」と手をつながれた。ぎゅうっと下心なしに絡められた手が温かい。たいして珍しい手でもないと思うけどエースさんはつないだ手を握ったり軽く振ったり、じっと見つめたりして……。
「エースさん何やってるんですか……?」
「能力者だから弾かれたのかと思ったんだけどなー。弾かれねェなと思ってな」
弾かれねェ方がいいからいいけど、とエースさんにもう一度手を握り直され笑顔を向けられる。エースさんはよく笑う人だ。その表情に裏表はなく、もちろんその笑顔に楽しさやうれしさ以外の感情は込められていない。とても分かりやすくて。
「エースさんはイゾウさんとは真逆ですね」
「んあ?イゾウ?」
エースさんの目がぱちぱちと瞬いている。どうして今イゾウの名前が出たんだ?と言わんばかりの表情に私は笑った。エースさんとイゾウさんを足して二で割ったらちょうどよさそうだ。
「エースさん、親父さんってどんな人ですか?」
きっとエースさんなら事実をそのまま話してくれるだろうと尋ねれば、途端に黒い目がぱっと輝きこっちを向いた。その反応だけで答えは聞かなくとも。
「親父はすっげーぞ!強ェし、俺たちのこと息子って呼んでくれるし、とにかくめちゃくちゃすげーんだ。ていうかユリトまだ親父にあってねェのかよ?ん、でも親父はお前のこと乗せるって言ったんだよな?あ?」
「イゾウさんが親父さんに話してくれたそうで」
「へえ!珍しいな、たいていはじめは親父に会うんだけどなー……?まあお前悪い奴じゃねえんだろ、マルコも何にも言わねえし」
大きな口から楽しそうに親父さんのエピソードが沢山語られる。内容は面白いのはもちろんのこと、その言葉には嘘がなくはつらつとしていて気持ちがいい。いかにエースさんが親父さんのことを尊敬し、慕い、愛しているかがよく伝わって私も家族のことを思い出しながら話を聞いた。
白ひげ海賊団に置いてクルーとはすなわち仲間であり家族であるのだとイゾウさんから聞いている。家族の大切さは知っているから、この船の人たちは幸せ者だなと思う。
「うちは家族を大切にするからな」と言ったイゾウさんに私は「私は家族じゃないですよね」と声に出して言ったことがある。イゾウさんはその時、「それは他の家族には言わないでおけよ」と笑った。
私は数日しか一緒にいないのに何となくイゾウさんの考えが分かった。イゾウさんの考え方や振る舞いは他の人と比べて少し日本人に似ている。一緒ではないけれど、たまに言葉にしない言葉があるところだとか、興味がないことには半歩引いて話を聞いてるところか。でも、周りは見ていていざとなれば口を出すところとか、何となく。
エースさんが太陽の笑みだとすると、イゾウさんは月の笑みだ。あの独特な笑みはとても魅力的だけど、あれこそ日本人に似ていて、あの笑みの意味を的確に読み取るのは難しい。
イゾウさんは私を助けてくれた時からあの食えない笑みばかり。数日過ごしたが、それはイゾウさんの癖らしいことは分かった。考えている時の癖。もちろん楽しんでるときも笑みを浮かべているのだけれど、イゾウさんは大抵考えている。食えない笑みを浮かべている間はいつも。
イゾウさんと早く合流したほうがいいだろうな、と思いつつエースさんがかなりめちゃくちゃに道を……と言うか、屋根の上とか裏路地とか道なき道を駆け抜けたせいで、自分がどこにいるのか全く分からない。これは船に戻った方が早いし、きっとイゾウさんもそうするに違いない。
エースさんが私を担いだ時のイゾウさんの顔を思い出す。早く戻ろう、そう思った。世話になっている人に無駄な心配はかけられない。
私はまだまだ語りたそうなエースさん悪いな、と思いつつ知りたいことは知れたから、とそっと制止をかけた。しかし、もう少し、と言ったエースさんの声は違う声にかき消された。
