1.出会いは派手に、唐突に
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1.出会いは派手に、唐突に
「しつこい!!」
その夜私は全力で駅から自宅であるマンションの道をでたらめな道順で走っていた。電車に乗った時からまさかな、とは思っていたが嫌な予感ほど当たるもの、とは言ったものだ。まさかと思った人物が、そのまさか。無駄に予感が当たったせいで私はこうして月がきれいな花金の晩に、静かに杯を傾けるわけでもなく全力疾走するはめになっている。
全力疾走するのにヒールは不向きだから脱いでしまった。
アスファルトと裸足の足がこすれて痛い。けれど足を止めるわけにもいかず。
切れる息が限界を迎えそうだ。マンションに着くまでに巻く予定だったのに無駄に体力と根性がそいつにあるせいでこのままではマンションのセキュリティに頼るほかなさそうで。
―その根性をほかに使ってよね!!―
内心で悪態を付いたのが悪かったのかつん、と何かにつまずいた。
「痛ったー……」
大きく服と地面がこすれる音。
こんなに派手に転ぶのは幼少期以来だ。なんてそんなのんきなことを考えられるのも一瞬で、トットットと規則的な足音にさすがに血の気が引いた。
早く立って、マンションへ……!
頭では分かっているのに焦っているのか、転び方が悪かったのかうまく立てなくて。
どんどん近づく足音に思考が一周回って冷静になり、腹をくくるかと苦笑した。「リンは将来刺されて死んでそうで嫌」なんていつか友人が言っていたがあながち間違いじゃなかったかも、なんて。
ふと派手に転んだ体制のまま、顔を上げればマンションの光が見えてもう少しだったじゃんと自分にあきれた。何とも間抜けだと笑えばざりっと地面を踏む音がして。
「……大丈夫かよい」
落とされたのは予想に反して全く知らない声だった。
驚いて後ろを振り向けば、車のキーを指に引っかけた男が立っていた。
高そうなスーツをぴしりと着ていて、少しばかり眠たげな目をしている。金髪で個性的な髪形をしているが、割と美形。顔立ちが日本人ぽくないから外国人だろうか。いや、でも今かけられた声は日本語だったし。
違う、そんなことはどうでもよくて。
私が混乱しているのが分かったのか、その金髪の男はもう一度「大丈夫かい?」と尋ねてくれた。それに慌てて「あ、はい」と返せば立ち上がるのに手を貸してくれて少しばかり足が震えたが何とかしっかり立つことができた。
「……裸足かい?」
「あーすみません……明らかに怪しいとは思うんですけど、怪しいものではないです」
「全然説得力ないねい」
そういいつつも私の足を見て「痛そうだねい」と言うものだから私もホッと息を吐いた。どうやら即不審者として即刻通報されるのは免れそうだ。
「……後ろのは連れかい?」
転んだせいで汚れたスーツを払っていれば、男が拾っ鞄を渡してくれる直前に小声でそう尋ねてきた。私は驚いたがぱっと顔を上げて男の顔を見ればポーカーフェイス。けれどそのまっすぐな瞳の奥に少しだけその「後ろの」への警戒と私への心配が見えたから。
「いえ」
短い否定に男は「そうかい」と言って私の前に背を向けてしゃがんだ。困惑していれば首だけこちらに向けて「その足で歩くのは辛ェだろい」と。
実際足の裏はめちゃくちゃ痛いし、おまけに転んだ時にひねったのか足首も痛いからその申し出はありがたかったのだけれど私は戸惑った。だって、初対面だし……巻き込みたくはない。けれど男も引かなくて。
「家、どこだい?」
「そこのマンションの4階です」
「なんだ、一緒のマンションじゃねえか」
ならば余計遠慮をするなと促されて私はじゃあ、と遠慮がちにその背に乗った。
「しつこい!!」
その夜私は全力で駅から自宅であるマンションの道をでたらめな道順で走っていた。電車に乗った時からまさかな、とは思っていたが嫌な予感ほど当たるもの、とは言ったものだ。まさかと思った人物が、そのまさか。無駄に予感が当たったせいで私はこうして月がきれいな花金の晩に、静かに杯を傾けるわけでもなく全力疾走するはめになっている。
全力疾走するのにヒールは不向きだから脱いでしまった。
アスファルトと裸足の足がこすれて痛い。けれど足を止めるわけにもいかず。
切れる息が限界を迎えそうだ。マンションに着くまでに巻く予定だったのに無駄に体力と根性がそいつにあるせいでこのままではマンションのセキュリティに頼るほかなさそうで。
―その根性をほかに使ってよね!!―
内心で悪態を付いたのが悪かったのかつん、と何かにつまずいた。
「痛ったー……」
大きく服と地面がこすれる音。
こんなに派手に転ぶのは幼少期以来だ。なんてそんなのんきなことを考えられるのも一瞬で、トットットと規則的な足音にさすがに血の気が引いた。
早く立って、マンションへ……!
頭では分かっているのに焦っているのか、転び方が悪かったのかうまく立てなくて。
どんどん近づく足音に思考が一周回って冷静になり、腹をくくるかと苦笑した。「リンは将来刺されて死んでそうで嫌」なんていつか友人が言っていたがあながち間違いじゃなかったかも、なんて。
ふと派手に転んだ体制のまま、顔を上げればマンションの光が見えてもう少しだったじゃんと自分にあきれた。何とも間抜けだと笑えばざりっと地面を踏む音がして。
「……大丈夫かよい」
落とされたのは予想に反して全く知らない声だった。
驚いて後ろを振り向けば、車のキーを指に引っかけた男が立っていた。
高そうなスーツをぴしりと着ていて、少しばかり眠たげな目をしている。金髪で個性的な髪形をしているが、割と美形。顔立ちが日本人ぽくないから外国人だろうか。いや、でも今かけられた声は日本語だったし。
違う、そんなことはどうでもよくて。
私が混乱しているのが分かったのか、その金髪の男はもう一度「大丈夫かい?」と尋ねてくれた。それに慌てて「あ、はい」と返せば立ち上がるのに手を貸してくれて少しばかり足が震えたが何とかしっかり立つことができた。
「……裸足かい?」
「あーすみません……明らかに怪しいとは思うんですけど、怪しいものではないです」
「全然説得力ないねい」
そういいつつも私の足を見て「痛そうだねい」と言うものだから私もホッと息を吐いた。どうやら即不審者として即刻通報されるのは免れそうだ。
「……後ろのは連れかい?」
転んだせいで汚れたスーツを払っていれば、男が拾っ鞄を渡してくれる直前に小声でそう尋ねてきた。私は驚いたがぱっと顔を上げて男の顔を見ればポーカーフェイス。けれどそのまっすぐな瞳の奥に少しだけその「後ろの」への警戒と私への心配が見えたから。
「いえ」
短い否定に男は「そうかい」と言って私の前に背を向けてしゃがんだ。困惑していれば首だけこちらに向けて「その足で歩くのは辛ェだろい」と。
実際足の裏はめちゃくちゃ痛いし、おまけに転んだ時にひねったのか足首も痛いからその申し出はありがたかったのだけれど私は戸惑った。だって、初対面だし……巻き込みたくはない。けれど男も引かなくて。
「家、どこだい?」
「そこのマンションの4階です」
「なんだ、一緒のマンションじゃねえか」
ならば余計遠慮をするなと促されて私はじゃあ、と遠慮がちにその背に乗った。
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