Haruta
僕はとっても怒っている。
甲板で煙管をふかしていた男を感情に任せて殴り飛ばした。鈍い音と共に吹き飛んだのはイゾウだ。普段なら仮にも隊長格が無防備に吹き飛ぶなど絶対ありえない。けれどイゾウは大人しく吹き飛ばされるままで、少し甲板を転がったと思えばそのまま仰向けで寝っ転がった。本当に腹が立つ。
「バカなの?」
右の拳が少し痛い。あーあ、僕剣士なのに。手を痛めたらどうしてくれるんだ。
『シャグラだ』
目を覚ました彼女にイゾウはそう名乗った。その行動に僕を含め隊長達が息を飲んだり、「おい!?」と声を出したりしたが、本人といえば微動だにしず、彼女の反応でうるさかった男どもも全員動きを止めた。
彼女は微笑んで『はじめまして、シャグラさん』と言った。
「笑っちまうだろ、俺の名前も覚えてねェんだと」
「当たり前じゃん。船医の話聞いてた?脳みそ腐ってんの?」
寝そべったままそう言うイゾウに舌打ち一つ。この男はわざわざ試したのだ。わざと偽名を名乗り彼女が違和感を持つかを。アホすぎて笑えない。
派手な戦闘があった。戦闘に巻き込まれたらしいあの子は打ち所が悪かったらしく、気絶し、目を覚ましたが一部記憶がすっぽり抜けていた。
抜けていた記憶は恋人だったイゾウの記憶。あまりに大事な記憶だけ抜けているからマルコが能力者がいたかもなんて言っていたが全くの偶然だろうと僕は思う。だって記憶喪失になったのあの子だけだったもの。他の戦闘員に記憶喪失になった者はいないのはおかしい。
もちろんマルコが気を回してそう言ったのは分かってる。たまたま偶然大事な記憶が抜け落ちた、というより能力者のせいにしてしまった方が感情を向ける対象ができるから。そうするのも手だと思う。けれどこいつの態度は許せないから、僕はとりあえずもう一発殴った。
「記憶がなくなったぐらいであの子への気持ちがゼロになるなら僕が貰う」
言い切る前に発砲音。頬が切れて鋭い痛みが走った。こんな分かりやすい挑発に乗るのなら腹をくくれと言いたいものだ。
「ちゃんと名乗って『俺がお前の恋人だ』って何度だって教えてあげればいいじゃんか。嘘じゃないのにどうして隠すの?思い出されないのが怖いって馬鹿じゃないの?女々しすぎて笑えもしないんだけどちゃんとついてる?」
「うるせェ……」
この男は馬鹿だが馬鹿じゃない。だが踏ん切りがつかなくてズルズルと引きずっているのだろう。これだけ言われても動かないのにはほとほと呆れるが、ここまでする義理は……彼女にあるから僕は言う。
「あの子探してるよ、『私の恋人は誰ですか』ってね」
弾かれたように上がった顔を容赦なく殴りつけた。前からムカついてたんだよね、無駄に綺麗な顔してるからさぁ。そうでなくても前から殴りたいと思ってたし。
殴られてもう一度イゾウは甲板に転がったが今度はすぐに起き上がった。そして僕の横を駆け抜けていく時に「すまねェ」と。あーあ、本当に腹が立つ。
『私の恋人は誰ですか』
『僕だって言ってくれるの?』
記憶がなくたって体が覚えていることは多いのだ。記憶がないとはいえ、事実でないなら拒絶される。分かっていたのに試したのは僕も同じで、いやむしろ。
「馬鹿は僕かなあ」
全くムカつくコイビト達だ。
甲板で煙管をふかしていた男を感情に任せて殴り飛ばした。鈍い音と共に吹き飛んだのはイゾウだ。普段なら仮にも隊長格が無防備に吹き飛ぶなど絶対ありえない。けれどイゾウは大人しく吹き飛ばされるままで、少し甲板を転がったと思えばそのまま仰向けで寝っ転がった。本当に腹が立つ。
「バカなの?」
右の拳が少し痛い。あーあ、僕剣士なのに。手を痛めたらどうしてくれるんだ。
『シャグラだ』
目を覚ました彼女にイゾウはそう名乗った。その行動に僕を含め隊長達が息を飲んだり、「おい!?」と声を出したりしたが、本人といえば微動だにしず、彼女の反応でうるさかった男どもも全員動きを止めた。
彼女は微笑んで『はじめまして、シャグラさん』と言った。
「笑っちまうだろ、俺の名前も覚えてねェんだと」
「当たり前じゃん。船医の話聞いてた?脳みそ腐ってんの?」
寝そべったままそう言うイゾウに舌打ち一つ。この男はわざわざ試したのだ。わざと偽名を名乗り彼女が違和感を持つかを。アホすぎて笑えない。
派手な戦闘があった。戦闘に巻き込まれたらしいあの子は打ち所が悪かったらしく、気絶し、目を覚ましたが一部記憶がすっぽり抜けていた。
抜けていた記憶は恋人だったイゾウの記憶。あまりに大事な記憶だけ抜けているからマルコが能力者がいたかもなんて言っていたが全くの偶然だろうと僕は思う。だって記憶喪失になったのあの子だけだったもの。他の戦闘員に記憶喪失になった者はいないのはおかしい。
もちろんマルコが気を回してそう言ったのは分かってる。たまたま偶然大事な記憶が抜け落ちた、というより能力者のせいにしてしまった方が感情を向ける対象ができるから。そうするのも手だと思う。けれどこいつの態度は許せないから、僕はとりあえずもう一発殴った。
「記憶がなくなったぐらいであの子への気持ちがゼロになるなら僕が貰う」
言い切る前に発砲音。頬が切れて鋭い痛みが走った。こんな分かりやすい挑発に乗るのなら腹をくくれと言いたいものだ。
「ちゃんと名乗って『俺がお前の恋人だ』って何度だって教えてあげればいいじゃんか。嘘じゃないのにどうして隠すの?思い出されないのが怖いって馬鹿じゃないの?女々しすぎて笑えもしないんだけどちゃんとついてる?」
「うるせェ……」
この男は馬鹿だが馬鹿じゃない。だが踏ん切りがつかなくてズルズルと引きずっているのだろう。これだけ言われても動かないのにはほとほと呆れるが、ここまでする義理は……彼女にあるから僕は言う。
「あの子探してるよ、『私の恋人は誰ですか』ってね」
弾かれたように上がった顔を容赦なく殴りつけた。前からムカついてたんだよね、無駄に綺麗な顔してるからさぁ。そうでなくても前から殴りたいと思ってたし。
殴られてもう一度イゾウは甲板に転がったが今度はすぐに起き上がった。そして僕の横を駆け抜けていく時に「すまねェ」と。あーあ、本当に腹が立つ。
『私の恋人は誰ですか』
『僕だって言ってくれるの?』
記憶がなくたって体が覚えていることは多いのだ。記憶がないとはいえ、事実でないなら拒絶される。分かっていたのに試したのは僕も同じで、いやむしろ。
「馬鹿は僕かなあ」
全くムカつくコイビト達だ。