「『ホワイト・アウト!』」
ぱっとエースさんの目が見開かれたかと思うとぶわっと炎が広がった。それから巻き込まないようにかエースさんは軽く、いや、たぶん「軽く」私の肩を押したつもりだったのだと思うのだけれど、ヴァントさんにも言われたが彼らと私の力の差は天と地の差がある。だから。
「やっべ!!ユリト!」
ずるっと屋根から滑る体。エースさんが私に手を伸ばしたのが見えた。だが、バチ!という音とともにその手がはじかれて、エースさんが目を見開いた。が、私自身驚いていて。
「たしぎィ!!」
思わずぎゅっと目をつぶったが、衝撃は来なくて代わりにぼすんと何か柔らかいものに受け止められた。
耳元で大きな声が響いて思わず肩をびくつかせつつ、知らない声だと顔を上げれば2本の葉巻と白い髪が見えた。じろっと向けられた目はきついし、顔もいささか強面。いや、強面の人は別に船にもいるのだけれど、その気迫に少しだけ身を震わせてしまう。だけど、その印象とは別に、ポンとその男の大きな手の平が背を叩いた。
「けがはねェな?」
「は、はい」
はっとして素早く身を起こした。私の怪我はないがエースさんが。
慌ててエースさんの姿を探せば女の人と戦っていて、エースさんから出ているのか、炎がメラメラと周りを囲んでいた。そういえば、エースさんは能力者だったなといまさらイゾウさんに教えられていたことを思い出しながら、どうしたらいいのか頭をフル回転させた。
「お前は……白ひげのクルーか?」
葉巻の男に尋ねられ、私は返答に困った。正確にはクルーではないが、船に乗っているのは事実だ。ただ、素直に答えるべきか非常に悩むところで。
だって、エースさんが戦っているところを見るに、この人たちは海軍だ。仲間だとみられるのはたぶんあんまりよくないだろう。私は戦えないから捕まってしまえば面倒になる。
困っていればその人は眉を寄せて一瞬考えるそぶりを見せたが、それを中断させるように炎が周りを取り囲んだ。
「ユリト!走れ!!」
自分の周りを取り囲むすごい熱量に驚き、目を見開いた瞬間ばちっ!とまた派手な音とともに周りをはじいてしまった。それに驚いたし、炎と一緒にはじいてしまった葉巻の人が気になったけど、私に駆け寄り腕を掴んで走り出すエースさんには逆らえなくて。
ごめんなさい。でも私は悪いことしてないです。エースさんは食い逃げしてるけど。
待ちなさい!と叫ぶ女の人の声と、呆然と座り込んでいる男の人を後ろに私たちはその場を後にした。
「っはー!逃げ切った!!」
太陽のようにまぶしい笑顔。全力疾走していたというのに全く乱れていない呼吸。あそこの店うまかったなあ、と言うのは結構だが。
「エースさん」
「おう!なんだ?」
「なんで私まで一緒に逃げることになったんですか?」
「何となくだ!!」
そういわれるとは思ったが実際に言われると気が抜けてしまう。怒る気と言うか何か言う気も失せるというか、ある意味すごい人、エースさん。
時はベンチから立ち上がり、イゾウさんの方に行こうと思った瞬間にさかのぼる。イゾウさんの眉が一瞬ぴくっと上がり、何か言おうとしたまでは見て取れたが私が尋ねようとした瞬間、私の体は持ち上がっていた。
『逃げるぞ!』
と、言ったのはエースさんで。宣言通り彼は逃げた。私を担いで。
目を白黒させているうちにどんどんイゾウさんからは遠のき、代わりのように追いかけてくる人たちがエプロンをしているのを認めて私はやっとで状況を理解することとなった。
どうやら彼は食い逃げをし、その逃げている途中で私を見つけたから勢いで担いでしまったらしい。いや、なぜ。絶対一人で逃げたほうが早いのに。
「あの、エースさん」
「今度はなんだ?」
「降ろしてくださると助かります」
さすがに肩に担がれたままの状態はおなかがきつかった。悪ィ悪ィと降ろしてもらったのだが。ここで一つ問題が。
「落ちそう」
ここはどこかの家か店の屋根の上なのだ。
「じゃあ、担いでおくか?」
「いやそれは遠慮したいというか、重いでしょう」
「いや、全然」
降ろしてもらったものの、エースさんの手を離せない私を見てエースさんは笑った。軽いとは言うが、担がれるのは勘弁したい。イゾウさんもそうだが、どうして私をひょいひょい担ごうとするのか。
「落ちるなよ」
「降りるという選択肢はないんですか」
「もうちょっと落ち着いたらな」
にしし、と笑うエースさんは「まだ探してるだろうからもう少し経ってからの方がいいんだ」と慣れたように言うが、そもそもお金をちゃんと払えばいいのではと思った。よく食べる人だとは知っていたが外食はお金が足りないほどだとは……。いつも食事を作ってくれている4番隊の人たちも大変だ。
落ちるわけにはいかないのでおとなしく座っていれば「安全確保!」と手をつながれた。ぎゅうっと下心なしに絡められた手が温かい。たいして珍しい手でもないと思うけどエースさんはつないだ手を握ったり軽く振ったり、じっと見つめたりして……。
「エースさん何やってるんですか……?」
「能力者だから弾かれたのかと思ったんだけどなー。弾かれねェなと思ってな」
弾かれねェ方がいいからいいけど、とエースさんにもう一度手を握り直され笑顔を向けられる。エースさんはよく笑う人だ。その表情に裏表はなく、もちろんその笑顔に楽しさやうれしさ以外の感情は込められていない。とても分かりやすくて。
「エースさんはイゾウさんとは真逆ですね」
「んあ?イゾウ?」
エースさんの目がぱちぱちと瞬いている。どうして今イゾウの名前が出たんだ?と言わんばかりの表情に私は笑った。エースさんとイゾウさんを足して二で割ったらちょうどよさそうだ。
「エースさん、親父さんってどんな人ですか?」
きっとエースさんなら事実をそのまま話してくれるだろうと尋ねれば、途端に黒い目がぱっと輝きこっちを向いた。その反応だけで答えは聞かなくとも。
「親父はすっげーぞ!強ェし、俺たちのこと息子って呼んでくれるし、とにかくめちゃくちゃすげーんだ。ていうかユリトまだ親父にあってねェのかよ?ん、でも親父はお前のこと乗せるって言ったんだよな?あ?」
「イゾウさんが親父さんに話してくれたそうで」
「へえ!珍しいな、たいていはじめは親父に会うんだけどなー……?まあお前悪い奴じゃねえんだろ、マルコも何にも言わねえし」
大きな口から楽しそうに親父さんのエピソードが沢山語られる。内容は面白いのはもちろんのこと、その言葉には嘘がなくはつらつとしていて気持ちがいい。いかにエースさんが親父さんのことを尊敬し、慕い、愛しているかがよく伝わって私も家族のことを思い出しながら話を聞いた。
白ひげ海賊団に置いてクルーとはすなわち仲間であり家族であるのだとイゾウさんから聞いている。家族の大切さは知っているから、この船の人たちは幸せ者だなと思う。
「うちは家族を大切にするからな」と言ったイゾウさんに私は「私は家族じゃないですよね」と声に出して言ったことがある。イゾウさんはその時、「それは他の家族には言わないでおけよ」と笑った。
私は数日しか一緒にいないのに何となくイゾウさんの考えが分かった。イゾウさんの考え方や振る舞いは他の人と比べて少し日本人に似ている。一緒ではないけれど、たまに言葉にしない言葉があるところだとか、興味がないことには半歩引いて話を聞いてるところか。でも、周りは見ていていざとなれば口を出すところとか、何となく。
エースさんが太陽の笑みだとすると、イゾウさんは月の笑みだ。あの独特な笑みはとても魅力的だけど、あれこそ日本人に似ていて、あの笑みの意味を的確に読み取るのは難しい。
イゾウさんは私を助けてくれた時からあの食えない笑みばかり。数日過ごしたが、それはイゾウさんの癖らしいことは分かった。考えている時の癖。もちろん楽しんでるときも笑みを浮かべているのだけれど、イゾウさんは大抵考えている。食えない笑みを浮かべている間はいつも。
イゾウさんと早く合流したほうがいいだろうな、と思いつつエースさんがかなりめちゃくちゃに道を……と言うか、屋根の上とか裏路地とか道なき道を駆け抜けたせいで、自分がどこにいるのか全く分からない。これは船に戻った方が早いし、きっとイゾウさんもそうするに違いない。
エースさんが私を担いだ時のイゾウさんの顔を思い出す。早く戻ろう、そう思った。世話になっている人に無駄な心配はかけられない。
私はまだまだ語りたそうなエースさん悪いな、と思いつつ知りたいことは知れたから、とそっと制止をかけた。しかし、もう少し、と言ったエースさんの声は違う声にかき消された。
「『ホワイト・アウト!』」
ぱっとエースさんの目が見開かれたかと思うとぶわっと炎が広がった。それから巻き込まないようにかエースさんは軽く、いや、たぶん「軽く」私の肩を押したつもりだったのだと思うのだけれど、ヴァントさんにも言われたが彼らと私の力の差は天と地の差がある。だから。
「やっべ!!ユリト!」
ずるっと屋根から滑る体。エースさんが私に手を伸ばしたのが見えた。だが、バチ!という音とともにその手がはじかれて、エースさんが目を見開いた。が、私自身驚いていて。
「たしぎィ!!」
思わずぎゅっと目をつぶったが、衝撃は来なくて代わりにぼすんと何か柔らかいものに受け止められた。
耳元で大きな声が響いて思わず肩をびくつかせつつ、知らない声だと顔を上げれば2本の葉巻と白い髪が見えた。じろっと向けられた目はきついし、顔もいささか強面。いや、強面の人は別に船にもいるのだけれど、その気迫に少しだけ身を震わせてしまう。だけど、その印象とは別に、ポンとその男の大きな手の平が背を叩いた。
「けがはねェな?」
「は、はい」
はっとして素早く身を起こした。私の怪我はないがエースさんが。
慌ててエースさんの姿を探せば女の人と戦っていて、エースさんから出ているのか、炎がメラメラと周りを囲んでいた。そういえば、エースさんは能力者だったなといまさらイゾウさんに教えられていたことを思い出しながら、どうしたらいいのか頭をフル回転させた。
「お前は……白ひげのクルーか?」
葉巻の男に尋ねられ、私は返答に困った。正確にはクルーではないが、船に乗っているのは事実だ。ただ、素直に答えるべきか非常に悩むところで。
だって、エースさんが戦っているところを見るに、この人たちは海軍だ。仲間だとみられるのはたぶんあんまりよくないだろう。私は戦えないから捕まってしまえば面倒になる。
困っていればその人は眉を寄せて一瞬考えるそぶりを見せたが、それを中断させるように炎が周りを取り囲んだ。
「ユリト!走れ!!」
自分の周りを取り囲むすごい熱量に驚き、目を見開いた瞬間ばちっ!とまた派手な音とともに周りをはじいてしまった。それに驚いたし、炎と一緒にはじいてしまった葉巻の人が気になったけど、私に駆け寄り腕を掴んで走り出すエースさんには逆らえなくて。
ごめんなさい。でも私は悪いことしてないです。エースさんは食い逃げしてるけど。
待ちなさい!と叫ぶ女の人の声と、呆然と座り込んでいる男の人を後ろに私たちはその場を後にした。